「分裂」する現代クイズ番組と、『高校生クイズ』35年目への挑戦 〜『国民クイズ2.01』としての現代クイズ概論〜(4/9 ページ)
2008年から『高校生クイズ』の方針が大々的に転換され、「知の甲子園」として(視聴率的に)大成功を修めたのだ。それ以降の『高校生クイズ』や、それを受けて作られた『World Quiz Classic』『THEクイズ神』などがクイズ王達によるガチンコ番組として作られ、ブームは2012年ごろまで続いた。
そしてその後、間を空けることなく2015年の冬頃に再度クイズ王ブームが到来。『頭脳王』への注目や『クイズサバイバー』『Qさま!!』へのクイズ王の出演など、ブームは現在も続いている。
特に『高校生クイズ』から『頭脳王』への流れを作った日本テレビが「新クイズ王ブーム」において担った役割は計り知れない。
緊張感のある雰囲気、謎めいた解答過程で難問を攻略するクイズ王という現ブームを象徴するような演出を多く考案している。一時期には、解答不可能な問題をさも解答可能かのように出題し間違えさせる「過剰演出」はあったが、このような世界観がクイズ王の魔術性をより高めたことは間違いないだろう。
無論、1995年から2008年までの間(この期間にクイズを始めた人を「ロストジェネレーション」なんて呼んだりもする)に起こった出来事も2008年以降のクイズ王ブームの揺りかごとなった、ということは言及せねばならぬ点である。
冬の時代、クイズ王たちはテレビではないところで自分たちの手により大会を作り、90年代前半までのクイズ王時代とは比べものにならない量の研究を深めていた。
テレビには到底出せないような、大学の学問をベースとした難問「学生系」が90年代後半に(クイズ研究会の間で)流行。2000年代には逆にテレビに出るような問題も多く含んだ「短文」と呼ばれるジャンルが研究され、かなりのレベルまで昇華された(前掲のコラムはその過程を詳しく解説している)。
早押しの最適化や知識の先鋭化が進み、クイズ王のレベルが一気にあがったのがこの時代である。かつても『史上最強』で決勝戦後に早押し理論の解説が行われるなど、クイズをミクロに分析する試みはあった。しかし、この冬の時代はそれがより幅広く、大勢によって行われたのである。
徳久はこの状態を「数千万人に楽しまれていたクイズが、(中略)高度だが特殊な『マイナースポーツ』にな」った、としている。
このように強化されたクイズ王は、インターネット時代においてなお魔術師であることができた。ネットで調べればすぐ手に入るような知識だけではなく、スピードを先鋭化させることで、なお特殊な存在として輝き続けることに成功したのである。かつてのクイズ王時代に西村顕治が披露したアスリート性を、多くのプレイヤーが持ち合わせ、競い合うことができるようになったといえる。
そしてこれが、『高校生クイズ』における「知の甲子園」時代の早押し対決などを面白いものにしたのである。均衡した戦いを演じられる、つまり「試合になる」レベルにクイズ王たちはアスリート化されたのだ。この複数同時アスリート化が「新クイズ王ブーム」を巻き起こしたと言ってもいい。
「教養」に依拠しないスポーツ型クイズ番組は、スポーティさを洗練させることで「魔法と区別がつかない」状況ができたために復活した。これは、80年代後半からのクイズ番組において、クイズ王ブームが研究の活性化とともに巻き起こった流れと相似的だ。
そしてこれは、いかにも「マイナースポーツ的」な盛り上がり方だ。ラグビー日本代表が南アフリカに勝ったことでブームを巻き起こせたように、強い存在はテレビに映える。「大きな物語」が崩壊した中でも、強さとはそれ自体で何か理想の1つを提示しているように思わせることができるのだ。
しかしこの「マイナースポーツ化」が進むほど、エンタメ型クイズとスポーツ型クイズの乖離は激しくなる。
視聴者に「3つの楽しみ方」を与えるバックボーンを探しているエンタメ型にとって、「マイナースポーツ化」はそれらの楽しみ方から遠ざかるような動きだ。
それら2つの隔絶は、無論「統合」が試みられてはきている。先に挙げた『World Quiz Classic』は、『SASUKE』的なエンターテインメント性あふれるステージとド派手な演出でエンタメ性を盛り込もうとした。しかし、徳久いわくこの取り組みは「失敗」に終わり、単発で終了してしまった。
さて後半では、スポーツ型クイズの先鋭化により乖離した2ジャンルの「統合」をテーマとしていく。
すなわち、今年の『第37回高校生クイズ』は、エンタメ型とスポーツ型の統合に取り組み、それゆえの違和感が生じた、という前向きな結論へと本稿は向かってゆく。
(なお、「知の甲子園」以降の新クイズ王ブームについては、客観的な分析を行った文献がまだ存在しないといえる状態であった。多分に筆者の主観の入った分析を含んでいることを了承されたい)
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