日本アニメの創成期を知る大ベテラン 「カールおじさん」の生みの親・ひこねのりおさんに聞くアニメ業界秘話【PR】(2/3 ページ)
カールおじさん誕生秘話
―― ひこね先生のCMキャラクターは時代を超えた普遍性がありますよね。中でも代表作は「カールおじさん」だと思いますが、どうやって発想されたんでしょう?
ひこね あのころは高杉監督の中に、かっこいいCMよりはむしろ田舎っぽいものを作りたい、というイメージがあったんです。それで動物をいっぱい出してみたんですが、その中に大人の人間も1人ぐらい入れたいと思って、いたずら半分で入れたのがきっかけでした。
―― カールおじさんは人間というより動物のひとつだったと。今でこそ愛されるキャラクターですが、当時はあまり品がないという声があって、一時CMから降ろされたこともあったそうですね。
ひこね 僕はいちアニメーターだから直接聞いてないんですが、明治のえらい人のお怒りに触れたんだそうです。あのおじさんが人気だったので、2作目のCMで主役にしたんだけど、僕もバカだから、2作目のおじさんは歯を2本にしちゃったんだよ(笑)。そしたら明治の方にカールを食うと歯が抜けるのか、見た目も泥棒みたいだ、と誤解されたみたいで。でも3作目で坊やを主役にしたら、「おじさんどうしたんだ?」という人がかなりいてくれたんです。あのころはネットがなかったから、どういう形で反応があったか分からないですけど、おかげでカールおじさんがCMに返り咲けたんです。
―― そういう名キャラクターを作る秘訣は、何かあるんでしょうか。
ひこね 特に秘訣がないのが秘訣ですね。あんまり考えて考えて描いたものよりは、いたずら描きみたいに描いたキャラクターが評判が良かったりします。例えば注文を受けて10パターンのキャラクターを作ったとして、「もうひとつふざけたやつを」と思って11個目に描いたものが一番いいんですよね。
―― 特に名前を見なくても、明らかにひこね先生だと分かるキャラが多いですよね。NHKの「みんなのうた」の「赤鬼と青鬼のタンゴ」も見た瞬間に分かりました。鬼という怖い存在のはずが、どこか親しみやすくて。
ひこね あれの面白いところは、「タンゴを踊る鬼」というものの国籍がよく分からないところなんです。やっぱり節分に出てくるような鬼だったらタンゴは踊らないだろうし、じゃあどんなデザインにすればいいのか。そういうところで苦労はしたかもしれないですね。
―― 「日本昔ばなし」など一般のアニメも手がけられていますが、CMを作る時との制作姿勢の違いはありますか。
ひこね CMはディレクターがいますから、ディレクターのイメージを一番尊重します。「みんなのうた」や「日本昔ばなし」は自分のイメージで演出しますから、その違いはありますね。どちらも違ったやりがいはあるんですよ。
―― でも、CMでものびのびと作られていますよね。
ひこね 特に昔のCMは自由にやらせてもらったような気がします。監督が僕のことをよく知っているから、そういうことができたんですよ。クライアントからもあれこれと細かい注文はなかったし、自由にできた。すごく恵まれていたと思います。
―― 最近のCMはいかがですか?
ひこね 最近のキャラクターデザインは着ぐるみになることを前提に考えているのが、昔と違うところかな。
―― 確かに今のゆるキャラなどはイベントで活躍するのが当たり前ですし、デザインの段階から「中に人が入ること」を前提にしているんですね。そうすると骨格の違いなども考えてデザインしないといけなくなる。
ひこね ただ、ある程度考えるけど、あんまりそれにこだわっちゃうとつまらなくなっちゃうんですね。アニメのほうも、動かしやすいキャラクターにこだわると、つまらないキャラクターになっちゃうんですよ。
自分にない発想を引き出してもらえたペンギンCM
―― サントリーの缶ビールCMでのペンギンアニメ(1983年)もステキでしたね。ジャズバーでペンギンがバラードを聴きながらほろりと涙を流すという、すごくいい雰囲気のCMでした。松田聖子さんの歌とマッチしていて。
ひこね 運が良かったですよね、松田聖子さんがすごく人気あった時代で。あれが特に恵まれていたのは、当時のサントリー社長が「何でもやりなさい」みたいな人だったことですよ。本当にラッキーだと思います。
―― 今の時代だと、自由にやらせてくれる依頼があまりない?
ひこね カールでも、一番最近やったCMはかなり厳しかったですね。15秒の中に春夏秋冬を入れてくれという。昔は「春編」「夏編」が別々で、しかも30秒のCMだった。今は1年通して、ずっと使えるやつを作ってくれと。
―― ペンギンの場合は先にキャラクターデザインをされて、CMは後から企画が立ち上がったんですよね。
ひこね ええ、最初は電車の中吊りポスターとしてデザインしたものでした。そしたらテレビCMでもやると。ディレクターの木村俊士さんのイメージがすごく実写的だったから、最初は戸惑いましたね。カールも「きのこたけのこ」もそうですけど、僕がそれまで作っていたのはたいていワンカットで終わっちゃう、舞台でコントをやっているような牧歌的なCMでした。だけど、木村ディレクターが出してきたコンテがすごく実写的で、こういう方向があったんだと目から鱗が落ちて。そういう面では、ディレクターにも恵まれていたんですね。
―― CMでは、他の方が自分にない発想を与えてくれる楽しみもあると。
ひこね 全くその通りですし、おかげで今の自分があるんじゃないかなって気がします。表現を引き出してもらえたという。
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