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漫画『とある新人漫画家に、本当に起こったコワイ話』について、編集部の見解

事実と著しく異なる表現が多数あるため、あらためて経緯について説明します。

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 6月9日に飛鳥新社より発売された、佐倉色(さくら・しき)氏の漫画『とある新人漫画家に、本当に起こったコワイ話』内に、ねとらぼ編集部とのやりとりについて描写がありますが、著しく事実と異なる表現が多数あるため、編集部としてあらためて見解を説明いたします。

 同作は佐倉氏が2015年から2016年にかけ、少年エース編集部(KADOKAWA)とトラブルになり、最終的に決裂するまでの様子を描いたもの。このトラブルは一時ネット上でも大きな話題となり、ねとらぼでも記事で紹介していました(現在は削除済み)。

 作中、ねとらぼについて言及があるのは「第六章 絶対に無断転載じゃありません!!」の中。記事掲載後、佐倉氏より削除依頼の電話があった時のやりとりが主に描かれていますが、記事内容についての事実誤認をはじめ、「怒鳴りつけるような強い口調」「一方的に電話を切った」など、やりとりの内容についても大幅な脚色が多数見られるため、どのようなプロセスで記事を掲載し、佐倉氏とどのようなやりとりがあり、その後どのような対応をとったか、編集部の見解をあらためて説明いたします。また、本件について飛鳥新社側のコメントも末尾に掲載しています。


目次



記事掲載の経緯

記事について

 連載中の漫画家が、担当編集とのトラブルを自らのブログおよびTwitterで告発し、商業漫画引退を宣言するというのは極めて異例の事態でした。当時インターネット上でも大きな話題になっていたため、事態の重大さや話題性などから総合的に判断し、以下の記事を掲載しました(現在は削除済み)。


『とある新人漫画家に、本当に起こったコワイ話』について Internet Archiveより、当時の記事「「桜色フレンズ」の佐倉色先生が商業マンガ家引退を表明 月刊少年エース担当者とのいざこざが原因現在は削除済みですが、今回の見解を掲載するにあたり、編集部の主張をより明らかにすべく、記事全文の画像をあらためて掲載しました。なお、画像引用部分については編集部側で加工しています)


執筆にあたり使用したソースについて

 佐倉氏のTwitterおよび公式ブログを主な一次ソースとしました。少年エース編集部への電話確認も行いましたが、担当者不在により回答は得られませんでした。


事実確認について

 編集部では通常、適切な事実確認を行った上で記事を掲載していますが、原則として、芸能人や政治家・スポーツ選手・漫画家などが、公式サイトおよびブログ・SNSなどで発信した内容については、「公式発言」であり、一次ソースとして信頼に足るものと考えています(似たケースでは、スポーツ選手がブログで引退を報告した場合などがあります)。

 また「商業引退」は佐倉氏個人の意向の問題であり、少年エース編集部への取材は主に「担当編集とのトラブル」について確認するのが目的でした。


「商業から撤退」の解釈について

 上記、ソース全文を確認した上で、“ツイートした通り、商業から撤退 というのが今後の方針です”“前回のツイートと変わらず、『商業から撤退』という意志が変わっていないのは、謝罪や誠意が足りない等の理由では、決してありません”(いずれも佐倉氏のブログより)などの表現から、編集部としては「例外的に復帰する可能性は否定していないが、商業漫画からは基本的に撤退」「漫画自体からの引退ではなく、今後は同人など商業漫画以外の場へとシフトする」と受け取り、そのように記事化しました。

 なお、記事中でも「引退する旨のコメントを発表」「プロではなく趣味としてマンガを描いていきたい」「『商業から撤退すること』を方針に掲げ活動していく」など、完全撤退と断定するような表現は避けていました。



作中における事実誤認について

「記事はその殆どが私のブログの文章で構成」との表現について

 記事は「佐倉氏本人がブログとTwitterで発言した」という事実を報道したものであり、文章は編集部側で新たに書き起こしています。ブログの文章をそのまま転載したものではありません。


「殆どの人が商業引退と受け取っていない」「記者なら全文を読んだ上で記事にしたはず」との表現について

 前述の通り、全文を読んだ上で、「例外的に復帰する可能性は否定していないが、商業からは基本的に撤退」「漫画自体からの引退ではなく、今後は同人など商業漫画以外の場へとシフトする」と受け取り、記事化しました。


画像引用について

 佐倉氏がブログに掲載した「お礼漫画」の中に、作者と編集者の関係を示唆する表現があったことから、引用元を明示したうえで、ブログの一部を撮影したスクリーンショットを掲載していました。作中では「漫画は全2ページでどちらもそのままきっちり2ページ掲載されていた」「事前報告なく全ページ使用した」との表現がありますが、使用していたのはあくまで一部であり、「きっちり2ページ掲載」「全ページ使用」といった事実はありません。


『とある新人漫画家に、本当に起こったコワイ話』について 編集部が使用した部分(画像加工は編集部によるもの)

電話でのやりとりについて

 もっとも強く問題視している部分で、描かれているやりとりの大半が事実と著しく食い違っています。実際のやりとりは次のようなものでした。

(1)記事掲載後、佐倉氏本人からアイティメディアに電話があり、最初は記事執筆者(宮澤)が対応、続いて副編集長(池谷)、編集長(加藤)が対応を引き継ぎました。佐倉氏は激しい剣幕(けんまく)で、近くの席からでも受話器越しに会話内容が聞こえるほどでした。

(2)佐倉氏は次のように主張しました。「1:自分に断りなく記事が掲載されている」「2:画像は無断転載である」「3:文章もブログからの無断転載である」

(3)編集部はこれに対し、「記事は『漫画家本人が公式に発言した』という事実を報道したものです」「文章は編集部側で書き起こしており、ブログからの転載は行っていません」と説明しました。しかし、佐倉氏は会話の途中で遮るように「本人が消せと言っているのだから消すのが当然」と繰り返し主張し、ほとんど会話にならない状態でした(作中で編集部側が話したとされる「ジャーナリストとしてうんぬん」の部分は恐らく「事実を報道した」という部分、「無断転載じゃありません」の部分は「文章は編集部側で書き起こしたもの」という説明を誤って解釈したものと推測します)。

(4)やりとりの中で、編集部側からは「商業引退ではないということでしょうか」とも質問しましたが、佐倉氏は前述の主張をひたすら繰り返し、回答をいただくことはできませんでした。作中の表現「延々自分の信念を喋るだけで何かを聞き出そうとか取材する素振りも見せない」は事実と異なっています。

(5)作中では「画像を削除してくれれば大事にする気は全然ない」と描かれていますが、佐倉氏は当初より「自分に断りなく記事が掲載されている」という部分を強調し、記事自体の削除を強く望まれていました。

(6)編集部側はあくまで落ち着いた口調で対応しており、「半ば怒鳴りつけるような強い口調」は事実と著しく異なっています。最後に一方的に電話を切ったように描かれていますが、そのような事実もありません。



その後の対応について

記事削除に至った理由

 画像について引用の範囲を超えている可能性があったことと、佐倉氏が記事の削除を強く望まれていたことを考慮し、記事の削除を決定いたしました。


削除方法について

 編集部としては、記事本文については正当なプロセスのもと掲載したものと考えています。このため、画像のみ削除するのではなく、記事そのものを削除するにあたり、読者に対し削除理由を説明する必要がありました。最終的に、佐倉氏本人から削除依頼があった旨を追記し、本文および画像は削除、記事ページそのものは残すこととし、この対応で問題ない旨、佐倉氏から了承も得ています。


飛鳥新社の見解

 これらを踏まえ、飛鳥新社の担当編集者に見解をうかがったところ、次のような回答を得ました。

―― 出版にあたって、KADOKAWAやアイティメディア(ねとらぼ)側に確認は行いましたか。

担当編集者:確認はしていません。

―― 事実と異なる内容が散見されますが、どのような判断のもと出版に至ったのでしょうか。

担当編集者:基本的に著者を信じて作っているところもありますし、例えば裏取りとかはしないといけないとは思いますが、この本に関しては裏取りをしないで進めていました。(佐倉さんの漫画については)今までのお付き合いの中で整合性が取れているんですよ。それで恐らく真実であろうと。


KADOKAWAの見解

 また、KADOKAWA側にも本件についてコメントを求めましたが、「著者と当社とのやりとりのことなので、(発表すべきことがあれば)編集部から発表させていただきます」(KADOKAWA メディア広報セクション)とのことでした。また、少年エース編集部に直接確認したい旨を伝えると、「お断りしています」、今後これらの発言について社内調査を行う予定があるかについては「それも現段階でお伝えできることはありません」とのことでした。






 ――以上のように、少なくともねとらぼに関する描写について言えば、意図的な脚色なのか、佐倉氏の記憶違いによるものなのかは不明ですが、事実との著しい食い違いがみられ、編集部としては到底看過できるものではありません。飛鳥新社側には速やかに事実確認を行うことを求めます。

2017年6月12日 編集長 加藤亘



6月14日23時追記

 弊社サーバー上に当時の画像が残っているとの指摘を読者から受け、サーバから画像を完全に削除いたしました。



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