「このマンガがすごい!」にランクインしなかったけどすごい! 2014――を選んでみました:虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第11回(3/4 ページ)
第3位「満ちても欠けても」(水谷フーカ)
第3位は女性誌「Kiss+」にて連載されている水谷フーカ先生の「満ちても欠けても」。水谷先生はこの2、3年で大きな注目を集めるようになった、今最も勢いのあるマンガ家さんの1人です。社主が水谷先生を知ったのはそれより少し前、司書房版「チュニクチュニカ」の表紙に惹かれて買ったときだったと記憶しています。ファンタジー作品である同作を読んで「よし、この人は作者買いしよう」と即断。以降は「水谷フーカ」と名のつく新刊は全て欠かさず買い続けています。
今年発売された水谷作品は3作で、どれも甲乙つけがたいのですが、まだ第1巻が発売されただけの「満ちても欠けても」を選びました。
本作は、AM局「ラジオ雛菊」の深夜番組「ミッドナイトムーン」の制作現場を舞台にしたオムニバス。番組を作る5人のスタッフ、新人アナ、実ははがき職人の局内喫茶のお姉さんなど、ラジオ雛菊の人たち1人1人を毎回の主人公として焦点を当てていきます。回を重ねていくごとに作品世界が充実していくオムニバス作品ならではの面白さはもちろんのこと、個性的な人物たちの人間関係は毎回読み手を飽きさせません。
特に面白かったのは第5回「中村慧尋(さとひろ)の場合」。ミッドナイトムーンの常連投稿者で作家志望の「エチケット将軍」こと、西国まつりが、番組の構成担当中村慧尋に付いて作家修行に臨むというストーリー。
キノコカットにメガネで猫背気味、冴えない風貌の中村氏に、常連投稿者としてのプライドからか、半ば見下しながら与えられたお題をこなしていくまつり。しかし中村氏に付き合っていく中で、次第に「面白ネタさえ書ければそれでいい」と思い込んでいた己の甘さと、プロ放送作家の凄さを痛感させられます。
甘いね
青くて
まだ何も知らないくせに
気だけは大きくて
昔の僕にそっくりだ
まつりに語る中村氏の言葉には、職業作家としての重みがあります。
社主もたまに「昔どこかではがき職人やってたりしませんでしたか?」と聞かれるのですが、投稿したことは一度もありません。なぜかと言うと、知り合い(と言っても、親ほど歳が離れていますが)に構成作家さんがいて、その世界の厳しさを知っていたからです。文章力だけでなく、充実した人間関係を構築できるだけの社交性、人を立てる気遣いなど、さまざまな能力が求められる放送界の現実を知り、とても自分はこの世界で生きていけないな、と。なのに今こうして、物書きの端くれとしてマンガレビューを書かせてもらっているのは、何とも不思議な縁です。インターネットがなければ、「社主UK」は存在しえませんでした。ありがたや。
水谷作品の特徴はやさしさと安心感。何となく社主のイメージとしては、浅野りん先生の存在感に近いものがあります。どれを読んでも確実に平均点以上に満足させてくれる優等生といった感じでしょうか。
第4位「放課後カルテ」(日生マユ)
第4位は女性誌「BE・LOVE」にて連載中、日生マユ先生の「放課後カルテ」(1〜5巻、以下続刊)。
産休の養護教諭に代わってやってきた医師・牧野。子どもをにらみつけるような目つき、乱暴な言葉遣い、不愛想など、よりにもよってどうして小学校の保健医に着任してきたのかと思えるほど扱いにくい人物ながら、子どもたちの体調不良を誰よりいち早く見抜くなど、医者としての実力は相当のもの。
児童にも起こる過眠症や拒食症、また児童虐待、自傷行為など、若干シリアスなテーマも含まれており、今回のベスト10の中ではやや異色の作品ですが、重くなりすぎないようコミカルなシーンも要所要所に挟んでいるので、各話しっかりした満足感と読みごたえを味わわせてくれます。
本作を読んで思うのは、子どもの病気の中には、その背後に家庭環境が影響しているものが少なくないという事実。両親の不和、ネグレクトなど、家庭問題のしわ寄せは往々にして子どもにのしかかります。それが直接の原因になることもあるし、病状を悪化させてしまうこともある。そういう意味では、子どもを持つ親にもぜひ読んでほしい作品です。
子どもに対する接し方が下手で不器用、けれども実は教師より親よりも子どものことを考えている牧野。昨年完結した瀬川藤子先生の「VIVO!」(全3巻/マッグガーデン)に登場する教師・ナカムラといい、一見ただの横暴な教育者だけど、その実、誰よりも子どものことを考えているキャラクターというのは本当に魅力的ですね。こういうアクロバティックな振る舞いができる人間が現実にはそうめったにいないからでしょう。
なお最新第5巻では、牧野が小学校に着任する以前、小児科医だった頃の「病院編」に突入。それまで小学校内の児童に向けられていた焦点が一転、彼の過去に当たります。乞うご期待。
第5位「向ヒ兎堂日記」(鷹野久)
第5位は「月刊コミック@バンチ」(新潮社)で連載中、鷹野久先生の「向ヒ兎堂日記」(1〜3巻、以下続刊)。
以前本連載で少し「蟲師」について触れましたが、社主はこの種の古風な「あやかし譚」が大好きで、緑川ゆき先生の「夏目友人帳」はもちろん、古くは「妖幻の血」(赤美潤一郎)、「本の元の穴の中」(天乃タカ)なども楽しく読んできました。そんな「あやかし譚」ジャンルで今年注目したのがこの「向ヒ兎堂日記」です。
物語は明治初頭。文明開化にまい進する政府は、妖怪に関する書物や怪談を禁止する「違式怪異条例」を発布。そんな中、妖怪を扱う本を隠れて収集する貸本屋「向ヒ兎堂」とその主人・兎崎伊織と、彼と一緒に暮らす化けタヌキの千代、猫又の銀らが、店にやってくる妖怪の悩みを解決していくというもの。
その後ストーリーは、政府が作った「違式怪異取締局」や、妖怪と同様、近代化にともなって、その存在が葬られつつあった陰陽師を巻き込み大きく発展していきます。
個人的には連載当初の1話完結型妖怪お悩み相談室の方が好みではありますが、これもまた続きが気になる良作の1つ。後に産業革命と科学至上主義が到来することを知っている2013年の我々にとって、近代の夜明け前が舞台の「あやかし譚」って、時代とともにただ消えていくしかない運命であることが分かっているだけに、そのはかなさこそが最大の魅力だと思うのです。
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