『ジャンプ』編集長ら語る「ジャンプの未来」は 「カギは少年誰もが知るキャラクター」「横断的漫画アプリは予定なし」(2/2 ページ)
初版100万部のような大ヒット作品を新たに
司会: みなさんが今感じている「ジャンプに足りないもの」ってありますか?
中野: わかりやすく言ってしまうと、コミックスが初版100万部となるような大ヒット作品です。昔は『ONE PIECE』『NARUTO』『BLEACH』がジャンプの3本柱でしたが、今は『NARUTO』も『BLEACH』も終わり、少年が誰でも知っているキャラクターを生み出すことに苦戦しているところがあります。「ジャンプ+」とかと連携して“子どもにヒットする作品”を作らないといけないと考えています。
細野: 僕はシンプルに読者の立場から、もっとバトル漫画が読みたいです。編集者の立場からすると『ONE PIECE』や『NARUTO』が偉大すぎて、作家さんもああいった王道のバトル漫画を作るのを難しく考えがちなのかなという気もしています。そこを取っ払って自分たちがおもしろいと思えるバトル漫画を作っていってほしいです。
司会: ジャンプの海外進出についてはどうでしょう。
細野: かつてジャンプの編集長に「世界征服が目的だ」って言っていた人がいたんですけど、その気持ちは今われわれも同じく持っていて、海外展開は積極的にやっていきたいです。ただそれは簡単ではないと感じていて、特にアジアなんですが、韓国発のウェブトゥーン(韓国のWeb漫画の総称)や中国の「快看漫画」(中国最大の漫画プラットフォーム)だったり、韓国・中国では自国の作家で自国の読者に向けた漫画アプリやサービスが本当に大きくなっているんです。
細野: 特に中国は人口の規模が違っていて、「ジャンプ+」で連載している中国発の作品『一人之下』の作者は、自国の漫画アプリの感覚で「1億ビューでした」「100万いいね付いています」とかさらっと言ったりするんです。その規模感に強敵さを感じているんですが、ジャンプ的な言い方だとそういうライバルがいた方が切磋琢磨して強くなれるわけですので、積極的に海外へ出て戦っていきたいと考えています。
瓶子: 中国にも韓国にもすでに多くの漫画がありますが、キャラクターをうまく使ってジャンプを海外に広めていきたいです。ストーリーって海外の人にとってはハードルが高いことがけっこうあるけど、キャラクターだったらストーリーがわからなくても受け入れてくれる可能性が高い。その点、日本ではいろんな人が長くキャラクター作りをやってきましたし、ジャンプでもメインに手掛けてきた。それを活かしたいです。
中野: あと海外はジャンプ作品にとってまだまだ未開拓です。紙媒体だとアメリカ全土に行き渡らせるのは難しいなど、やはりまだ流通の面で難点がある。そういう意味では、世界中の人がスマホを持っていれば漫画やアニメを見られる時代になっていきているのでデジタルには大きいチャンスを感じています。半分真剣、半分冗談でいっていますがやっぱり「ジャンプのキャラで世界征服する」というのが編集部の目的なので、それに向かってがんばっていきたいです。
司会: 時代が変化していく中でどういう“ジャンプの未来”を思い浮かべていますか?
細野: 今までとは違うヒットの形があるんじゃないかなと考えています。これまではコミックスの売り上げとか部数ベースで考えることが多かった。今後はコミックスの売り上げとは関係なく話題になったり盛り上がったり、別の指標でヒットを実感することが出てくるんじゃないでしょうか。そういう意味で「ジャンプ+」は“新しいヒット”の場になればいいなと考えています。
中野: どんな時代になってもジャンプ編集部員がやっていくことは変わらないです。作家と向き合って打ち合わせをして、本当におもしろい漫画を作る。部数がすべてというわけではなく、世界中の人たちが知っているキャラクターを作ることで、コミックスが売れていなくても作品をみんなが知っている、それによりお金が入ってくる。そんな未来はジャンプが作ると信じて、現場ではおもしろい漫画を作っていきたいです。
究極の漫画のプラットフォーム
最近は海賊版サイトへの対策として、「作品が網羅されている」「配信が早い」など海賊版に“利便性”で負けない正規サービスの登場も求められています。トークセッションでは、集英社の漫画アプリを統合したような漫画のプラットフォームを社内で作っていく予定はないのか質問も出ました。
細野: 現状ではそういった予定はないです。1つには、そういうプラットフォームのイメージは電子書店なのかなと思ってしまうんです。アプリでいえばLINEマンガさん、大きいところならKindleさんなど。われわれが「ジャンプ+」や「ヤンジャン!」(『週刊ヤングジャンプ』の公式アプリ)を作っているのは、編集側としては雑誌を作っているのに近く、電子書店を作る意味はそんなにないのかなと。読者からすると『ONE PIECE』も『君に届け』も『ゴールデンカムイ』も一冊の雑誌で読ませて欲しいと言われても、それはちょっと違うと思うのです。
細野: もう1つは、トータルのプラットフォームを作るにしてもまだ正解の形が見えていないからです。僕ら自身も研究はしているところではあって、先ほど「ジャンプルーキー」がどうしたらオープンなアプリになるのかという話もありましたが、同じようにみんな使ってもらいやすいプラットフォームの形が見えてきたら、社内での横断的な漫画サービスも考えられるかもしれません。
また、脅威に思っているコンテンツは何かという質問に対して細野さんは、「まさにApple、Google、Amazon.co.jpといったプラットフォーム」と言及。「その軛(くびき)から脱せられるようなことができるといいですが、もしかするとそれが先ほどの究極のプラットフォームになるのかもしれない」と答えました。
締めの言葉で中野さんは「ジャンプの紙の発行部数が伸びるまで一番大好きなビールを断つという宣言をして、今5年間ビールを一滴を飲んでおりません」と“紙のジャンプ”への思いも明かしつつ、次のように意気込みを語ります。
「ただやはりデジタルは避けて通れませんし、そういう時代の最先端を走るのがジャンプだと思っております。ジャンプは今一番売れている雑誌でブランドイメージもありますが、後発の雑誌。何でもやってみて何か起きたら怒られて謝ればいいや、というヒドイ雑誌なはずなので、これからもあまり考えずに何でもチャレンジしていきたいです」
(黒木貴啓)
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