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買い専だけじゃもったいない! コミケサークル参加のススメ

発信する側からしか見えない世界がある。連載「ネットは1日25時間」。

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 8月12〜14日の3日間にかけて行われた日本最大規模の同人誌即売会「コミックマーケット90」、いわゆる「夏コミ」は今回も相変わらずの熱狂と盛り上がりを見せました。

 毎回60万人近い来場者がやってくる日本文化の1つになりつつあるコミケ。今回の夏コミ一番のニュースといえばあのT.M.Revolutionの西川貴教氏がはじめてサークル参加し会場である東京ビッグサイトに姿を見せたことです。新刊は2時間で完売、ファンの方々との握手も行い、熱気溢れる夏コミにハイプレッシャーな旋風(せんぷう)を巻き起こしました。

 実は筆者も今回の夏コミにはサークル参加をしておりました。サークルとしての参加はこれが2回目。最初は買い専(同人誌を買うことだけを専門にする人)として参加していたコミケも、サークルとして参加することでまた新たな楽しみを発掘することができました。

 現代はネット通販や同人ショップの存在、また自分好みの創作物がpixivやツイッターといったSNSで簡単にチェックすることができるようになり、コミケをはじめとした即売会にわざわざ足を運ぶメリットは、売り手としても買い手としても見いだしづらくあります。

 とはいえ、ソフトの売上が下がってもライブの動員人数が上がった音楽業界同様、自ら現場に足を運ぶ面白さ……特にサークルとして参加することの面白さは、ネットウォッチングではなかなか得難い体験を多く手にすることができます。

 サークル参加に興味はあるけれど一歩踏み出せない、「買い専」に飽きてしまった、新しい趣味や刺激が欲しいという方々へ。今回はコミケももちろんのこと、規模やジャンルの大小を問わない「即売会」にサークルとして参加することの楽しさを、筆者自身の実体験を絡めて伝えたいと思います。

星井七億コラム

サークル参加でしか得られない体験

 どうしても表現したい「好き」や「こだわり」がある……それは漫画であったり、小説であったり、評論に音楽、人形やアクセサリーなど形はさまざまで、情熱の形や深度には個人差があれども、表現に対する欲求は多少なりとも誰もが持っているものです。

 即売会は自分の「好き」や「こだわり」にかなったコンテンツを見つける場所であり、見せつける場所でもあります。こだわりの数は十人十色。それを「どういう形で表現するか」まで考えれば、その方向性は無限大です。

 特にコミケに関しては「ないジャンルがない」と言ってもいいほどジャンルは豊富ですし、仮に自分が求めているジャンルがなかったとしたら、サークル参加することで自分が唯一のジャンル主になれるチャンスであり、その魅力を十分に伝え広げるチャンスでもあるわけです。「十徳ナイフ評論」とか「風呂場の水アカ観察本」「セアカゴケグモのぬいぐるみ」など、法とイベントのルールに抵触しなければどんな趣味も好きなように表現できます。

 表現の世界はニッチであればあるほど面白い、というのが私の持論です。しょせんニッチなものなんて手にとってもらえないじゃないか、と思いがちですが、逆に世界のどこを探してもこんなものにこだわって作品を残すなんて私しかいない、なんて思われる作品を残せば、かえって埋没せず多くの人の目につきやすいものです。そしてそのニッチに共感してくれる人が現れれば、表現することの楽しみはさらに広がっていくわけです。

 もちろん、何もニッチなものだけに面白さが宿っているわけではありません。根強い人気のコンテンツ、流行のコンテンツ、歴史のあるコンテンツ、二次創作にも、自分なりの「好き」を掘り下げて表現に変える楽しみが眠っています。

 そういった自分の「好き」や「こだわり」をネットで発表して広く目を通してもらうのも魅力的なものですが、手に取れる形として残し、手渡しするという行動には、自分の表現が相手に届く感覚、その喜びが、テキストやデータでのやりとりよりも鮮明かつ強烈で、実感がわきやすいものです。

 また、通販や近場の同人ショップでいつでも同人誌や同人グッズが買えたりするこのご時世。例えば本だけにかかわらず、音源であったり人形であったりアクセサリーであったりと、わざわざ素人が作ったものに手を出さなくても、プロや企業が作った質の高いものが簡単に手に入るわけです。それなのに一般参加者がわざわざ足を運んでくれるのは、そこにしかないものを求めてきているから。なので、コンテンツに対するこだわりや熱気は相当に強いのです。

 そういった人達に自分の作品を手にとってもらえる、買われるかどうかは別だとしても目の前で評価されるという機会はそうそうなく、スリリングなものでしょう。自分の「こだわり」が相手の「こだわり」を揺さぶることができるか否かの真っ向勝負。その分、自分の作品が買われていったときの喜びも強いもの。自分の作品に興味を持ってもらえているか、自分のこだわりは人の心を動かせたか、他者と共有できたのか。それを数字やデータではなく肌感覚で味わう体験は、ネット上ではなかなかできません。たとえ自分の作品が買われなかったとしても、「好き」や「こだわり」は先述のように人それぞれ。フィットしなくても当たり前なのです。

 また、「買い専」に飽きてしまったという人のための新しい刺激としても、サークル参加はおすすめできます。今まで1つの側面でしか見ていなかった即売会の実情を、今度は違う立場からのぞいてみることで、そのままサークル参加の楽しみを覚えることもあれば、そこで手に入れた知見や発見によって、再度買い手に回った際に新しい観点を持って買い物に参加できる楽しみもあります。一度お試しで、というのも悪くないかもしれません。

星井七億コラム

それでも一歩踏み出せないあなたへ

 サークル参加する、何かを頒布するということは、自分の趣味や嗜好、現在持ちうる技術をさらけ出すことになるので、人によってはかなりの度胸を要するかもしれません。

 「こんな趣味誰も理解してくれないかもしれない」「こんな技術じゃ笑われるかもしれない」「誰も手にとってくれないかもしれない」という不安がよぎりますし、実際にそういう事態にならないとも限りません。

 もともと「買い専」だった筆者が即売会にサークル参加するようになったきっかけは、超ニッチなジャンルの小規模な即売会の開催が発表されたものの、申込締切直前になってもサークル参加者ゼロ人の状態で、このままでは開催不可能になりつつあると知り、誰も出ないならいっそ私がと思い腹をくくって申し込んでみた、というものです。

 それまで同人誌やグッズなど一度も作ったことがなく、「昔『こみっくパーティー』完クリしたし余裕っしょw」という安易な考えがあったがため、はじめての同人誌作りは一からのお勉強になりました。

 もっと難しいかと思いきやこの情報化社会、先人の知恵を借りて構造を知れば意外と簡単だということが分かり、また原稿を書き進めて完成へ近づいていくことで興奮は高まり、会場で出来上がった本をはじめて手にしたときの喜びはひとしおでした。それから幾度かにわたって即売会へサークル参加していますが、このときの喜びはいつも変わりません。技術は拙くノウハウなど皆無で、ジャンルは超ニッチという高めのハードルからのスタートでも、サークル参加の楽しみはしっかりと味わうことができました。

 これはやはり「自己満足」に徹したという面が強かったからなのかもしれません。自分が楽しいからそれでいいんだ、と割り切り、誰からの評価も気にすることなく、良い反応を他の参加者からもらえれば棚からぼたもちくらいの気持ちでいれば、サークルとしてイベントを楽しむことができます。どうしても勇気が出なかったら、ネットで仲間を探すのもいいでしょう。誰かと一緒に物を作り、即売会へ参加するのも、また楽しいものです。

 既に冬コミの参加申込は終わってしまいましたが、即売会は日本中、一年中どこかで必ず行われています。興味がある方はぜひ、サークル参加の道へ飛び込んでみてはいかがでしょう。

星井七億

 85年生まれのブロガー。2012年にブログ「ナナオクプリーズ」を開設。おとぎ話などをパロディー化した芸能系のネタや風刺色の強いネタがさまざまなメディアで紹介されて話題となる。

 2015年に初の著書「もしも矢沢永吉が『桃太郎』を朗読したら」を刊行。ライターとしても活動中。


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