アニメーターの待遇問題は改善されているか “アニメーター寮”に住む若手に聞いた(2/2 ページ)
アニメーター寮の取り組み
田中さんも入寮しているアニメーター寮を運営するNPOの代表理事・菅原潤さんはCGクリエイターとして働く一方で、若手アニメーターを支えていくための取り組みを行っています。
菅原さんがNPO法人を設立したのは2010年のこと。きっかけは「なぜ若手CGクリエイターは就職後に食べていくことができるのに、若手アニメーターは食べていけないんだろう」という思いからでした。
「漫画家は作品がヒットすると印税をもらえますが、アニメの場合作品がヒットしても儲かるのは製作委員会であって、アニメーターではありません。そんな状況を変えていきたいんです」――そう話す菅原さんは、今後は作品がヒットした際にはアニメーターにも利益が還元できる仕組みづくりを目指しています。
その第一歩として年に一度、新人アニメーターを対象に開催される画力コンテスト「新人アニメーター大賞」を設立。優秀者には1人60万円を限度とした支援を行っているほか、「ガンダム Gのレコンギスタ」のキャラ作画監督・玉川 真吾さんや「甲鉄城のカバネリ」のアクション作画監督・川野 達朗さんなどを輩出してきました。
また2014年からは「新人アニメーター大賞」での成績優秀者が「家賃・光熱費・ネット環境」込みで3万円で暮らせる寮の運営もスタートしました。寮の運営をはじめたきっかけには「アニメの制作会社は東京に集中している」という問題があり、地方出身者は一人暮らしを強いられて生活に困窮するという背景がありました。
菅原さんは「昔の下宿のようなイメージです」と話しますが、寮生の1人に部屋を見せてもらうと、広さは8畳強の個室で意外と快適そう。液晶ペンタブや鉛筆削りが無造作に置かれているところ、箱いっぱいに詰め込まれた資料などは、いかにもアニメーターの部屋らしい印象でした。
寮の運営などの活動資金は主にクラウドファンディングで集まったものと寄付から賄っていますが、菅原さん自身も個人的に年100万円程度は支出しています。
2017年からは女子を含む寮生が8人に増えるとのことで、取材日には女子寮に関する打ち合わせも行われていました。ここからは新しく入寮する3人の新人アニメーターにお話を伺います。
待遇で就職を決めるという選択
Aさんは都内のアニメ制作会社に契約社員として入社予定の女性アニメーター。大学在学中から広告の学生大賞など、多くの賞を受賞してきた彼女が就職を決めたのは、給料が固定給のアニメ制作会社でした。
またAさんと同じく女子寮に入寮予定のBさんは専門学校の卒業を控える20歳。好きなアニメーターの1人が新人アニメーター大賞出身ということで、機構に興味を持ったといいます。
卒業制作真っ只中のCさんは、第一志望のアニメ制作会社と業務委託契約を結ぶ予定の男性アニメーター。メカニックと奇抜な演出が光る作品に魅せられて、アニメーターを目指しました。
――それぞれの会社に就職を決めた決め手は何でしょうか
Aさん:私は待遇面で決めました。会社の評判ももちろんですが、収入面がかなり安定しているというところが決め手になりました。アニメーターの採用で一定額の固定給を支給してくれる会社はそう多くないと思うので。順調にいけば1年で正社員として採用される予定です。
Bさん:好きなアニメを制作している会社だったからです。入社後には研修期間があり、期限内に課題を終わらせなければならないらしく、とても大変だと聞くので頑張らないといけないなと思っています
Cさん:僕は好きな作品があって、そのアニメの制作会社だったからです。第一志望だったので採用が決まった時はうれしかったです。(採用された会社は)シリーズで作っている作品があるので、僕もそれに参加してみたいと思っています。
――P.A.WORKSの新人アニメーターが給与明細を暴露した問題を発端として、アニメーターの待遇問題が世間で騒がれました。皆さんはどのように感じられましたか
Aさん:見ました。報道してもらってありがたいことだと思いました。そういうことが話題になると、世間からも注目されて私たちの世代では何かが変わるかもしれませんし。
Bさん:はい。特に就職にはマイナスになりませんでしたが、大変な世界なんだなと思いました。
Cさん:見ました。僕もマイナスとは思いませんでしたが、まだ入ったことのない世界なので、そういうことがあるんだなぁと。
――ご家族はアニメーターとして就職することになんと仰っていますか
Aさん:うちはクリエイティブ業界に疎い家なので、最初は「大学まで行ったのに、正社員採用じゃないの!?」と驚かれました。今は100%の賛成とはいきませんが、応援してくれています。
Bさん:私は「3年という区切りをつけて、食べていくことができそうなら続けなさい」、と言われています。その間は仕送りなどで応援してくれる予定ですが、今はまだ「おめでとう」という雰囲気ではないです。
――アニメーターとしてどのように成長していきたいと思っていますか
Aさん:将来的には自分の劇場作品を作りたいという夢があるので、まずは動画、そして原画とステップアップして最終的には監督になりたいです。また大きな野望としては、自分の会社を立ち上げて新人が活躍できるようなアニメ作りの環境を整えていきたいと思っています。
Cさん:僕は演出をやりたいです。とにかくモノ作りが好きなので自分の作品を作ってみたいですね。
――現段階ではまだ皆さん視聴者という立場でアニメを見ていると思うのですが、昨今のアニメに思うところはありますか
Bさん:線が多いというか、やる作業が多いのかなと思いますね。
――年末に未完成で放送した作品もありましたが、どう感じましたか
Aさん:やっぱり未完成の状態で流すのはつらいだろうな、と思いました。
Cさん:次元は違うかもしれませんが、僕は今取り組んでいる卒業制作のスケジュールがかなりタイトなので、放送が間に合わないアニメの制作スタッフの気持ちも少しは分かる気がします。
技術面でも収入面でも「厳しい」と言われるアニメーターの仕事。ここ数年は志望者も減少しているといい、このままではアニメ業界自体が衰退してしまうのでは、とNPO法人の関係者は警鐘を鳴らします。また今回取材日に集まった関係者からは「新人研修の期限内に課題を終わらせないと、翌月から無給になる会社もある」「単価を上げると手が遅くなるので、本人のためにならない。だから単価をあげられないという話は聞いたことがある」など、新人を待ち受ける厳しい現状も聞かれました。
これらに対し、菅原さんは「まずはアニメーターの社会的地位の確立が必要」と話し、春ごろからは新たにNPOのオリジナル作品の制作に着手予定とのことです。
日本が誇るアニメコンテンツを守るためにどのような取り組みが必要なのか――今後も「ねとらぼ」ではアニメーターたちへの取材を続けていきます。情報をお持ちの方はぜひご一報下さい。
(Kikka)
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