“ゲームのテクノロジーを使ってゲーム以外のことをやる”それが成功への近道:CEDEC 2005リポート
開催中のCEDEC 2005において、ラウンドテーブル形式のセッション「いでよ、ゲームベンチャー! 〜ゲーム業界の地平線を切り拓く〜」が行われた。5人の講師陣たちが語る、独立するうえでの利点、問題点、そして今後狙うべき部分とは?
リヴィールラボラトリ代表取締役社長/COOの田中泰生氏は、「いでよ、ゲームベンチャー! 〜ゲーム業界の地平線を切り拓く〜」と題したセッションを開催。
本セッションはラウンドテーブル形式で、田中氏のほかにも、キューエンタテインメント代表取締役CEOの内海州人氏、ヘッドロック代表取締役社長の岡田信之氏、ユビキタスエンターテインメント代表取締役社長の清水亮氏、コミュニティーエンジン日本CEO中嶋謙互氏などの豪華ゲスト講師陣が招かれて展開した。
田中氏は「(ゲスト講師陣たちが)何を考えて冬の海に飛び込むような独立を行い、どういった勝算があると考えているのか? あるいは、これから独立を考えている人に、こういったビジネスチャンスがあるよ、といったことを話していただこうと思います」と本セッションの主旨を説明。
何を考えて独立をしたのか? という点に関しては、岡田氏が「独立せざるをえなかったというか……。元々は証券会社にいて、その時に福嶋さん(スクウェアエニックス福嶋康博会長)を紹介してもらいお世話になっていた、というのがゲーム業界に入ったきっかけ。ただ、エニックスは当時、自社開発を置かないというポリシーがあり、私は逆に少しでも置いたほうが良いという考え方だった。そこで対立したこともあり、独立しましたが、今の時点ではこれで良かったと考えています」とコメント。
また、内海氏からは「元々はSCEにいて大勝ちしている時に、“バカだな”ってみんなに言われながらセガに移った。そこからディズニー・インタラクティブ・ジャパンに移り、そして独立。損得だけで言えば損をしているかもしれませんね。でも、まだ途中ですから……」といったように、それぞれが事情を抱えながら独立に至った、その経緯が語られた。
なお、先にも述べたように、本セッションはラウンドテーブル形式。セッションに参加した多くの開発者たちからも質問が投げかけられたのだが、その1つには「(自分は)10年以上ゲーム開発に携わっていますが、今の体制や、会社自体にも限界を感じ始めています。(講師陣の方々は社長ですが)自分が考えているように出来ていない部分ってあるのでしょうか?」といった面白い質問も(まぁ、普通は自社の社長にこの質問はできませんよね……)。
この質問に対しては、岡田氏が「ほとんどは自分の思った通りに出来ています」と強気のコメント。しかしその後すぐに「それが逆に弊害をもたらし始めているとも言えます」との言葉が続けられた。
自分の思うように出来ているのに、なぜそれが弊害となるのか? この疑問に関して岡田氏は「ゲームの開発から経理の方針まで、何をやるにしてもワンマンでやってきたので、社員があまり育たない、というか、何でも僕の顔色を伺うようになってきてしまっているということです。取引先にしても、まず僕が参加することが条件になることがあり、それだとどのタイトルも僕色に染まってしまう。これは弊害、というかリスクが高い」と語ってくれた。
確かに「自分の思い通りにやる=自分が何でも関わる」ということにもつながる。少数精鋭の企業ならばともかく、現在では70人以上の社員を抱えるヘッドロック。岡田氏がすべてに関わる、という状況は弊害以外の何者でもないだろう。
ほかにも、タイトル至上主義のメーカーに勤めているというモバイルコンテンツの開発者からは「作りたいものが作れないので、オリジナルコンテンツを作りたい(から独立したい)。ただ、モバイルだけでなく、モバイルからコンシューマへと展開する、といったものを考えているのですが……」といった悩みが挙げられた。
これについては内海氏が「それは良いと思いますよ。僕らにチャンスがあるとすれば、“ゲーム業界の人がビデオゲームしか見ていない”という点にある。それをどう活かすかが勝負になる」と回答していた。
さらにトークは加熱し、独立するうえでの重要な要素「人と金」にテーマがおよぶ。周りに独立を考える人間がたくさんいて、代表して立ってくれ、と持ちかけられた場合、独立すべきですか? という何とも生々しい質問を投げかけた参加者には「すべきとは軽々しく言えないですけど、それはチャンスですよね。ただ、そうなった時は会社経営とクリエイター業は分けるべきですよ。両方やるのはロスだと思います。どこかで補えるなら良いかもしれませんけど、補えない場合はかなりキツくなりますから」といったように、自らが率先して作業をこなしていたため弊害が生まれてしまった経験を元に、岡田氏がアドバイスを行っていた。
最後に、これからもし独立をするとしたら、どういった部分を狙うべきかという点については「ゲーム業界のエンジニアはすごいレベルが高いと思っていますので、ゲーム業界のスキルを使って、ゲーム以外のことをやりたいですね」(中嶋氏)。
「やりたいことは全部やってきましたから特には。ただ、プレゼン資料を用意する時など、その中にゲームとは関係のない要素を1つは入れるようにしています。というのも、僕も最終的にゲームとは関係のないことをやりたいんです。ある程度はイメージが固まっているんですけど、それをいきなりやるのは無理ですよね。だからゲームにそういった要素を入れながら、段々組み立てていっている感じです。自分が現在行っていることの延長線上や横に何かないか? それを常に考えています」(岡田氏)
「ゲーム会社で成功したかったら、“ゲームのテクノロジーを使ってゲーム以外のことをやる”みたいなとことにヒントがあると思います。これは教育とゲーム、ロボットとゲームといったように、何か×ゲームといった感じで考えていただきたいのですが、今も少しづつ実践しているところです」(田中氏)といったことが、それぞれの講師から語られた。
3者に共通しているのは、“ゲームのテクノロジーを使ってゲーム以外のことをやる”という考え方。これは非常に寂しいことではあるが、ベンチャー企業として、確固たる地位を築こうとするならば、既存のゲーム技術を利用できる何か、を考える必要が確かにあるだろう。
個人的に興味深いのは田中氏の「教育とゲーム、ロボットとゲームといったように、何か×ゲーム」という言葉。これはゲームの社会利用を考えるという「シリアスゲーム」に近いものだと感じたのだが、日本ではあまり認識されていない、しかしゲームのマイナスイメージを払拭する可能性を秘めたこの概念が、近いうちにメジャーなものになるかもしれない。そのような期待を抱かせてくれたセッションだった。
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