アニメ化された『ナナマルサンバツ』は『ヒカルの碁』とどこが違うのか? 業界初の「競技クイズアニメ」に見る、“普及までの距離感”(3/3 ページ)
テレビクイズの役割は?
もう1つ、クイズにはアドバンテージがあるといえるかもしれない。それは、ゴールデンタイムでのクイズ番組である。特に昨今では「Qさま!!」や「ネプリーグ」「東大王」などの番組に競技クイズを経たクイズ王が出演することも増えてきた。他の文化系競技に比べて、クイズというものはより汎用性が高く、それ故ゴールデンタイムに常に存在し続けている。この点もかなり特殊といえよう。芸能人がみんなで集まって囲碁やったり、そこに囲碁の名人が混ざったりはしないのである。
ただ、これがクイズという競技そのものに与える効果は、少なくとも『ナナマルサンバツ』より低いのではないかと僕は見ている。他の文化系競技は、バラエティの枠ではなくニュースの枠でその競技自体が取り上げられる。囲碁や将棋はもちろん、年始に行われる競技かるた「名人位・クイーン位決定戦」も一般の報道番組で取り上げられることが多い。クイズではまずありえないことだ。
しかも、われわれクイズ王がゴールデンのバラエティで行うクイズは、競技クイズに近いものであっても、それそのものではない。ルールが可変的であるがゆえに、競技クイズそのもののルールを扱わずともクイズ王たちのキャラクターを演出可能であり、競技クイズの競技的な要素はテレビ的でないために省かれがちなのである。
もちろん、クイズ王たちの実力やキャラクターを売りに、人物への興味から競技クイズへと誘導することはできるだろう。テレビでの活躍を夢見てクイズの世界に飛び込んだ人間も実際のところ少なくない。
ただ、テレビの中でのクイズは「魔術」なのだ。クイズ王は、努力の過程が明かされない知識の集合体として、いわば手品師のように扱われる。間接的に競技クイズに入ってくる人がいたとしても、競技クイズという文化そのものの普及にはならない。人数が増えることで文化自体の普及を図るというのは非常に長い道のりだ。囲碁とはこういうもの、将棋とはこういうもの、という「なんとなくの構図」が明らかであることこそが、文化自体が認知されるために必要なように感じる。その点では、クイズ王の出演するゴールデンのクイズ番組より、クイズの世界全体を描く『ナナマルサンバツ』のほうが正しい伝え方のできる媒体なのである。
「超短期的ナナマルサンバツ難民」をどうすべきか、正直教えて欲しい
さてさて、ここまで見てきたように、競技クイズはその構造上、アニメ媒体で人を引きつけるパワーに秀でているが、そこから現実の競技までの距離感が遠い、という問題を抱えている。では、どのように解決していくのが良いのだろうか。
……分かったら、苦労しないのである。なんせ構造上の問題なんだもの。すれちがい対戦のように競技クイズを進めていくことはできない。
デッカい期待の中にはいるのだ。ここ10年で早押しボタンのレンタルや問題のネット通販、初心者向けイベント急増など、状況は急速に良くなってきた。人口も増え、新興の高校クイズ研も増え続けている。このまま伸び続ければ何か突破口が開けそうな予感はある。でも、何も具体的ではない。
『ナナマルサンバツ』が掘り出した、競技クイズがメディア化されることによって、視聴者も巻き込める一体型エンターテインメントとなるという要素はかなり強いとも思う(ここホント大事)。しかし、そこからどう広げていくかというところに大きな問題を抱えている。
これらの問題は、一朝一夕に解決できるものではない。ある程度人海戦術的な要素が必要になってくるし、お金もたくさん必要だ。競技クイズへのアクセシビリティを瞬時に上げるというのは、現状では無理だろう。少なくとも僕はお手上げである。
本来ならば、僕のような人間こそ「今、クイズが熱い!」などとのたまって大声で競技クイズを喧伝(けんでん)すべきなのだ、とも思う。初心者の壁を打ち破り入ってくる人も多くいるだろうから、多少の成果はあるはずだ。それが功を奏し、人数ばかり増えてクイズ文化そのものがある程度変遷してしまっても、現状のメンバーが納得するならそれはそれでいいかなとも思っている。
とはいえ、まずは問題点の洗い出しを行い、現状を見つめることも大事だ。少なくともクイズ的な視座のみから全てを解決しようとするのではなく、現状を外部に訴え、外からのいいアイデアを参考にすることこそが今必要なことなのだと、僕は思う。僕にはクリティカルな解決策を思い付きませんでした〜、ともいえる。
現状の良い面を訴えるならば、少なくとも初心者向けのクイズイベントは増えていて、ネットで検索すればいろいろと引っ掛かるわけだし、ネットクイズの活動もいくつかあるので、現状クイズを始めたい人はそのあたりが良い入り口なのではないかと思う。これだけは書いとかなきゃ。
『ナナマルサンバツ』のアニメ化は非常にポジティブなでき事であり、かつクイズの持つエンタテイメントとしての可能性を大いに示してくれた。しかしそれは同時に、現状の競技クイズというものの限界性をも浮き彫りにしたのだ。まだ、発展途上だ。未来がある。
多くのクイズプレイヤーが、クイズは将棋や囲碁、かるたと並び立つ競技ではない、と考えるだろう。競技としての性質が大きく異なるからだ。しかし、それらから学ぶべき面もまた多々ある。この連載も含めて競技クイズについて広く知ってもらい、他の競技に詳しい人から広く知恵を集めることもまたわれわれのすべきことだ。10年後、「全ては『ナナマルサンバツ』から始まった」なんてコラムを、書けたらいいなぁ。
- 連載:「クイズ王イザワの『分からないこともあります』」過去記事一覧
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