「応援なんて誰にでもできる」という正論に、プリキュアはどう立ち向かったのか? 「HUGっと!プリキュア」開始3カ月を振り返る:サラリーマン、プリキュアを語る(2/3 ページ)
2:敵組織クライアス社が社会人の心に刺さる
「HUGっと!プリキュア」が大人を引き付ける魅力の1つに、プリキュアの敵「クライアス社」があります。
クライアス社は「会社組織」なのですが、劇中で使用する単語が「会社用語」連発で、一緒に見ているお父さん、お母さんの心に刺さります。
毎週のように、
「稟議承認」
「発注」
「始末書もの」
「報・連・相(ホウ・レン・ソウ)」
「有給」
「休日出勤」
などの単語が飛び交い、日曜日の朝のTwitterなどのトレンドワードにトレンド入りし、ニチアサ事情を知らない人を驚かせています。
会社組織の描写は、日本経済新聞社の日経MJで取り上げられもしました。
そして「プリキュアの未来」を阻むものが「会社組織」である、というのも、今作の面白い点です。
プリキュアの敵に会社組織が選ばれるのは「Yes!プリキュア5」以来なのですが、子どもの目には「会社」はお父さんお母さんを奪う「悪者」に映っているのかもしれませんね。
「子どもの未来を奪うのは、ブラック企業である」という観点で、「規律の象徴」でもある「会社組織」に対し「なんでもできる、なんでもなれる」と自由を説くプリキュアがどう立ち向かうのか?
1クール目では、敵幹部、チャラい格好の係長「チャラリート」さんがプリキュアに敗れました。しかしその後、チャラリートさんは第12話で「YouTuber」になった様子が描かれ「プリキュアによって、ブラック企業から解放され、自分の適性のあった仕事に就く未来」が描かれました。
今作のプリキュアが「なんでもできる、なんでもなれる」をキーワードにしている以上、大人もやり直しがきく、「大人だって、なんでもできる、なんでもなれる未来」を描いてくことは本当に素晴らしいと思います。
3:「応援することの意味」を問い続ける、深いストーリー
そして、個人的に今年のプリキュアが一番「すごい」と感じたのは、放送からわずか3カ月の間で、物語の根幹をなす「応援」の意味を問うたことです。
「HUGっと!プリキュア」の主人公、野乃はなちゃんは「超イケてるお姉さんになりたい」という漠然とした夢を持っています。またキュアエールという応援のプリキュアでもあり1話の時点からずっと他人を応援し続けてきました。
1話で「フレフレ!お母さん」で始まったその応援も、この3カ月間の間に、子ども向けアニメとしてはやや重めの言葉をたくさん投げかけられてきました。
いわく、
・「十分頑張っとるやつに、頑張れ言うのは酷」(5話)
・「応援なんて誰にでもできる」(8話)
・「頑張れなんて言わなくても、ほまれは、頑張るよ」(8話)
・「その無責任な応援が彼女の重荷になっているんだよ」(8話)
「頑張れ」という言葉の否定です。
そのたびに、はなちゃんは落ち込み、応援することの意味を自問自答し続けます。
「私には何もない」
「どうして私は何も持っていないんだろう」
はなちゃんは「何もない」「何もできない」ことに悩み続けます。
例年のプリキュアシリーズにおいても、こういった主人公が内面を問われて落ち込み、立ち直り成長する、といった描写は数多く見られますが、今作はそのペースが速く、他シリーズのプリキュアたちが1年かけてたどり着くレベルの出来事をわずかこの3カ月で経験しているように感じます。
そして「応援なんて誰にでもできる」「無責任な応援が重荷になる」といった正論に、プリキュアは、野乃はなちゃんは、どの様な結論を出したのでしょうか?
象徴するエピソードがあります。
プリキュアに変身できなくなるまでに落ち込んでいるはなちゃんに、お母さんが声をかけ、抱きしめて言うのです。
「ただ、生まれてきたことがうれしい」「はなの笑顔を見ているだけで幸せ」、と。
これは存在を認める「共感」の言葉です。それをきっかけに、はなちゃんは立ち直り始めます。
そう。はなちゃんは、母親からの「アドバイス」ではなく「共感」により復活するのです。
その後、さあやとほまれにも「大好き」と言われ、「存在を認められた」はなは完全復活を果たします。
そして異形化したチャラリートとの闘いの中で、プリキュアの新しい武器が「剣の形」となってキュアエールたちのもとに来たときには、
「必要なのは『剣』じゃない」と、楽器に形を変えたスティックで、「応援」するのです。
剣で排除するのではなく、相手に寄り添い、思いを受け止めるための「応援」をするのです。
相手のことを考えず、「自分のために」他人を応援するのではなく、
「私はあなたを認めています。そばにいます」
それを伝えるために、はなちゃんは「応援」をするのです。
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