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手に負えないからこそ救ってあげたい 「おはよう、いばら姫」のヒロイン・志津は残念かわいい虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第54回

社主が愛してやまない「残念美人」シリーズ、今回は森野萌「おはよう、いばら姫」を紹介します。

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 ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。残念美人が大好きな虚構新聞の社主UKです。

 さて、連載第54回となる今回は「デザート」(講談社)にて連載中、森野萌(めぐみ)先生の「おはよう、いばら姫」(〜2巻、以下続刊)を紹介します。

 掲載誌「デザート」は少女マンガ誌なのですが、本作「いばら姫」は主人公・哲(てつ)の男子視点でストーリーが進むボーイ・ミーツ・ガールな作品。ヒロイン・志津の残念……、いやかわいさも相まって、男子読者でも抵抗なくスッと読めるんじゃないかと思います。

 ねとらぼを読んでいる数少ない女性のみなさまはもちろんのこと、少女マンガを食わず嫌いしている野郎どもにもこれを機会にぜひ手に取っていただきたいということで、今回はその魅力について語っていきます。


おはよう、いばら姫おはよう、いばら姫 「おはよう、いばら姫」(〜2巻、以下続刊) → 試し読みページ


出会い、そしていきなりの告白、からの……

 高校3年生・美郷哲はとある理由からお金を稼ぐためバイトを掛け持ちする毎日。彼は丘の上にある空澤邸で家政夫のバイトをしているのですが、この屋敷には近づいてはならないと言われている離れがひとつ。

 「病気がちのお嬢様が住んでいるらしい」と噂されるものの、長年空澤邸で働いている家政婦さんたちですら誰も会ったことがない、生きているのかどうかも分からない謎の少女……。お化けが苦手な哲はそんな怪談まがいな噂話に青ざめるのですが、そんな彼が仕事中、つい庭でうたた寝してしまったその時、ひとりの人影が近づきます。

 目の前に現れたのは黒髪の少女・空澤志津。離れに住むお嬢様は実在していたのです。どこか遠くを見つめているような虚ろな表情で一言も発することなく、けれどやわらかな笑顔を哲に見せる彼女。


おはよう、いばら姫 ヒロイン・空澤志津との出会い

 急な出来事に慌ててその場を立ち去ってしまった哲は、翌日あらためて彼女のもとを訪れます。チャイムを鳴らした哲の前に現れたのは、前日とはまるで人が変わったかのようにおしゃべりで快活な志津。そこで哲は彼女が家の外に出してもらえないこと、親とも何年も直接話していないことを知らされます。

 そんな志津に同情した哲は、ちょうどその日の夜に迫っていた流星群を見ようと彼女を近くの公園に誘います。夜遅くに屋敷をこっそり抜け出し、満天の星空を流れゆくたくさんの流星を眺める2人。何度も離れに通っているうちに志津の笑顔に惹かれていた哲は勢い余って告白してしまいます。

「…俺 笑ってるアンタが好きです!」

 最初は意味が分からなったものの、それが恋愛的な意味だと聞かされ「マジで!? マジで!?」と連呼する志津。けれどその場ではイエスともノーとも言わず「次の出勤日にまた同じことが言えたら答えるから」という謎の返答。

 かくして次の出勤日、いつもの離れを訪れた哲はベンチで眠っている志津を見つけます。けれど声をかけられた志津は哲を見るなり……

「―――あなた、誰?」

「あぁ…思い出した この間「ハルさん」と流れ星…見た人」

 目の前にいる虚ろな表情の志津は「マジで!?」を連呼したあの流星の夜の彼女とは別人のようでもありました。



ボーイ・ミーツ・ガールからボーイ・ミーツ・ガール“ズ”へ

 流星群の星空のもと、好きな少女と二人きりで告白するという何とも甘酸っぱいボーイ・ミーツ・ガールのちゃぶ台を最後の最後になってガシャーンとひっくり返すような展開に「えええ……」と絶句せざるを得なかった社主ですが、一体どうしてこうなったのか。

 ネタバレになるので詳しくは伏せますが、その理由は彼女が持つある特殊な“体質”。この体質のために彼女には“中の人”が何人もいるのです。

 一緒に流星群を見た元気な彼女は志津の中の「ハルさん」。それ以外にも知的で穏やかな「志信」、魔性の女「みれい」、少年のような「カナト」という“中の人”が多重人格のような(しかし多重人格ではない)かたちで共生しているのです。そしてもちろん“中の人”ではない志津本人も。

 笑顔に一目惚れしたことから始まった哲のボーイ・ミーツ・ガールは、ボーイ・ミーツ・ガールズへと姿を変え、そのストーリーも大きく変ぼうしていきます。口調も性格も表情も異なる彼女たち。哲が好きになったのは果たして誰の笑顔だったのか……。

 と、ちょっとここまで神妙な顔つきで話してきたわけですが、そんなシリアスなストーリーだけでなく、そこから繰り出される少女マンガらしからぬコメディシーンの数々もまた非常に魅力的。そしてこのシリアスとコメディの振れ幅の大きさ、先の読めない展開のバラエティこそが本作最大の見どころではないかと思っています。

 コメディの多くは志津の“中の人”がやらかすシーンですが、そのやらかし方が度を越えているのです。そしてその斜め上をいく展開に正直何度も爆笑しました。例えば2巻、哲とのリフティング勝負に負けた志津が「ごじひををを」と再勝負を土下座して頼むシーン。


おはよう、いばら姫 問題の土下座

 「ヒロインに土下座させちゃダメだろ!(笑)」と秒速でツッコんだことは言うまでもありません。それに対する哲も哲で「おい 外聞の悪いことするな!!」とすかさず返します。そしてそのやり取りですら、この後に続くさらにひどい(※褒め言葉)展開の前哨戦でしかなかったという……。

 一見正統派のように見える美しい表紙のイメージからは想像がつかない、感情高低差の激しいストーリー展開は、かつてメガネ委員長・大島さんに「キンタマついてんのか!!」と叫ばせた「となりの怪物くん」の掲載誌「デザート」ならではのフリーダムなのかもしれません。新人さんとは思えない高い画力をシリアスからコメディまで全方向に惜しみなく出し尽くしているところもステキです。

 常々残念美人好きを公言している社主にとって志津は「うむ、かわいい」→「うっ、せつない……」→「ひい、怖い」→「大丈夫かな、この子」→「何かヤな性格だな…」→「土下座したらダメだろ!」→「いや、やっぱり守ってあげたくなるな」→「うむ、かわいい」(以下エンドレス)という、ページをめくるたびに印象が変わる大変魅力的かつ残念な女の子です。

 こういう「身近にいたら手に負えねえ」感は残念美人に欠かせない大事な要素なんですよ!!と力説しつつ、そしてこんな手に負えねえ女の子を救いたいと思ってしまった適応力の高い哲に他人とは思えないシンパシーを感じつつ、あとついでにリアルでも残念美人(メガネ)にお目にかかれることを願いつつ、今日はこのあたりで筆をおきます。

 今回も最後までお読みくださりありがとうございました。



(c)森野萌/講談社


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