“敵”が“先生”になる日――コンピュータ将棋ソフト開発者 一丸貴則さん・山本一成さん(後編)(3/4 ページ)

» 2014年04月25日 11時00分 公開
[杉本吏ITmedia]

機械学習の限界

 前編でも示した通り、現在のコンピュータ将棋はプロ棋士の残した膨大な棋譜をソフト自身が自動解析することによって日々強くなっている。言わばプロ棋士が“教師”で、その棋譜が“問題集”だったというわけだ。しかしいつの日か、コンピュータと人間の実力が完全に逆転してしまう日が来るのだとしたら、このままの学習法では立ち行かなくなるのではないか。

 「そのことはずっと考えています。例えばですけど、羽生さんってたぶん、他の人の棋譜並べ※してるだけじゃもう強くなれないですよね? 自分で教師を選んで、自分で問題を設定して成長していかない限りは。トップの人たちってそういうことをしないと強くなれないと思うし、コンピュータ将棋もそういうレベルに達していると思うんです」(山本さん)

※他者が指した将棋の棋譜を自分ひとりで並べ直し、指し手の傾向や考え方を理解するための勉強法

 山本さんは将棋以外にもオセロやバックギャモン、チェス、チェッカーなどの盤上ゲームにおいて、コンピュータソフトと人間の関係がどう変遷してきたのかを調べている。「現在のコンピュータオセロはまさにモデルケースで、少数の人間の棋譜と、多数のコンピュータソフトの棋譜を混ぜ合わせて学習させているんです。人間の多様な動きがサンプルに少しだけ混じっていると良いみたいです。バックギャモンも、ソフトの自己対戦から評価関数を生成することですごくレベルが上がりました」

“敵”が“先生”になる日

 山本さんの考える将来のコンピュータ将棋の理想像は、人間のための「ラーニングツール」だ。実際にバックギャモンのプロも、チェスのプロも、ソフトを教師役として使うことで自分の実力を向上させてきた。将棋でも近い将来に同様のことが起こるのは、ほぼ間違いないと見る。

 電王戦でソフトが指した手の中には、一見して人間の直観を外れるようなものが数多くあった。その後時間を掛けて詳しくその手を精査してみると、有力な一手であることが分かるのだ。ここ数年、そうしたソフトによる「新手」を自身の対局で採用するプロ棋士も増えてきた。

 「floodgate」(フラッドゲート)と呼ばれる場がある。ここでは、さまざまなコンピュータ将棋ソフト同士が専用サーバ上で一日中自動対局を繰り返している。人間に匹敵しうる実力を備えたソフトが、人間には到底不可能な速度で、新たな棋譜を今この瞬間も生み出し続けているのだ。現状ではソフト間の実力もばらばらだが、その中には前述したような「新手」が埋もれている宝の山である可能性も高い。過去には“敵”として捉えられていたコンピュータソフトが、人類の“先生”となる日も遠くはないのだろうか。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

先週の総合アクセスTOP10
  1. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  2. 富山県警のX投稿に登場の女性白バイ隊員に過去一注目集まる「可愛い過ぎて、取締り情報が入ってこない」
  3. 2カ月赤ちゃん、おばあちゃんに少々強引な寝かしつけをされると…… コントのようなオチに「爆笑!」「可愛すぎて無事昇天」
  4. 異世界転生したローソン出現 ラスボスに挑む前のショップみたいで「合成かと思った」「日本にあるんだ」
  5. 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
  6. 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  7. 1歳赤ちゃん、寝る時間に現れないと思ったら…… 思わぬお仲間連れとご紹介が「めっちゃくちゃ可愛い」と220万再生
  8. 業務スーパーで買ったアサリに豆乳を与えて育てたら…… 数日後の摩訶不思議な変化に「面白い」「ちゃんと豆乳を食べてた?」
  9. 祖母から継いだ築80年の古家で「謎の箱」を発見→開けてみると…… 驚きの中身に「うわー!スゴッ」「かなり高価だと思いますよ!」
  10. 「妹が入学式に着るワンピース作ってみた!」 こだわり満載のクラシカルな一着に「すごすぎて意味わからない」「涙が出ました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」