「絵とセリフによる表現」の限界はどこなのか? レビュー不可能な漫画『ムラサキ』を(無理やり)レビューする
LINEマンガで無料配信中の異色作。
厳男子『ムラサキ』(LINEコミックス)の魅力を説明するときに、レビューという形式は不適切なのだと思う。ページからあふれるこの圧力を、この魂を、言葉で説明するのはなんともばかばかしいまねに思えてならない。本当なら、たいまつに火をともして円形にならべて中心に立ち、このコミックスを握りしめながら泣き叫んでのたうち回るとか、そういうやり方で注目してもらう方がよっぽど本作の素晴らしさが伝わるのではないか。しかしインターネット上ではそれを実行するのが困難であるため、野暮(やぼ)を承知で、『ムラサキ』の魅力を文章に書き起こしてみたい。
これは何の漫画か。創作ダンスの物語である。主人公は名前を一条紫(ムラサキ)といった。ダンスに魅入られ、ダンスに世界を変える力があると確信している彼女は、入学した高校で創作ダンス部を創設しようと考える。入部してくれそうなメンバーを探すなか、ムラサキは1人の同級生に目をつけた。その名は翡翠翔之助。
彼は幼なじみの美少女・菫ソラに執着し、彼女の背後で黙って彼女のためだけに踊り続ける、謎の青年であった。この踊りが、とにかくすごい。足音ひとつ残さずに、周りの空気を組み替えるようなダンス。ムラサキは翔之助の舞踏に魂が震える感覚を覚え、同時に彼が一心に慕うソラに対して嫉妬すら感じてしまう。
一方でソラは翔之助を心配していた。子どもの頃、ソラと翔之助は会話なしにわかりあっていた。しかし、ソラは前より鈍ってしまったのだという。翔之助だけが、ソラとわかりあっていたあの頃の感覚を求め続ける。自分はもう、彼についていてあげられない。このままではよくない。そう思っていたソラは、ムラサキを翔之助の新たな理解者だと直感する。ダンスの力を誰よりも信じているムラサキと、圧倒的なエネルギーを持つダンスで森羅万象を表現する翔之助。2人が出会ったとき、誰も見たことのない新星爆発が起こる。
第1巻の山場は、翔之助のダンスシーンであろう。この場面に関してはもう、圧巻だとか必読だとか、手垢のついた表現をだらだら重ねたってどうにもならない。作中の言葉を引用するなら、これは「理性を奪う儀式」であり、「世界の秘密を暴く」まじないである。ああーーーお、あうーーーー、ああーーーーーう、ぐあーーーーー、大きな波、小さな波、影の色、光の色、宇宙。身体の内側にあらゆるものがなだれ込んでくる。ダンスが始まれば、〈あなたの身体〉も〈私の身体〉も、もはやそこにはない。あるのはただ混沌とした気のかたまりだ。融和し、分離し、接合し、断絶し、ぎゅわーんとし、どぅるどぅるし、びゃーーんとなり、ふぶしひえーーんじ、あふぐあづげぐる。そうだ、言葉はもう遙か後方へ置き去りにされた。感覚だけにしがみついて、ムラサキは向こう側を知る。
翔之助のダンスが終わったとき、ムラサキは気を失いかけ、放心のなかで涙を流した。崩れ落ちそうになる身体を抱えてくれたソラが、自分に何か声をかけていることはわかっても、何を言っているのかはもうわからない。今はただ、ソラの瞳に「宇宙の秘密を感じる」。ソラの唇のしわに「永遠の世界の実相を感じる」。目の前にある景色の先に、ムラサキは〈世界の真実〉をつかみとっていた。
『ムラサキ』は、言葉の世界にどっぷりとつかるわれわれに、いやおうなく新世界を突きつける。ページをめくるごとに、ムラサキが自分の五感を開き、全身全霊でダンスに向き合っていることを、肌がひりつくほど教えられるのだ。その気に、あてられる。こんなふうにエネルギーを発散してみたいと考える。自分自身の「身体で感じる」経験の乏しさが恥ずかしくなり、もっと歩き回り、何かに触れなくてはならないと自省を迫られてしまう。画面を通して、ムラサキの熱が波及するのだ。
絵とセリフで展開する漫画の形式を用いて、身体感覚はどこまで表現可能なのか。限界に挑もうとする作者のストイックさには、感服せざるを得ない。
現在『ムラサキ』はLINEマンガ無料連載にて配信中だ。単行本は1巻が秋に発売され、2019年春に2巻の刊行が予定されている。まだ始まったばかりの未知数な作品であるが、一度読めばきっと「わかる」。できれば単行本のページをめいっぱいに開いて、黒く渦巻く身体の躍動を浴びてほしい。わああーーーん、うおーーーーん。
関連記事
- お姉様の映画話を聞き通せたらご褒美→説明下手すぎて寝落ち 『おやすみシェヘラザード』が映画レビュー漫画なのに百合だし対決モノで目が離せない
「映画レビュー寝落ちバトル百合エロ」というカテゴライズが成立してしまう、だと……!? - 人生に必要なのは才能でも努力でもない 生きるのが苦しいなら、今こそ『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』を読もう
この春、あの泣き虫助手と無口な執行人にもう一度会える! - 「冨樫との付き合い方がわかった」「好きなキャラは山王の松本」 般若×R-指定×背川昇のフリースタイル漫画談義
百合ラップ漫画『キャッチャー・イン・ザ・ライム』を世に送り出した3人が漫画とMCバトルについて語った。 - 憧れてるから、一番憎い 嫉妬と後悔に潰される青春マンガ『群青にサイレン』がキツすぎる
『いちご100%』で一世を風靡した作者の最新作、全力でレビューします。 - 二元論を抜けた先にあるエモーション 「左門くんはサモナー」は間違いなく名作である
週刊少年ジャンプで連載中「左門くんはサモナー」(沼駿)はおもしろいですよ!!
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
祖母から継いだ築80年の古家で「謎の箱」を発見→開けてみると…… 驚きの中身に「うわー!スゴッ」「かなり高価だと思いますよ!」
-
小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
-
【今日の計算】「2+13×2−6」を計算せよ
-
柴犬が仮設住宅に入ると、布団に隠れた大好きなお姉ちゃんが! 被災した柴犬が見せた最高の笑顔に「こちらまで幸せな気持ちになります」
-
パパがヒゲをそって大ショックな息子の反応が3600万再生 予想外な落ち込みように両親苦笑い【海外】
-
トリンドル玲奈の結婚相手は誰? 2024年に2歳年下俳優と結婚発表、ラブラブ2ショットを公開
-
「人生で一度は見てほしい」「息をのむ美しさ」 この世のものと思えない幻想的な“一本桜”に15万いいねの大反響
-
元パティシエ直伝、スライスチーズを使う激ウマ蒸しパンが209万再生! あまりのおいしさに「秒でなくなった笑」の声も
-
【今日の計算】「101×99」を計算せよ
-
スマホがネットにつながらないと思ったら…… 想定外すぎる落とし物の事例に「こわ!」「こんなん初めて見た」と驚く声上がる
- 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
- 富山県警のX投稿に登場の女性白バイ隊員に過去一注目集まる「可愛い過ぎて、取締り情報が入ってこない」
- 2カ月赤ちゃん、おばあちゃんに少々強引な寝かしつけをされると…… コントのようなオチに「爆笑!」「可愛すぎて無事昇天」
- 異世界転生したローソン出現 ラスボスに挑む前のショップみたいで「合成かと思った」「日本にあるんだ」
- 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
- 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
- 1歳赤ちゃん、寝る時間に現れないと思ったら…… 思わぬお仲間連れとご紹介が「めっちゃくちゃ可愛い」と220万再生
- 業務スーパーで買ったアサリに豆乳を与えて育てたら…… 数日後の摩訶不思議な変化に「面白い」「ちゃんと豆乳を食べてた?」
- 祖母から継いだ築80年の古家で「謎の箱」を発見→開けてみると…… 驚きの中身に「うわー!スゴッ」「かなり高価だと思いますよ!」
- 「ゆるキャン△」のイメージビジュアルそのまま? 工事の看板イラストが登場キャラにしか見えない 工事担当者「狙いました」
- フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
- 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
- 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
- フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
- スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
- 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
- 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
- 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
- がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
- 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」