2006年度に新たなタイトルを投入するネクソンジャパンの戦略:ネクソンジャパン代表取締役社長 デビッド・リー インタビュー
昨年、「マビノギ」や「アイピ」のサービス化にあたり、なにかと元気のよかったネクソンジャパンは、今年もなにやら仕込んでいるらしい。そんなわけで直接ネクソンジャパンの社長に聞いてみた。
昨年は大きな変換点となったと振り返るのは、ネクソンジャパン代表取締役社長のデビッド・リー氏。「マビノギ」のサービス開始と、コミュニティーサービス「アイピ」の事業展開、「テイルズウィーバー」の基本接続無料化、そして「マビノギ」の基本接続料無料化と、既存のタイトルである「メイプルストーリー」の安定した人気とあいまって、順調な1年となった。特に「マビノギ」と「アイピ」をはじめるにあたって打ち出した広告展開もズバリと的中し、狙ったユーザーを取り込むことができたと自信をのぞかせる。とはいえ、デビッド氏はあくまでも日本でのオンライン事情が拡大し、受け取りやすい環境が整っていたからこそと謙遜してみせる。
昨年の種まきから収穫期を迎えた各タイトルの登録者数も増加。サービス開始時の加速的な伸びはないものの、安定したゆるやかな右肩あがりに定着してきているという。それは、無料化によって課金方法がアイテム販売に切り替わったことも功を奏しているのだとか。
デビッド氏は「一般のユーザーも気楽に楽しめるコンテンツを提供しないといけない」と度々口にする。オンラインゲームを1度もやったことがないような人でも取り込める努力をしなくてならない、と心に刻んでいるのだ。そのためには“出来る限りどんなスペックでも楽しめるものにするべき”との考えだ。世の中がカジュアルゲーム化の道へ向かっていると推測できるからこその選択でもある。
それは韓国でのオンラインゲームの動きを見ても分かるという。日本が必ずしも韓国と同じ道を辿っていくとは思えないが、随所に似ているところがあるのだとか。特にオンラインゲームに関して言えば、韓国でも「リネージュ」などのMMORPGが主流となってから、花札などのボードゲームへとすそ野を広げ、カジュアルゲームへと拡大していった。一部のマニアックなゲーム愛好家が楽しむものから、オンラインゲームが認知されるに従って、ライトな大衆モノが増えていくという極当たり前の順番を日本も辿っている。
だからこそネクソンジャパンでは、韓国ではすでに人気を博している「カートライダー」を日本でサービス化できないか模索しているという。「カートライダー」は、韓国で4人に1人が経験したと言われる対戦レーシングゲーム。韓国のカジュアルオンラインゲームの先駆者的タイトルだという。その「カートライダー」が楽しめるのもそう遠くないとデビッド氏は続ける。
「今年は『カートライダー』のように、カジュアルゲームを提供したいという気持ちが強い。ただ、現段階で言うと日本では『ルニア戦記』を先に提供しようと考えている」と、韓国でもオープンβテスト中の対戦アクションゲームの名前が挙がった。デビッド氏は、もちろん今後の市場の動向やトレンドを見極めた上で最終的な判断をするので流動的だと断りを入れながらも、「ルニア戦記」を次なる勝負と考えているようだ。
「ルニア戦記」は、先にも述べたように韓国でもオープンβテスト中の対戦アクションゲームで、格闘系アーケードゲームを意識したネクソンコリアが、“MMORPG”と“カジュアルゲーム”の中間を結ぶ新ジャンルとして開発を進めているタイトル。もし、実現すれば、ずいぶんと早いタイミングでの日本上陸となり、話題となることだろう。さまざまなジャンルのコンテンツを持つことが、多くのプレーヤーを呼び寄せられるという理念そのものの選択とも言える。
いつ頃とは断定できないが上半期には間に合わせたいとデビッド氏は言及。下半期ギリギリになるかもしれないけど、「カートライダー」が提供できれば……といった大枠のスケジュールらしい。また、上記の2タイトル以外にも日本主導で進めているプロジェクトがあるという。
3年前にネクソンジャパンの代表取締役に就任してから現在まで、日本でのオンラインゲーム事情は急速に変化していっているとデビッド氏は語る。「3年前までは韓国のゲームをローカライズするだけで、日本人向けへのサービスであったり、仕様に関しては譲らない開発者も多かった。“これがやり方なんだからしょうがない”という姿勢だったものが、国民性があることを知るようになり、ユーザーのニーズに応えられるようになってきている」と、さらに多様化を求められると予想する。
「せっかくのオンラインという特性を活かすのならば、コミュニティーとしての側面をもっと理解してもらうのがいいと思う」とデビッド氏はmixiを例に出し、一般の人々もオンライン上で他人とコミュニケーションすることに慣れてきた証だと説明する。彼らソーシャルネットワークサービスに慣れた人々は、オンラインゲームに入りやすい傾向にあるのだという。韓国でもmixiのようなソーシャルネットワークサービスがあるのだが、「カートライダー」が発売された際、サービスを受けていたユーザーが大量に流れてきた経験から、日本でも土壌はできつつあると推測しているのだ。
「とりあえずわからないから触らない」というのが2〜3年前のオンラインゲームだったと思うが、自分から能動的にオンラインに向かっていく人々が増えてきていることはうれしいと語るデビッド氏だが、今一番気になるのは「オンラインゲームへの理解が高まったことで、各社がさらにオンラインへの新しい試みを模索していること」と、想像できなかったサービスなりコンテンツが登場してくること。それはもちろん心から期待している楽しみなんだとか。
「オンラインゲームはコンシューマーゲームと違って、今のところはそれほど開発費を費やさなくても製作できるのが利点のひとつです。パッチやアップデートによって、ユーザーと双方向性あるやりとりでゲームを育てていくことができます。誤解を生んでほしくないのですが、すべて1から100まで完全にして出すのではなく、ユーザーの反応を見ながら、そして会話をしながら作っていくものがオンラインゲームだと思っています。その利点はずっと大事にしていきたいです」と、今後もユーザーとともにゲームを作り上げていきたいと語るデビッド氏に最後、これからの目標を聞くと――。
「ネクソンという会社は、韓国のオンラインゲーム業界ではリーダー的存在です。ですから、日本でもそうありたいと思っています。そのためには、ただ韓国のゲームを持ってくるだけではなく、日本のユーザーのニーズにあった、日本的なコンテンツとサービスを提供していかなくてはならないと考えています」と、心強い言葉が返ってきた。
ネクソンジャパンは2006年度中に2つの新タイトルと、日本側からのサービス展開の発表も控えている。昨年同様、さらなるユーザー獲得に向け、間口の広いジャンル開拓を行ってくるだろう。
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