ポスターに隠された意味、いま明かされる宮崎駿・高畑勲伝説【ほぼ全文書き起こし】映画「夢と狂気の王国」公開記念鼎談(4/5 ページ)

» 2013年11月20日 22時23分 公開
[高橋史彦,ねとらぼ]

まばたきも惜しいほど 「かぐや姫の物語」

石井 「かぐや姫の物語」は、2時間17分まばたきするのも惜しいくらい、口をあんぐり開けたまま、ただただ見続けました。

川上 短かったですね。

石井 ほんとに一瞬に感じたんですよね。高畑勲という世界一の演出家の手練手管に、ただただ感動なんですけど、やっぱり一番大きいのは、描いた絵のすさまじさ。手で描いた絵が、目の前で動くだけで、これだけ人間って脳味噌から快感物質が出るんだみたいな。

川上 長いじゃないですか、2時間17分って。だから、いろんな要素を詰め込んで、ダラダラしてるのかなと思ったら、そんなことはなくって、ほんとに必要なものしか入ってないですよね。

石井 元々は3時間以上あったんですよね。

齋藤 脚本の初期段階はもっとあったって聞いてて。むしろ、それ全部やってほしかった。

川上 「となりの山田くん」のときも、最初のシナリオは、8時間あったっていう話で。

石井 そうですよね。鈴木さんと高畑さんが、会議室で怒鳴り合いをしてるのを、僕ら見てましたけどね(笑)。

齋藤 そういうのは往々にしてありますよね(笑)。

石井 どうするんだみたいな。「かぐや姫」は本当に短く感じましたね。無駄なところが1つもない

齋藤 誰もが知ってるはずの「かぐや姫」をほんとに堂々とやってる。当然、絵の部分とか、音楽もそうだし主題歌もそうだし、語りつくせないくらいあるんだけど、1つの言葉でまとめると、堂々とした映画です。これはなかなかできない。

川上 僕もいろんな人に「かぐや姫の物語」は、本当にすごいって絶賛するんですよね。で、絶賛すると、みんなから「へーどんな話なの?」ってきかれるんですけど、そしたら「竹から生まれた女の子が、月に帰る話」って(笑)。

石井 今回、高畑さんってすごいなと思ったのは、なんでいろんな星がいっぱいある中でね、月から地球を選んだのか、っていうところから物語を始めている。それで、展開する物語は、基本的には原作通りなんだけど、その1シーン1シーンに高畑さんの言いたいことがあって、最後に、ほにゃららになるじゃないですか。

画像 「かぐや姫の物語」完成報告会見での高畑監督

齋藤 今まで古典も読んでて、なんとなく知ってるじゃないですか。知ってるけど、改めて「かぐや姫」ってこういう話だったんだっていうことを、原作と対比がどうこうじゃなくて、「きっと、こういうことだったんだ」と。

川上 高畑解釈の「かぐや姫」って感じでもないんですよ。高畑さんが学者として、「本当の『かぐや姫』はこうだったんだ」っていうのを解明したって感じなんですよね。こっちがほんとうの話だろうっていうね。

石井 かぐや姫、かわいいですよね。

川上 そうなんですよ。見てるとかわいくなってくるんですよね。

石井 ドキドキするぐらい美少女で。ナウシカのような、シータのようなね。なかなか宣伝の絵柄だと伝わらないかもしれないけど、ほんとにかわいい恋しちゃうようなキャラクターですね。

齋藤 魅力があふれてますよね。子ども時代のかぐや姫が愛らしくて。うちも、子どもが最近生まれたばっかりだったりするんだけど。ほんとに、自分の娘と同じぐらい愛せるんじゃないかってぐらい。

石井 あと、着物の着方とかね。帯がなんで横についてるのかとか、謁見してるときの帯はどうなっていたのかとかまで、全部調べて作ってあるから、そこを見てるだけでも楽しい。明日、日本が沈没するとしたら、タイムカプセルにこの「かぐや姫の物語」のBlu-ray Discを入れてですね、「これが日本だったんだ」って伝えたい

齋藤 再生機も残しといたほうがいいと思うよ。

石井 それくらい、「あ、日本ってこうだったんだ」っていうことが、再発見される映画です。

川上 「かぐや姫の物語」ってアニメーションとしては、相当特殊なことをして作ってるじゃないですか。ああいうアニメーションの技法とかに関して、今後のアニメーションになにか影響を与えるんですかね?

石井 物量で説明すると、冗談みたいな話なんですけど、僕らが作るテレビシリーズ1話分、22分なんですけど。それの作画枚数と、高畑監督の「かぐや姫」の1カットの作画枚数が同じだったりするんです。もっと多いかもしれない。そういう意味で、僕らは西村くんと違って絶対やりたくないですよ。やっぱりアニメって、どんどん緻密化に向かうんですよね。緻密化か、キャラクター化か、どっちか。で、ある意味、それと真逆なことをしてるわけですよね。実際に人間が描いた筆のような線と、ものすごく余白と空間を意識して作ったものなんだけど。

川上 情報量減りながら、作業量が増えてるんですよね。

石井 そう。Production I.Gのスタジオ中で衝撃を受けたんですが、これまで、ある程度積み重ねをして、クオリティーを上げていく方向だったのに、これだけ省略化された世界のほうが感動的になると。

齋藤 アニメーションって、1コマ1コマ絵の繋がりじゃないですか。その、1枚絵としての魅力、1枚絵が連なって動いたときの魅力が、「かぐや姫」は気持ちに迫ってくるっていうことがあるんだと思いますよ

川上 「かぐや姫」は、ほんとうに絵がきれいですよね。完成してますよね、絵として。

齋藤 絵画の魅力というものに近いかもしれませんよ。それを連続性で見れるみたいな。

川上 製作途中に、美術の男鹿和雄さんの部屋に入ったんですけど、もう完全に画廊にしか見えないんですよね。アニメの制作現場じゃないんですよね。京都かなんかの、和紙を売ってる店に見えるんですよね。

石井 だからね、問題発言しますけど、50億円でもこの作品は安いですよ。国宝ですよ。価値が付けられない作品が生まれたという気がします

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