自分たちが吹き替えをしていることが最大の魅力になれば――宮野真守が明かす吹き替えの楽しさと難しさ

映画「スモールフット」でノリノリのお芝居を見せる宮野さんに話を聞いてみました。

» 2018年10月19日 15時00分 公開
[西尾泰三ねとらぼ]

 声優の宮野真守さんや早見沙織さん、木村昴さん、立木文彦さんらが日本語版吹き替えに名を連ねる映画「スモールフット」が全国公開中です。

 同作は、人里離れた雪深い山頂で暮らすイエティたちが、伝説とされている“スモールフット”(=人間)と出会う姿を描いた“モジャかわ”ミュージックファンタジー。宮野さんは、一度はブレークしたものの、三流タレントに転落し再起を狙う人間・パーシーを演じています。

宮野真守 スモールフット パーシー 吹き替え 劇中歌 インタビュー イエティと人間の出会い描く映画「スモールフット」

 宮野さんといえば、「STEINS;GATE」シリーズの鳳凰院凶真こと岡部倫太郎や「うたの☆プリンスさまっ♪」一ノ瀬トキヤ役、「機動戦士ガンダム00」の刹那・F・セイエイ役などをはじめ、ファンを魅了するお芝居が魅力。そうした意味でスモールフットでのお芝居にも期待が掛かりますが、本人に伝えると「木村昴くんと(木村さんが演じるイエティの)ミーゴが似ているだけでこの作品の勝利は決まった」ととても楽しげ。宮野さんに作品の魅力や吹き替え版に対する思いを聞いてみました。

宮野真守 スモールフット パーシー 吹き替え 劇中歌 インタビュー 宮野真守さん

経験が人間を形成していく――宮野真守の“パーシー”評

―― 数々の作品で多種多様なキャラクターを演じ、お芝居にも定評がある宮野さんが今作に興味を持ったのはどんな部分ですか?

宮野 最初にお話をいただいて、物語の設定などを知ったとき、人間が伝説の生き物、つまりイエティ側からの目線で描かれている斬新な世界設定がすごく面白いと思いました。

 その上で、物語の紡がれ方がとてもコミカル&ハッピーで、自然と心が暖かくなる優しさに満ちた作品だなと。ミュージカル風に歌を紡ぐ作品で劇中でがっつり歌うのは僕にとっても初めてなので、ぜひともやりたいと思いましたし、そういう意味で意気込みは十分でした。

宮野真守 スモールフット パーシー 吹き替え 劇中歌 イエティのミーゴとパーシーが出会うことで物語が展開していく

―― 宮野さんが吹き替えを担当したパーシーについてはどんな印象が?

宮野 僕、やらせていただくなら絶対パーシーがいいなと思っていました。ちょっと顔も似ているし(笑)、このキャラクターから自分の声が出ているのに何の違和も感じなかったので。パーシーが歌う劇中歌もすてきで、キャスティングされるなら熱唱したいと思っていましたね。

宮野真守 スモールフット パーシー 吹き替え 劇中歌 宮野さんが「このキャラクターから自分の声が出ているのに何の違和も感じなかった」というパーシー

―― キャリー・カークパトリック監督はパーシーについて「愛すべきわんぱく小僧」の雰囲気があるとおっしゃっていましたが、宮野さんから見たパーシーはどんな存在ですか?

宮野 確かに“わんぱく小僧”といえますが、僕は、パーシーというのは経験をへた大人の人間とみました。なぜなら、三流芸能人に成り果てたパーシーが再び輝きを取り戻そうとして、ときに誠実さを欠いたような行動を取るのも、自分が今置かれている状況にすごくあせっているから。手段を間違えそうになるところも人間としては大事な経験だと思うんです。

 僕は、経験が人間を形成していくと考えているので、ただわんぱくで無邪気にやるのではなく、さまざまな経験をへてたどり着いた大人の人間としてのパーシーを見せたいなと思いました。僕もうまくいかない時期がたくさんあったから、一生懸命頑張るパーシーの気持ちはちょっと分かるので。

 後は、木村さんが吹き替えているミーゴは、体は大きいのにとても純朴で、ものすごいかわいいお芝居なんですよ。ミーゴよりも感覚的には大人なパーシーというのはよい対比になっているんじゃないかと思います。

宮野真守 スモールフット パーシー 吹き替え 劇中歌 「大人の人間としてのパーシーを見せたい」と宮野さん

―― 吹き替えをされて、作品にはどんな印象を持ちましたか?

宮野 コミカルさや暖かさを備えた素晴らしいエンタメが構築されているので、ハッピーな雰囲気を楽しんでもらうのも全然いいと思います。一方で、今作で描かれているイエティと人間という未知の種族間の交流は、いわば“自分と違うものといかに接するか”みたいなもの。それは例えば人間同士でも当てはまりますよね。そういうテーマを内包しているのもいいなと思います。

“合わせて寄り添う”吹き替えの楽しさと難しさ

宮野真守 スモールフット パーシー 吹き替え 劇中歌

―― 日本語吹き替えの難しさ、あるいはやりがいを感じた部分はありましたか?

宮野 やりがい、というか楽しさについて先に言うと、吹き替えは原音があるので、向こうの役者さんの素晴らしい演技に合わせて“寄り添う”のがすごく楽しいです。

 楽しかったシーンはたくさんありますが、自分でも頑張ったなと思うのは、パーシーがミーゴと初めて対面したとき、驚きのあまり声がカスカスになるところ。原音がめちゃくちゃ面白くて、家で練習しすぎて声枯れちゃいましたから(笑)。現場でも練習の成果を披露したらスタッフの皆さんもすごく喜んでくれて。それくらい合わせていくのは楽しく、喜びを感じます。

 一方で、難しさもまた“合わせる”ところです。パーシーはマシンガントークで、起伏の激しいテンションに合わせていくのは体力勝負でした。テンションもしっかり表現したかったし、一音も漏らしちゃいけないと集中していたので、作業は結構大変でしたね。

―― 吹き替えではアドリブのような要素は多分にあるのでしょうか?

宮野 まれに監督の要望でアドリブを入れてくださいと言われることもありますけど、吹き替えでは基本的に少ないですね。どちらかといえば、(台本に)書かれているものを自分の言葉にしてお芝居するのが大事なように思います。台本に書いてあるのに「勝手にしゃべったでしょ宮野」みたいにアドリブっぽく聞こえるのなら、それは自分の言葉になっているということでよいことかもしれませんね。

宮野真守 スモールフット パーシー 吹き替え 劇中歌 ノリノリで歌うパーシー。アーティスト活動をしているときの宮野さんの面影を感じる

―― 宮野さんが劇中歌を熱唱する映像も見ました。すごく楽しそうにやっている印象です。

宮野 パーシーはロックっぽく歌うパートもあれば、心情を吐露するように歌うパートがあったり、曲ごとの表情というか、違いを出すのが楽しかったです。歌の中でもいろいろなパーシーが見られるので、歌唱でも感情の流れはすごく大事にしました。

ワイプ芸にすら思えてくる宮野真守ver.のミュージッククリップ

―― ちょっとラップっぽいところもありますよね。ストーンキーパーの吹き替えを担当された立木文彦さんはゴリゴリのラップを披露していました。

宮野 吹き替えのキャストが発表になったときは、他の方がどういう歌があるのか詳しくは知らなかったので「立木さん歌うのかしら?」と思っていたんですけど、まさかラップをされるだなんて(笑)。実際に立木さんのラップを聴いたときは、重厚感あるシーンにふさわしい渋い声で、貴重なものを聴いている感じがして心が震えました。

―― 同作は「ミニオンズ」「怪盗グルー」シリーズを手掛けた原作・音楽スタッフの作品です。宮野さんは「怪盗グルーのミニオン大脱走」でも吹き替えを担当されましたが、今作の吹き替えで作品群に共通する特徴のようなものは感じますか?

宮野 “歌の遊び心”みたいなものを感じます。パーシーが歌う「PERCY'S PRESSURE」も、「誰なんだよ」と言いたくなる謎のダンサーがどこからともなく出てきてパーシーの後ろで踊り出したりするんですけど、そういう遊び心がすごく面白い。音楽でのエンターテインメントの表現の仕方はさすがだと思いますね。

―― その流れでもう1つ聞きたいのですが、宮野さんが“歌の力”を強く感じるのはどういったときですか?

宮野 言語関係なく“国境を越える”ときです。アーティスト活動もさせていただいている中で、海外の方から「楽しみにしています」と言ってもらえたりすると、僕自身は英語も達者な方ではないのに、僕のやっている作品は国境を越えられるんだと無限の可能性を感じます。

 そういった意味で、僕は音楽――アニメの仕事もそうですね――で、本当にたくさんの人に自分のパフォーマンスを知ってもらえる機会をいただいたので、そこがやっぱりすごい。いろんな人に伝えたいので、何事も「できない」と一蹴するのではなくて、もっと磨いていかなきゃいけないなと思います。

自分たちが吹き替えをしていることが最大の魅力になれば

「僕もファンタジーの世界にいる住人」と笑う宮野さん。オカルトやホラーは怖くても、「怪獣映画とかは好きなので、ウルトラマンやゴジラは好きなのでそれならいてもいい」とニッコリ

―― なるほど。ところで、宮野さんはイエティなどUMA(未確認生物)の存在についてはどう思いますか?

宮野 僕は怖いのが苦手で、オカルトやホラーがあまり得意じゃないんです。小学校のときとか、友達の家に集まって怖い話で盛り上がったりするじゃないですか。雰囲気を盛り上げるために部屋を暗くしたりして。僕は暗闇なのをいいことにずっと耳ふさいでたんですよね。全然聞いてないのに「怖くねーし」と強がったりして(笑)。お化け屋敷も目をつぶって走り抜ける子でした。

 とはいえ、僕もファンタジーの世界にいる住人なので(笑)、ファンタジーとしてはもちろん楽しい。今作もイエティたちがモフモフしてかわいいですし。現実的な存在の有無を問われると、僕は「いなくね?」のウエートが若干強いかもしれませんが、ウルトラマンやゴジラは好きなので、そういうのなら実在していてもいいですね。

―― 今作は、吹き替えの魅力を十分に感じられるものになっていると思います。宮野さんが吹き替えで心掛けていることを最後に教えていただけませんか。

宮野 僕は、吹き替えを担当させていただくとき、“自分たちが吹き替えをしていることが最大の魅力になればいいな”といつも思っています。僕らのも見たいと思っていただける芝居をしようというマインドで、最高のパフォーマンスを届けようと。まぁ、今作は、木村昴くんとミーゴが似ているだけで勝利は決まったようなところはあるので(笑)、僕らがのひのびとお芝居している姿を楽しんでいただきたいですね。

宮野真守 スモールフット パーシー 吹き替え 劇中歌

(C) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2404/15/news019.jpg 4カ月赤ちゃん、おねむのひとり言が止まらず…… 心とけそうなおしゃべりに「とてつもなく可愛すぎる!」「ウルウルした」
  2. /nl/articles/2404/15/news020.jpg 1歳妹が11歳姉に髪を結んでもらうやさしい光景が160万再生 喜ぶ妹のノリノリのリアクションに「可愛すぎて息できない」「ねぇね髪の毛結ぶの上手」
  3. /nl/articles/2404/13/news014.jpg 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  4. /nl/articles/2404/14/news013.jpg 海岸を歩いていたら「めっちゃ緑のヨコエビがおって草」 作りものと見まごうほどの色合いに「ガチャの景品みたい」と驚きの声
  5. /nl/articles/2404/11/news165.jpg 遊び疲れた子猫を寝かしつけてみた 絵本のような光景に「きゃーあ」「可愛すぎて変な声出た!」
  6. /nl/articles/2404/15/news038.jpg ダイソーの材料を“くっつけるだけ”で作れる、高見え「カフェコーナー」 今流行りのジャパンディな風合いに「天才的に美しい」「まねする!」
  7. /nl/articles/2404/15/news103.jpg 「ケンタッキー」新アプリ、不具合や使いづらさに不満殺到…… 全面的刷新も「酷すぎる」「歴史に名を残すレベル」
  8. /nl/articles/2404/15/news014.jpg 100均大好き起業ママが「考えた人天才すぎる」と思わず興奮 ダイソー&キャンドゥの優秀アイテム5選が参考になりすぎる
  9. /nl/articles/2404/14/news006.jpg 兄が10歳下の妹に無償の愛を注ぎ続けて2年後…… ママも驚きの光景に「尊すぎてコメントが浮かばねぇ」「最高のにいに」
  10. /nl/articles/2404/15/news021.jpg 下っ腹に合わせて購入したGUデニムで50代女性に悲劇→機転を利かせたコーデに称賛!! 「笑って楽しんで60代、70代を迎えたい!」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「歩行も困難…言動もままならず」黒沢年雄、妻・街田リーヌの病状明かす 介護施設入所も「急激に壊れていく…」
  2. 500円玉が1つ入る「桜のケース」が200万件表示越え! 折り紙1枚で作れる簡単さに「オトナも絶対うれしい」「美しい〜!」
  3. 赤ちゃんがママと思ってくっつき爆睡するのはまさかの…… “身代わりの術”にはまる姿に「可愛いが渋滞」「何回見てもいやされる!」
  4. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  5. 日本地図で「東京まで1本で行ける都道府県」に着色 → まさかの2県だけ白いまま!? 「知らなかった」の声
  6. 中森明菜、“3か月ぶりのセルフカバー動画”登場でネット沸騰 笑顔でキメポーズの歌姫復活に「相変わらずオシャレで素敵」「素敵な年齢の重ね方」
  7. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評
  8. もう別人じゃん! 「コロチキ」西野、約8カ月のビフォーアフターが「これはすごい」と驚きの声集まる
  9. 娘がクッションを抱きしめていると思ったら…… 秋田犬を心ゆくまで堪能する姿が440万再生「5分だけ代わっていただけますか?」「尊いなぁ…」
  10. 業務スーパーの“高コスパ”人気冷凍商品に「基準値超え添加物」 約1万5000個販売……自主回収を実施
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」