店頭には黄金の北島三郎像 「演歌日本一」「テープ日本一」を掲げる「あこや楽器店」を訪ねた(2/2 ページ)
創業から65年
65年前にオープンしたあこや楽器店。野村社長(91歳)は当時20代で、姉のいた奈良の楽器店で修業した後、独立して心斎橋筋商店街に店を構えた。店名の由来は、歌舞伎の演目「阿古屋琴責(あこやことぜめ)」に出てくる琴・三味線・胡弓(こきゅう)が得意な遊女、阿古屋(あこや)からとのこと。趣のある店名である。
当時の音楽事情について野村社長はこう語る。「音楽の業界に入ったのは戦争が終わってから4、5年たってからやから、そのころはやっぱり歌は全盛でしたよ。昔からの歌手がたくさんでたから。今でもそういう人のものが売れている。娯楽というもんが(戦争で)途絶えとった時代やからね。そのころはまだレコード屋さんも数が少なかったですよ」
「演歌専門店」と銘打つようになったのは25年ほど前の90年代から。不況でCDが売れなくなって多くの音楽店が閉店しだすようになり、演歌という特色を打ちだすことにしたという。
音楽配信が拡大しても「テープ日本一」
音楽配信サービスの普及などによってCDの売り上げが減少している現在、あこや楽器店にも影響はあるのだろうか。
「音楽配信とかあるでしょ。そういうふうなのは、なんも目を通さんと売ってるわけでね。題だけ言うて、買う。やっぱりね、目で見て買うのが一番賢いんですわ。そんなもん(音楽配信)はね、形も何にもないわけでしょ。そういうのんは嫌やいう人もいるんですよ。頼りないでしょ」(野村社長)
あこや楽器店には、目で見てCDを選び購入するのを好むお客さんからの強い支持がある。お客さんの年齢層から考えても、手にとって見ることのできないネット配信にはなじみにくいのかもしれない。
店内にはカセットテープの棚もあり、「テープ日本一」というポップも貼られている。カセットを多く扱う店は珍しいと思うのだが、その理由を尋ねた。
「カセットそのものがね、機械も今の若い人が使わないような機械になっているでしょ。でも、カセットの機械でしか聞いてない人も、たくさんおるんですわ、特に女の人に多い。そういう人のために作ってる。主力ではない。お客さんのこと考えると、やめるにやめられない。要望があるからね」と野村社長。
昔からのお客さんを大切にし、地元のお客さんのニーズに寄り添い続けるのが、65年も続くあこや楽器店の生き残り戦略なのだろう。
(谷町邦子)
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