「太陽の黙示録」アニメ化――かわぐちかいじ氏は“不安に立ち向かう日本人”を描く

かわぐちかいじ氏が未曾有の危機を迎えた日本の未来を描く「太陽の黙示録」が、WOWOW開局15周年記念番組として放映される。かわぐち氏へのインタビューを交えて、本作の魅力を語る。

» 2006年09月06日 00時33分 公開
[加藤亘,ITmedia]

WOWOW開局15周年記念としてアニメ化

 8月31日、WOWOW開局15周年記念番組として製作された「太陽の黙示録」の試写会が行われ、原作者であるかわぐちかいじ氏、製作総指揮をとったマッドハウス・丸山正雄プロデューサーの舞台挨拶の他、三国志を熱心に読んでいるという眞鍋かをりさんをスペシャルゲストとして迎え、本作の魅力が語られた。

 「太陽の黙示録」は2003年から小学館のビッグコミックに連載されているかわぐちかいじ氏の最新作で、第51回小学館漫画賞を受賞している大震災後の日本の姿を描いた骨太なエンターテインメント作品。


 日本各地に同時多発的に起こった大震災により、日本列島が琵琶湖でまっぷたつに割れるという衝撃的な幕開けではじまる。首都東京も地震と富士山爆発で壊滅、大阪も津波で水没しており、自力での復興を諦めた日本政府はアメリカと中国というまったく異なる政策を掲げる2大国の援助という名の占領にあい、分割統治を余儀なくされてしまう。海外に避難した日本人も難民となり、避難先で過酷な扱いを受けてしまう……。日本を取り巻く社会環境を背景に、近未来の日本をリアルにシミュレーションし、「日本人とは何なのか? 日本人はこの先どこへ行くのか?」を問いかける興味深い内容となっている。登場人物が三国志のキャラクターになぞらえているところから、かわぐち版三国志とも言われている。

 今回、WOWOWでは9月17日と18日の両日午後10時から、現在コミックスで12巻まで発売されている本作の第1〜4巻・地震発生から台湾編までを前後編2話「太陽の黙示録 前編 海峡」、「太陽の黙示録 後編 国境」にまとめて放送される。

 それに先駆け、9月1日〜3日には小学館原作作品史上初のネット試写会もWOWOW主催で開催され、前編の冒頭は約45分間を先行配信するという試みも行われている。1万人規模のネットイベントは、WOWOWでも珍しく今後もさまざまな作品で同様のサービスを行うことを予定しているという。

台湾人の張、そして台湾に帰化した羽遼明(羽田遼太郎)は、主人公の柳舷一郎に共感し分割統治された日本に戻ることにした……

試写会では舞台挨拶も

 試写会ではまず、かわぐち氏と丸山氏との舞台挨拶が行われ、本作執筆の理由について聞かれるとその日の夕方にあった地震を引き合いに出し(神奈川で震度4)、「僕はすごく臆病なんです。それで地震学者の方に、大きい地震が3つ一緒にきたらどうなるか聞いたときに、ひょっとしたら琵琶湖あたりで日本が割れるかもしれませんよ、という話を聞きまして。そうなったらどうしようとぞっとしたんですが、逆にこれは漫画になるぞ、と思いました。そこから、未曾有の災害が起きたときに日本人がどういう境遇に陥るかということに興味をもった」と、ドラマを構成していきたいという思いに至った経緯を説明した。本作は地震と災害の話と三国志をどう結びつけるかが課題だったとも。

本作製作総指揮をとったマッドハウス・丸山正雄プロデューサーと原作のかわぐちかいじ氏

 原作を読んだ丸山氏は「前々からかわぐち先生の作品を映像化したかったのですが、一番重い作品が来てしまいました。うれしいやら、悲しいやらですね。日ごろ軟弱な作品をやっているので、なかなか慣れなくて苦労しました。この作品は剛速球な表現が多いですね。これほどストレートな感情表現をする原作には久しぶりにお目にかかりました。原作を読むと泣けちゃうんですけど、映像がそこまで迫られたかどうか、今とっても不安でこのまま逃げて帰りたい」と、肩をすぼめる。現在は、放送に向けて後編部分の作業中とのこと。


 かわぐち氏は子供の頃から映画が大好きで、実は映画監督になりたかったそうだ。しかし、映画監督になるのは大変だという話を聞き、漫画だと1人で描けると漫画家への道を選んだとか。「漫画を書くときには、映画を作るような気持ちで描いています。20ページの漫画だったら、1本の映画を作るような。だから自然にコマ割とか映画のシーンをイメージしています。読者の人が読むと、映画を観ているような気持ちにさせられたら成功かな、と思います」と、映画的手法を駆使している様子。丸山氏も原作のコマをつなげればそのまま映画になると感想を述べる。音楽や声優さんなどのおかげで渋い作品になったと出来上がりに満足しているとのこと。

 かわぐち氏は漫画と映像の大きな違いとして、“音”というところに注目しており、どんな動きや音が加わるのか楽しみにしていると期待を寄せた。

 また、スペシャルゲストの眞鍋かをりさんは、現在ネットオークションで三国志を全巻落札したほどの三国志ファン。三国志になぞらえたキャラクターに触れ、「張飛ファンなので、『太陽の黙示録』だと張が好き。力が強いところも好きなんですけど、頭が良すぎなくて、ちょっと感情的なところ、人間ぽいところがいい」と眞鍋さんが答えると、かわぐち氏も張は感情のままに描けるので楽しいと明かす。

 「三国志を時代劇として描くことも考えたんですが、それを現代に置き換えて描くのは難しいんです。それぞれのキャラクターを現代の人物として描くのは、面白くもあるんですが、大変でした。3人の『太陽の黙示録』のキャラクターが、三国志にあてはまる、といってもらえるよう努力してます」とかわぐち氏。

かわぐちかいじ氏に聞いてみた

 試写会後、かわぐち氏にお話をうかがう機会をいただいた。かわぐち氏はアニメに関してやはり“音”がよかったと、キャラクターと声優が思いのほか合っていて安心したと感想を述べる。

 現在、連載中の「太陽の黙示録」はさらに混迷を深め、先行き不安の状態にある。そんな原作のラストはどのようなものになるのかを聞くと、すでにイメージはできていると明言。しかし、途中、いろいろ枝葉に分かれて肉付けされていくので、今はそこを楽しんでいるのだそうだ。想定していたラストにまっすぐ行くものは面白くないものが多いので、そういう意味でも本作は成功していると自信を見せてくれた。

 ちなみに、登場人物を三国志になぞらえていることもあり、内容的にも三国志的な展開が色濃く反映されているところも随所に見られるが、ラストまで同じようになるとは限らないと言う。「それだったら面白くない。あくまでも三国志のキャラクターを反映しているだけ」と笑うが、今後も読者が期待しているエピソードなどは可能な限り取り入れたいとしている。

 かわぐち氏的には、いろいろ考慮に考慮を重ねている宗方よりも、感情的に動く柳のほうが描きやすいと語る。だからこそ、2人の掛け合いが面白いのだそうだ。現状、劉備(柳)と曹操(宗方)を交互に描いているが、今後は孫権サイドも描いていきたいと意欲を見せる。現状は、本当の意味での3つの勢力を描くための布石を打っているところで、今は諸葛孔明となり得る人物を、どう登場させるかが目標と楽しそうに語ってくれた。かわぐち版三顧の礼があるのか、そしてどんなキャラクターが登場するのかを期待したい。

東海沖地震を引き金に富士山が噴火。関東一円を灰色の火山灰に沈める。こんな未来もないとはいえない。その時、あなたならばどうする?

 かわぐち氏が漫画を描く際のモチーフに“不安感”というものを挙げる。日本人はパニックに弱いとは思うが、その中で順応していくのに強い民族との持論のもと、それに立ち向かう“人間の意思”を描いていきたいと説明する。常に日本人の中にも漠然とした“不安”を抱えて生活している。そうした不安が現実のものとなった時の瞬間的な判断をドラマとして展開していくと語ってくれた。

 かわぐち氏が描く日本の未来――本作を見て“不安”に立ち向かうヒントを探してみてはいかがだろうか?

(C)2006 かわぐちかいじ・小学館/「太陽の黙示録」製作委員会


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2409/11/news132.jpg 第5子妊娠中の宮崎麗香、子どもたちとの“奇跡の1枚”が撮影される ギャップ満載な“現実”ショットも話題に
  2. /nl/articles/2409/08/news001.jpg 「エグいもん売られてた」 ホビーオフに1万1000円で売られていた“まさかの商品”に「めちゃくちゃ欲しい」
  3. /nl/articles/2409/11/news038.jpg 「僕ですかこれ」 垢抜けたい男性が“劇的イメチェン”→その大変身に「すげええ!」「泣けたわ」と仰天
  4. /nl/articles/2409/11/news024.jpg たまりがちなスタバ紙袋、リメイクで予想外の“便利グッズ”に大変身 580万再生のアイデアに「天才かよ」「素晴らしい……」
  5. /nl/articles/2408/18/news012.jpg 「これは思わず……」 田舎のホビーオフに1万5400円で売っていた“まさかの商品”に仰天 「何でも売ってる」
  6. /nl/articles/2409/10/news038.jpg 50代女性、尋常性白斑によりホワイトヘアに→ばっさりショートにすると…… 誰もが見惚れる姿に「どハンサム」「本当にカッコ良すぎ」
  7. /nl/articles/2409/08/news032.jpg 「コレ入れると草が生えない」 外構工事のプロがやっている“究極の雑草対策”に注目
  8. /nl/articles/2409/07/news027.jpg “緑の枝付きどんぐり”をうっかり持ち帰ると、ある日…… とんでもない目にあう前に注意「危ないところだった」
  9. /nl/articles/2408/10/news024.jpg 「こんなものも売ってあるの?」 ホビーオフに13万2000円で売っていた“まさかの商品”に「超欲しい」
  10. /nl/articles/2409/10/news191.jpg 「さすがに不快」 PARCO「ラブベリ」展でファッションモデルの“ほぼ全裸”投稿に批判 主催者「削除依頼している」
先週の総合アクセスTOP10
  1. “緑の枝付きどんぐり”をうっかり持ち帰ると、ある日…… とんでもない目にあう前に注意「危ないところだった」
  2. 食べた桃の種を土に植え、4年育てたら…… 想像を超える成長→果実を大収穫する様子に「感動しました」「素晴らしい記録」
  3. 「天才!」 人気料理研究家による“目玉焼きの作り方”が目からウロコ 今すぐ試したいライフハックに「初めて知りました!」
  4. 義母「お米を送りました」→思わず二度見な“手紙”に11万いいね 「憧れる」「こういう大人になりたい」と感嘆の声
  5. 「しまむら」に行った58歳父→買ってきたTシャツが“まさかのデザイン”で3万いいね! 「同じ年だから気持ちわかる」「欲しい!」
  6. 猛毒ガエルをしゃぶった30分後、口がとんでもないことに…… 直視できない異常症状に「死なないで」「この人が苦しむってよっぽど」
  7. 33歳の「西郷どん」二神光さん、バイク転倒事故での急逝に衝撃 1年前の共演者は“願い”明かし「叶わないなんて」
  8. 「コレ入れると草が生えない」 外構工事のプロがやっている“究極の雑草対策”に注目
  9. 「へー知らんかった」 わずか7年で“消えた駅” 東京メトロが明かす“知れば納得の歴史” 「だからあんなに……」
  10. 秋葉原のトレカ店が“買い占め被害” 近隣店とその常連客が共謀し“全口購入の人員確保” 「大変遺憾で残念な限り」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 釣れたキジハタを1年飼ったら……飼い主も驚きの姿に「もはや魚じゃない」「もう家族やね」 半年後の現在について飼い主に聞いた
  2. 「もうこんな状態」 パリ五輪スケボーのメダリストが「現在のメダル」公開→たった1週間での“劣化”に衝撃
  3. 「コミケで出会った“金髪で毛先が水色”の子は誰?」→ネット民の集合知でスピード解決! 「優しい世界w」「オタクネットワークつよい」
  4. 庭で見つけた“変なイモムシ”を8カ月育てたら…… とんでもない生物の誕生に「神秘的」「思った以上に可愛い」
  5. 「米国人には想定できない」 テスラが認識できない日本の“あるもの”が盲点だった 「そのうちアップデートでしれっと認識しそう」
  6. ヒマワリの絵に隠れている「ねこ」はどこだ? 見つかると気持ちいい“隠し絵クイズ”に挑戦しよう
  7. 「昔はたくさんの女性の誘いを断った」と話す父、半信半疑の娘だったが…… 当時の姿に驚きの770万いいね「タイムマシンで彼に会いに行く」【海外】
  8. 鯉の池で大量発生した水草を除去していたら…… 出くわした“神々しい生物”の姿に「関東圏では高額」「なんて大変な…」
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「なんでこんなに似てるの」 2つのJR駅を比較→“想像以上の激似”に「駅名だけ入れ替えても気づかなそう」