「疫病が流行したら私を描いた絵を見せよ」 妖怪「アマビエ」と絵心も拡散力もない人が出会った漫画がゆるくてほっこり
おじさんのセリフが藤原啓治さんで再生されます。
「しばらくは平和だが、その後に疫病が来る。だが私の姿絵を人々に見せれば、家に貼っておけば大事には至らない」……。頭は人間、身体は牛の「件(くだん)」など、日本には予言をする妖怪の伝承がいくつかあります。
新型コロナウイルスが猛威を振るう中、かつてそのような予言をしたと伝わる人魚のような妖怪「アマビエ」の漫画やイラストがSNSで盛んに描かれています。今回紹介する漫画もまたアマビエを題材としたものですが……作品全体に漂う、なんともとぼけた雰囲気が「ほっこりする」と話題を呼んでいます。
漫画の作者はトキワセイイチ(@seiichitokiwa)さん。精力的に創作活動をしており、オリジナル作品『きつねとたぬきといいなずけ』など、数々の作品の公開しています。
波打ち際を散歩する男性。そこへ突如、アマビエを名乗る謎の生物が現れました。アマビエは男性に「海中に住むアマビエである。この先6年間は豊作が続くが、もし疫病が流行することがあれば、私の姿を描いた絵を人々に早々に見せよ」と伝えるのですが……舞台は現在の日本です。男性は「なかなか大変そうなのが、今まさに流行りつつあるぜ?」と返します。
今まさに大変なことになっている、と聞けば引き返そうとし、絵は面倒だから写真でどうだ、と言われれば顔を隠し、描きやすい角度を向いてくれ、と言われれば素直に従う……などなど、アマビエと男性のとぼけたやり取りが繰り広げられます。
通りがかった近所の子どもに「ヘタだね」などとバカにされつつも、本人(?)監修のもとなんやかんやでアマビエのイラストが完成します。
次はその絵を人々に見せなければなりません。2人と1匹はそれが広まるよう期待を込めてTwitterに投稿するのですが……男性のフォロワーは0人。これでは拡散のされようがありません。表情からは伺えませんが、おそらくがっかりしながらアマビエは海へ帰っていきます。ですがその後、アマビエの姿絵はちゃんと拡散されたのだろう、とうかがえる出来事が起きるのでした。よかった……。
今SNSで話題の妖怪……異形の預言獣「アマビエ」とは
アマビエは日本に伝わる妖怪で、海中から現れさまざまな予言をした、と伝えられている存在です。
アマビエの伝承は、江戸時代の肥後国(熊本県)に残っています。それによれば、海から姿を現したアマビエは「人魚に似ているが、口はくちばしのようで、頭から長い髪のようなものを垂らし、首から下は魚類のウロコに覆われ、3本足が生えている」という外見でした。そして出会った人間へ「私は海中に住むアマビエである。この先6年間(6カ月とも)は豊作が続くが、もし疫病が流行することがあれば、私の姿を描いた絵を人々に見せよ」と予言めいたことを語り、海へ帰っていったそうです。
なおアマビエ、という名称での記録は、先述した熊本県における1件しかありません。名前の意味が分からないことも踏まえた上で「海中からの出現、予言をする、姿絵による除災、3本足、という共通点があり、似た名前で複数の記録が残る“アマビコ(天彦、天日子など)”と同種の存在で、アマビエの“エ”は誤記」とする説も出ています。
余談ですが、日本妖怪研究の第一人者でもある漫画家・水木しげる氏は、アマビエを個別の妖怪として捉えていたようです。ですが同氏の著書『日本妖怪大全(講談社)』において、アマビエは「アマエビ」と盛大な誤記をされています(重版では修正済み)。書き間違いの説にせよ、何かと名前の表記ミスに縁のある妖怪、と言えるのかもしれません。
作品提供:トキワセイイチ(@seiichitokiwa)さん
(たけしな竜美)
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