ポスターに隠された意味、いま明かされる宮崎駿・高畑勲伝説【ほぼ全文書き起こし】映画「夢と狂気の王国」公開記念鼎談(2/5 ページ)

» 2013年11月20日 22時23分 公開
[高橋史彦,ねとらぼ]

庵野監督が堀越二郎に決まった瞬間

石井 あとは庵野監督。庵野さんが、主人公の堀越二郎に決まった時がまるまる映っていて、アフレコが終わって鈴木さんの車に乗っているシーンまであって、これは庵野監督が宮崎・高畑さんをどう思っていて、何を受け継ごうとしているのかが結構語られるんですよ。

川上 あのシーンは相当面白いですね。

石井 ちなみに宮崎吾朗監督と川上プロデューサーの対峙シーンは、心臓がドキドキして画面を見られませんでした

川上 僕が怒られてるシーンですね。あれは本当に申し訳ないと思っていて。僕が出てるシーンは全部カットしてほしかったんですが、プロデューサーとしては、砂田さんが演出上必要だと思うシーンには、口出すべきじゃないと思って。

齋藤 そこは、やっぱり吾朗監督と川上さんのシーンみたいに、砂田監督とも同じように薄暗いところでやりあったりしたんですか?

川上 あのシーンはね、すごく怒ってましたよね、吾朗さんね。僕は今回プロデューサーってことなんですが、はっきり言ってあまり仕事してないんですよ。素人だし。

齋藤 それだと映画できないと思いますよ。やっぱり監督とプロデューサー両方いないと。

川上 吾朗さんとも、いろいろやってるんですけど。やっぱり僕があまりにも仕事をしなくて、すごく怒ってるシーンなんですよね。それがね、皆さんご覧になると「僕が仕事してるんだ」って一般的には思われそうなんですよ。それが、すごく心苦しくて(笑)。

石井 でもね、監督とプロデューサーって、ああいう状況になるんですよね。ほんとうに、にらみあいになるんですよ。向かい合って1時間ぐらいにらみあいになったりするじゃないですか。細田さんはもっと長いか。

齋藤 いやいや、そんなことないですけど。うちはそんなことしませんからね。

川上 ほんとですか? さっき、この番組を細田さんが見てるんじゃないかとか(笑)。

齋藤 全世界の人が見てますよ!

石井 ああいう現場が映ってるのはすごいですよね。そういう監督とプロデューサーの対峙する場面みたいなものも入ってて、あれが夢と狂気の「狂気」の部分ですよね

齋藤 やっぱりものを作るって、みんな真剣になって、ひとつのことを積み上げていくみたいなとこがあるじゃないですか。そういう意味でいうと、もっと激しいとこいっぱいあったんじゃないの? とは感じますよね。

川上 仕事が出来るかどうかは別にして、監督とプロデューサーの関係性はある程度分かったと思いました。クリエイターの監督って基本コントロールが効かないじゃないですか。いろんな人が監督と軋れきがあるんだろうけど、そのなかで真っ向から対峙しなきゃいけないのがプロデューサーじゃないですか。対峙できない人と対峙しなきゃいけないことが、プロデューサーの仕事ですよね。

齋藤 目指してるゴールが一緒なら、最終的には意見も一致するとは思います。

「結局は運と縁」――宮崎監督の言葉

石井 これまでのドキュメンタリー番組は夢と狂気をそのまま映していた作品が多かったんですよね。ずっとカメラ構えてれば、宮崎さんが怒るとこも撮れるし、鈴木さんが机をぶったたくとこも撮れる。ただ今回は、ものすごく優しい視点で、小人がジブリの森に迷い込んで、じーっときれいなフィルタで見ながら、でも、やっぱり光の奥に闇があるな、みたいな。すごく心地良いけどヒリヒリするドキュメンタリーになったと思います。

川上 今までは、宮崎駿のドキュメンタリーだったけど、今回は宮崎駿が生きてる世界を描いたドキュメンタリーですよね。

石井 これから仕事を始めようとしてる人には、特に勧めたい。今は仕事を始めると、ついつい自分の夢のために、自分の自己実現のためにとかなりがちじゃないですか。それで、宮崎駿監督のように、世界の頂点を極めた、いわゆる作家ですよ。一番自分にオリジナリティのある人が、実はものを作るときに、誰かのためにとか、他者のためにとか、クライマックスの宮崎さんのセリフが象徴的で、「結局、運と縁なんですよ」と。運と縁がないと良い仕事もできない。この宮崎さんの考えを受け取ると、たぶんすごい豊かな仕事ができると思います。僕もギスギスしていた気持ちを洗われました

齋藤 それは、僕も背筋がシャンとしました。やれることはまだまだあるなと。鈴木さんとか、いつ寝てるの? みたいな感じで。鈴木さんよりずっと若い僕はそういう意味でいうと、寝てる場合じゃないなって思う。

川上 クリエイターは勇気づけられますよね、この映画は。頑張らなきゃって気になりますよね。

石井 1人でもんもんと自分から生み出されるのを待ってるんじゃなくてね、宮崎さんががむしゃらにいろんな人との関わりのなかでものを作ってるっていう。

川上 実際はね、ヤクルト買ったりとかね(笑)。

石井 (映画に)ヤクルトおばちゃんは、出てきすぎですよね(笑)。

齋藤 でも、ウシコっていう、かわいいネコちゃんもいっぱい出てくるからね。ネコファンも、ヤクルトのおばさまファンも含めて、みんなが楽しめる映画ですよ。

画像 ニコ生の中継も盛り上がった

川上 何をいっぱい出してるんだみたいな、そんな感じですよね。もうすぐ、皆さんご覧になられると思いますので。その前に「パンダコパンダ」がありますけどね。実は、僕も見たことないんですよね。

石井 めちゃくちゃすごい映画です。「トトロ」の原点だし、「火垂るの墓」も入ってるし。そもそも、高畑さんと宮崎さんがやりたかった、あるヨーロッパの原作の許諾がおりなくて、それで絶望して作ったのが「パンダコパンダ」で。「ポニョ」もそう。「パンダコパンダ 雨ふりサーカス」はまさに「ポニョ」ですよ。

齋藤 今は歴代の監督作品がいろんな形で見られるようになってますね。歴史の文脈が埋まっていくと、より作品が楽しめるようになります。

石井 ぜひ劇場で見てもらいたいですね。「かぐや姫の物語」を見る前に見ても大丈夫です。「風立ちぬ」は結構影響でちゃうかもしれませんけど。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

先週の総合アクセスTOP10
  1. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  2. 富山県警のX投稿に登場の女性白バイ隊員に過去一注目集まる「可愛い過ぎて、取締り情報が入ってこない」
  3. 2カ月赤ちゃん、おばあちゃんに少々強引な寝かしつけをされると…… コントのようなオチに「爆笑!」「可愛すぎて無事昇天」
  4. 異世界転生したローソン出現 ラスボスに挑む前のショップみたいで「合成かと思った」「日本にあるんだ」
  5. 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
  6. 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  7. 1歳赤ちゃん、寝る時間に現れないと思ったら…… 思わぬお仲間連れとご紹介が「めっちゃくちゃ可愛い」と220万再生
  8. 業務スーパーで買ったアサリに豆乳を与えて育てたら…… 数日後の摩訶不思議な変化に「面白い」「ちゃんと豆乳を食べてた?」
  9. 祖母から継いだ築80年の古家で「謎の箱」を発見→開けてみると…… 驚きの中身に「うわー!スゴッ」「かなり高価だと思いますよ!」
  10. 「ゆるキャン△」のイメージビジュアルそのまま? 工事の看板イラストが登場キャラにしか見えない 工事担当者「狙いました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」