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子ども全員で生き延びるなんて無茶じゃない? 『約束のネバーランド』エマは誰一人置いていかないあのキャラに花束を

死と隣り合わせの鬼ごっこ。

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約束のネバーランド 銀髪の子がノーマン、赤髪がエマ、黒髪がレイ (C)白井カイウ・出水ぽすか/集英社

 自分が今まで信じて生きてきたこの世界は、実は誰かに作られたニセモノかもしれない。この不安を映画のタイトルから取って「トゥルーマン・ショー妄想」というそうです。「攻殻機動隊」や「マトリックス」でもありましたね。

 子どもたちの見ていた世界は、全てまがい物だった。偽りの箱庭からの脱出劇を描いた『約束のネバーランド』(白井カイウ・出水ぽすか)より、絶対自分を曲げないサバイバルリーダーの少女エマをご紹介。

信じてきた世界は全てウソだった

 元気いっぱいで運動神経抜群のエマ。飛び抜けた天才で分析力が高いノーマン、博識で知略に長けたレイ。3人は親のいない子どもたちが暮らす施設で暮らす最年長の11歳。みんなのお兄さん・お姉さん役として、38人の子どもの暮らしをリードしていました。

 特にエマは、みんなを本物の家族のように大事にし、世話をしてくれる唯一の成人女性「ママ」を本当の母親のように慕っています。とても幸せだったので、施設の外に何があるか、考えもしませんでした。


約束のネバーランド このまま何も知らずにみんなで笑っていられたら、幸せだったのかな

 ところがある日、里親に引き取られた少女が、えたいの知れない生き物に殺されているのを見てしまいます。実は外にあるのは、人を食らう鬼の世界。彼女たちがいたのは、鬼が食用人肉を育てる施設

 自分たちが今まで信じてきた世界は、何もかもウソだった。エマ、ノーマン、レイの3人は、秘密の脱出作戦を立て始める。


約束のネバーランド あんなに優しかったママは、ずっと自分たちをだましていたんだ……(1巻P99)

絶対曲がらない頑固ヒロイン

 主人公のエマは、一人も残すこと無く脱出すると主張し、頑として曲げない様子がひときわ目立つマンガです。

 いやいや、無理でしょ! 上はまあ10歳以上だからともかく、一番下はまだ1歳の赤ちゃんだよ。37人一人残らず一斉に逃げるって、どうやって? 脱出した後、逃げるだけじゃなく赤ちゃんの世話はできるのか? 無謀にも程がある。

 思慮のあるレイは、無理だと言いはります。でもエマは、幼子であろうと内通者であろうと、一人も死なせずに脱出すると言ってききません。


約束のネバーランド エマならそういうと思ってたよ(2巻P105)

 エマ「無理でも私は全員で逃げたい。何とかしよう! 全滅はやだよ。でも置いてくって選択肢はない」(1巻P122)

 さすがに、本人も「無理」を言っているのはわかっているようです。だって自分たち3人だけだって、脱走は難しいもの。だから諦める、という考えが全く頭をよぎらないのが、エマという子です。作戦を成功させるため、低い可能性を切り捨てようと考えるのは、至極当然のこと。でも、エマの中には一瞬たりとも、置いて行くという選択肢は生まれません。「もし」なんて考えない。この誰にも揺るがせられない思いが、物語の芯になっていきます。

 ノーマン「ほらこれだ。無茶で無謀で、甘くて幼稚で。けどまばゆいくらいに、真っすぐで。一生懸命考えたんだろうな……てんで滅茶苦茶だけど。でもエマはわかっていない。その気持ち、その思いだけでどれだけ僕が幸せだったか。だから僕は辛くても怖くても笑顔でいられた」(4巻P92)

 愚かしいほどに真っすぐな人間に、人は勇気をもらえるものです。多分それが「ヒーロー」って呼ばれるんだと思う。

怒り、悲しみ、信念

 ただし、エマは普通の人間の女の子。心身が強い超人じゃないし、特殊技能を持つわけでもない。実際は常に限界です。ある人物が「この子は元々たくましいんじゃない、たくましく在らなきゃならなかったんだ」(6巻P149)と評している通り。エマをヒーローとして頼りすぎてしまうのは、とても危険。多分壊れちゃう。

 この作品、逃げるためのだまし合いが多いためどこまで感情のブレーキを踏めるかがキモになっている。エマはとっさに飛び出すタイプの子なので、激情を表に出さないよう心を抑えるシーンがとても多いです。愚直な人間がウソをつくのは、めちゃくちゃ体力がいること。

 いっそ武器持ってぶんぶん振り回せるのならば、すっきりするのにね。でも事態はそんな単純じゃない。


約束のネバーランド ママ側のチェックメイトの連続で、ひたすらすり切れていく(4巻P121)

 何をしても覆されて絶望的。精神的に追い込まれるシーンが多いです。

 エマが何一つ諦めないのは、子どもたち全員を救うため。そこが脱出の最大のネックでした。ところが、少しづつ希望に変わっていきます。


約束のネバーランド 鬼ごっこ、という領域じゃないぞ!(2巻P18-19)

 高度な鬼ごっこで年下の子たちに逃げ方の技術を教えるシーン。最初は年少の子は知らずに楽しんで練習していますが、これが後に本当に逃げる技術へと結びついていきます。この目、とても一桁台の子どもじゃない。

 事情を知る年下の子たちが、疲弊したエマに言います。「お願いだから自分を大切にして。私達のことを大切に思ってくれるのは嬉しいけど、エマ達だって同じように大切な家族なのよ?」(6巻P109)

 彼女たちの手の及ばないところは、年下の子達がその分全力で突破口を作ろうとしはじめます。人数が多いってことは、多岐にわたるルートが見つかるかもしれない、逆に! 生き残る希望があるとしたら、ここなんじゃないかな。


約束のネバーランド 考え方は常にプラスに切りひらけ(2巻 P186)

 エマたちが常時、状況を見ながら推理し続けるサスペンスマンガ。えたいの知れないウソの圧迫感がすごいだけに、くぐり抜けたときのカタルシスが半端じゃない作品です。6巻ではタイトルの「約束」の意味も見え、世界観もわかり始めてきます。それもどこまで本当なんだか信じきれない、スーパー疑心暗鬼マンガ。読んでいるこっちも迷います。でも、エマが曲がらない、ってのだけは信じて読める。

 1巻は11月16日まで期間限定無料でKindle版が出ています。この機会に是非。



(C)白井カイウ・出水ぽすか/集英社

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