おけけパワー中島という概念が誕生した日 同人字書きの情念を描いた漫画「同人女シリーズ」作者に話を聞いた(1/3 ページ)
今まで名前がなかったあの感情に「おけけパワー中島」という名前がつきました。
憧れの同人字書きへの熱情とその周囲への羨望や悔しさを描いた漫画のリアルさに、とある言葉がトレンド入りしてしまうほどの現象が起きました。そのキーワードは「おけけパワー中島」。
最初の漫画は、地味に活動していた同人字書きの七瀬が、綾城という驚異的才能のある同人字書きを見つけたことから始まります。綾城に興味を持って欲しいために、必死に二次創作に取り組んでいた七瀬の前に現れたのが「おけけパワー中島」という人物。自分よりも綾城に詳しく親しい「おけけパワー中島」が、七瀬を狂わせるのでした。
続いて投稿された第2話は、それまで別のジャンルとして字書きとして活動していた友川が、綾城に触発されて、綾城と同じジャンルの小説を書き始める話。しかし、しばらくすると綾城はそのジャンルを離れ、別のジャンルへと移動してしまいます。「誰が綾城さんをそのジャンルへ引っ張り込んだんだ!?」と悶絶する友川。そして綾城さんにその新しいジャンルを布教したのが……「おけけパワー中島」でした。
綾城への熱情をこじらせる原因として2度も登場してきた「おけけパワー中島」。なぜか大手サークル主とやたら仲が良い一般人や、新規ジャンルに神作家を引き込む仲良しの人といった人物像に思い当たる読者が多かったのか、第2話投稿後にはTwitterのトレンドに「おけけパワー中島」が入るほど爆発的な話題となりました。
「おけけパワー中島」がどういう人物なのかははっきりとはしませんが、漫画から読み取ることができる〈綾城から信頼されているほどの人物〉、〈本人にはまったく悪意はない〉など、断片的な情報から「おけけパワー中島」の人物像を考察するに至り、Twitterでは「おけけパワー中島」という概念が誕生しました。
また読者も理解していますが、「おけけパワー中島」の行動はオタクとして何も間違ったことをしているわけではありません。ただジャンルにハマった人間としては「おけけパワー中島」という存在にはどうしても心揺さぶられてしまうのです。
作者の真田(@sanada_jp)さんはその後、これらの「同人女」シリーズの続編として「7年前の本が欲しい」「7年前の本がほしい 後編」も公開し、こちらも大きな話題になりました。
こうした一連の「おけけパワー中島現象」について、真田さんにいくつか質問をしてみました。
同人イベントが延期、中止になったことがきっかけで生まれた「おけけパワー中島」
── この作品を描いたきっかけは何だったのでしょうか。
真田 ふだん二次創作を描かせていただいているのですが、新型コロナウイルスの影響で同人イベントが軒並み延期、中止となってしまいました。そこでこの機会に「オリジナルを描いてみようかな」と思ったのがきっかけです。
── 二次創作とオリジナルではアプローチの仕方が変わってきますね。
真田 オリジナルは苦手だったので、たくさん描いてトライアンドエラーで力を付けようと思い、6月を「短いオリジナル漫画をいっぱい描く月間」にしました。その期間に描いたもののひとつが、七瀬と綾城の話「秀才字書きと天才字書き」です。
── 漫画の内容そのものも身近なことでとても面白かったです。おけけパワー中島にモデルはいるのでしょうか。
真田 直接のモデルというのは存在しません。七瀬(天才字書き綾城に憧れる秀才字書き)というキャラにとって、彼女の感情を最も揺さぶり、めちゃくちゃにするのはどういう存在かと考えた結果、自然と生まれてきました。
── オタク女子の心の動きを十分理解された上で出来上がったものだったのですね。Twitterでの反響については、どのように思っていますか
真田 おけけパワー中島の反響については、まったく予想外だったので驚きましたし、うれしく思っています。七瀬の心を乱すために作ったキャラが、読者の皆さんの心を直接乱す存在になっていることは、興味深く思います。
何かに夢中になる素晴らしさを伝えていきたい
── 感想も多く届いたかと思いますが、印象に残っている感想や反響はありますか。
真田 「絵や小説を書きたくなった」など、なにかを生み出したい気持ちに繋がったという感想が嬉しかったです。ネガティブな感情についても描いていますが、「何かを表現するって良いよね」という思いが根底にあるため、表現欲が高まったという感想はとても励みになりました。
── まさしく綾城が七瀬や友川に与えた影響そのものですね。
真田 表現の方法にも色々ありますが、私は物語を作るのが大好きで、去年はその面白さを伝えるために「いまからまんがを作ります。」という同人誌を出しました。今度は綾城たち同人字書きを中心とする物語を通して、何かに夢中になる素晴らしさを伝えていければと思っています。
── ぜひ同人字書きの面白さを伝えていただきたいです! 最後に同人誌を作る側として一言お願いします。
真田 先日ついに冬コミの中止が発表されましたが、これを機にあらためて同人誌即売会という「発表の場」があることのありがたみを実感しています。今は大変な時期ですが、私たちの大好きなあの空間で、また会える日を楽しみにしています。
画像提供・取材協力:真田(@sanada_jp)さん
※価格は記事掲載時点のものとなっています
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