子どもたちの“科学の芽”を見つけるきっかけになりたい 番組プロデューサーに聞く大人にも人気の「夏休み子ども科学電話相談」の作り方(2/2 ページ)
―― まさに「聞き継いでいける番組」なんですね。大人も子どもも楽しめるというのは、簡単に見えてすごく重要なことだなと思います。ところで、今お話にも出てきましたが、相談内容の決定から実際に放送で採用されるまでのプロセスを教えていただいてもいいでしょうか。
佐久間P 募集にはメールと当日の電話という2つの方法があります。まずはメールで来た情報を集めて、その日出演する先生ごとに分類します。あまりにも先生の範ちゅう外の内容だとお答えできない場合もあるので、確認をとって先生が「回答できる」とした質問をまとめていきます。
それと同時に電話がひっきりなしに鳴りますので、そこからの情報もあげて先生たちが答えられるものを蓄積していって……電話や放送中に寄せられるメールでの質問に関しては、先生が質問に答えている間に答えていない先生たちが自分が答えられそうなものをチョイスすることもあります。
また、当日の電話の人はつながれば番組に出てもらえる可能性が高いんですけど、メール応募の人はメールを出したことを忘れるということが少なくないですね。単純に電話に出ないとか、これから家族でドライブなので難しいとか。10件断られて11件目でやっとつながるということもざらにあるので、根気よく電話をしています。面白い質問や、これは先生に当てたら楽しいだろうなという質問を、ディレクターとプロデューサー、デスクが一緒になって厳選しています。
―― 放送の裏ではリアルタイムでいろんなスタッフが動いているんですね。やっぱりディレクターさんの間でも、「小林先生とこの子をバトルさせてみたい」というような思惑が動いていたりするわけですか。
佐久間P あ、それはもちろんあります。これはこの先生にぶつけたら面白いんじゃないか、みたいなこともディレクターが考えながらやってますね。先生方が専門家にもかかわらず子どもの質問に悶えながら必死に答えようとする部分も番組の醍醐味だと思います。
―― どこまで分かっているのか分からない子どもVS.研究者というすごくスリリングな構図だなと思います。
佐久間P そうですね、「これ分かる?」って3つぐらい言葉の意味を理解しているか尋ねて、全部わかんないって言われた時のあの先生の絶望感もまた……。
―― 味わい深いですよね。
佐久間P 「空気って分かる?」に分かんないって言われちゃったこともありました……。すごく苦しみながら答えていましたね。あとはこう、「椅子に座ってる時にその椅子を持ち上げようとしてもできないのはなぜだ!」という質問とか……大人は考えないですよね?
―― そんな角度で考えたことなかった! という質問がいろんな角度から投げられてくるのが面白いところですね。ちなみに、質問に対する回答を得たあとに追加で質問する子がたまにいますが、あれはOKなんですか?
佐久間P あれは放送に出ている事なので答えるしかないんです……。他のジャンルにまたがった質問の場合は、担当の先生が他の先生に振ることもありましたね。まあ答えられない部分も出てきてしまうかもしれませんが、それぞれの先生に自身の専門分野から答えられることを自由に言って頂いているので、子どもたちにはそこも楽しみつつ納得してもらえればいいなと思っています。
―― 鳥の先生と恐竜の先生と植物の先生に同時に質問できる機会って、どんな人でもめったにないチャンスですよね。ちなみに、ぶっちゃけ何歳まで質問できるんですか?
佐久間P 中3です。
―― あーーーー。(やはり記者では質問できないか……)高校生から質問が来ることもあるんですか。
佐久間P 高校生とかは基本的にごめんなさいしちゃってると思います。
―― 来ることには来るんですか?
佐久間P それで言うと大人からも来ます。
―― あ……。
佐久間P こう……電話なので、相手が見えないじゃないですか。確実に大人だと分かる声で中学生だって言い張る人も、中にはいます……。その人を取り上げてしまうと子ども達の質問が一つ取り上げられなくなるので、何とか何人かのフィルターを通すことで見抜くようにして、「子どもたちの質問だけを出す」という方針を強く持って行っています。今年で言うと4歳から中3までの質問を取り上げました。最年少については、会話ができれば何歳からでも大丈夫です。
―― 子どもたちを対象にしていながらも大人にも受けているのがこの番組のすごいところだと思うんですが、ネット上での反応についてはいかがですか。
佐久間P 「ここに食らいついたか!」という感じですね(笑)。こちらの意図しないところですごく盛り上がったりしているのが面白いです。
未就学児の子が住んでいる県を聞かれたときの珍回答「名古屋県」は、Twitterのトレンドランキングに上がっていました。お子さんの名前がトレンド入りしたこともあります。
―― 確かに、ネット上で心もとない返事をしているお子さんの名前を挙げて「◯◯ちゃん頑張れ!」と応援するツイートはよく見かけましたね。
佐久間P あとは、子どものすごく本質的な質問に大人が反応しているんだと思います。例えば「AIは善と悪が分かるんですか」という質問に対して、ロボットの高橋先生が「じゃあ君は善と悪が分かるんですか?」と質問を返していたんです。それから、善と悪っていうのは絶対的に決められたものではなくて、AIも人間がその時々で善と思ったものを想像しながらやっている、けれどもそれが正しいかは分からないし変化するものなんだよ、というお話があり、ネットでも話題になっていました。
―― 善と悪の問題だったらロボットの先生に限らない質問というか、哲学分野の問題でもありそうな感じがしますね。ちなみに私は文系なんですが、「夏休み子ども人文科学電話相談」は作っていただけないんでしょうか……?
佐久間P えーとですねえ…………これは番組側じゃなくて私の考えで、ちなみに私も文系なんですけれども、……人文系は答えが果てしなく存在しますよね……。「分かりましたか」「分かりました」で丸をつけて次の人に行く、というフォーマットで演出しているので、難しいかもしれないなと言う気はします。「分かりません」では終われないので。
―― 確かに、「分かりませんでした」で電話を切られたらもやもやしますね。逆に、難しい質問をしすぎていくら説明しても分からなかった子もいるんですか。
佐久間P 私が来てからはありませんでしたが、かつてはいたと思います。ただ大人の空気を察した子どもが分かっていない様子なのに「分かりました」と答えているように聞こえるシーンもありまして、番組としてダメでしょうとお叱りを受けたこともありました。……収集つかない時ってありますよね。
―― 佐久間さんが一番印象に残ってらっしゃる質問はありますか。
佐久間P さっきのAIについての質問も好きなんですが、「鳥の祖先は爬虫類と聞いているが、鳥はなぜ別の種類に分かれたの」という質問に対して、川上先生がいろいろ説明した上で本当のところは分からないんだと話した後に「世の中なんでも分かると思ったら大間違いだ! ということを覚えておいてください」とおっしゃっていたのが印象的でしたね。先生が子どもに教えるのではなく、あくまで対等に渡り合おうとしている姿勢が見えたのがいいなあと思いました。
―― 子ども科学電話相談は「対話」なんですね。番組制作にあたって、出演される先生たちにはどのような方針でお願いしているんですか。
佐久間P とにかく、子どもたちにとって分かりやすい言葉でご説明くださいということを強くお願いしています。本当に分かりやすい言葉でというのは重ね重ねお願いしているんですが、やはり普段は大量の専門用語を使って研究されている先生ばかりなので、毎回苦しまれてますね……。番組の趣旨については、やはり先生方には「将来的に自分の後輩になるかもしれない子たちに興味を深めてもらいたい」という気持ちがとても強くおありなので、科学者として意義のある番組だと思っていただけているようです。
―― 未来の後進を育てるという意味でも大事な番組なんですね。ちなみに、小林先生に「北海道大学に来なさい」といわれて実際に北海道大学に行った人はいるんですか?
佐久間P いやー……まだ…………いないと思いますね……。ただやっぱり、恐竜で食べていくと言うのはすごく難しいことですよね。恐竜が大好きで一生懸命調べてくる子どもたちと話をして、なんとか次の自分の研究をバトンタッチできる人が育ってほしいという先生の思いもあるのではと感じます。
―― 収録の合間に先生方はどんなお話をされてるんでしょうか?
佐久間P 質問の話、あとは質問から派生した最近の研究の話をされていました。ご自身の研究内容に関するレジュメを他の先生に配ってらっしゃる先生もいましたね。
―― ある種の学際的な場にもなっているんですね。取り上げたくても取り上げられなかった質問はありますか。
佐久間P 当日がだめでも、先生が「ぜひこれは放送で答えたい!」という質問は、次の機会に持ち越すようにしています。今も前半のストックで後半に持ち越している質問がいくつかありますね。
―― おお、それは楽しみですね! 8月24日から放送の後半戦が始まりますが、展望や注目ポイントを教えてください。
佐久間P 前半戦は夏休みが始まったばかりの時期に放送していましたが、後半戦で質問してくれる子どもたちは、この夏休みにせいいっぱい遊び科学に触れ、日常の中でたくさんの新しい疑問が出てきているはずだと思います。ぜひその疑問を後半戦にぶつけて欲しいです。
番組を作っている側も、毎回本当に子どもたちの質問に驚かされます。先生方の答えの中身も面白いですし、答えようとしている先生方の思いや苦しみを感じながら放送してますので、そういったところを一緒に共有して、ネットでも楽しんでいただけたらいいなと思っています。
―― ありがとうございます! 後半も、知的なスリルにハラハラしながら楽しもうと思います。
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納得の受賞です。
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