ゲームデザインの底流にあるセンス・オブ・ユーモアに注目「グランド・セフト・オート・サンアドレアス」レビュー(3/3 ページ)

» 2007年02月09日 17時24分 公開
[水野隆志,ITmedia]
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デンジャラスでホットなギャングのお仕事

 前ページまでで触れたことは、すべてメインシナリオとは無関係の楽しみ。それでいてこれだけのボリュームなのだ。広大なマップを隅々まで調べ尽くし、自分のライフスタイルを考えていくだけでも軽く数時間は遊べてしまうだろう。

 だが、やはりそれだけでは「GTA:SA」の魅力をすべて堪能することはできない。何と言っても主人公はギャングの一員。一度裏切った負い目もあるし、仲間への義理は果たさねばならない。無理難題をいう警官もシャクにはさわるが無視はできない。時折善人が困って頼ってくることもある。ゲームにはリスペクトというパラメータがあって、どれだけ周囲の尊敬を集めているかを示している。男を上げるにはイリーガルなことばかりしているだけではダメなのだ。

攻撃を行う際に便利なのがロックオン。R1で目標をロックし、格闘戦なら○または△ボタンを、銃撃戦ならL1ボタンを押せばいい。近くのターゲットを自動的に狙ってくれるので、この機能はかなりありがたい

 かくして主人公は修羅場へと向かうことになる。当然ながら迎え撃つ側も本気だ。ちゃんとした装備を整えていかないと瞬時に蜂の巣にされてしまう。ギャング同士の抗争が激化すれば警察だって見逃してくれない。一部の汚職警官を除けば、サンアンドレアスの警察組織は優秀で職務熱心だ。彼らを相手にするには相当な覚悟と装備がいる。警察の実行力は指名手配度によって1〜6のレベルがあるが、最大の6になると軍隊まで現れる。1でも油断はできない。うざったいと安易に警官を撃ったりすると指名手配度は一気に上昇。国家権力をナメてはいけない。

グランド・セフト・オートシリーズの本質はユーモア

SELECTボタンを押すことで視点切り換えが可能なのも従来と同じで、なんと言ってもシネマティックモードという視点が面白い。これを使うと、いかにマップが緻密かつ美しく作られているかがわかる

 ミッションをクリアしながら、気の向くままにサイドミッションをこなし、好みのライフスタイルを追求する。時には郊外へ車を走らせるのもいいだろう。青々とした大海原、草の息吹が匂う森、清らかな渓谷がプレイヤーを出迎えてくれる。点在する農園もアメリカらしいカントリーな光景を見せてくれるはずだ。

 だが、こんなことばかり書くとうさんくさく感じる人もいるかもしれない。なにしろ、「グランド・セフト・オート」といえば暴力ゲームの代名詞といった印象がある。この問題は避けては通れないので、筆者なりの意見を述べさせていただく。少し堅い話になるかもしれないが、テーマがテーマだけにご容赦願いたい。

 まず、暴力性の有無についてだが、これは間違いなく存在する。かつて前々作が発売された際、“犯罪行為をするかどうかはプレーヤーによる”という内容のレビューが雑誌に掲載されたのを目にしたことがある。しかし、これは核爆弾を発明しておいて“悪は用いる人の心にあり。科学にはなし”と言うのと同じで筆者としては受け入れがたい。とはいえ、その暴力性が大人の娯楽としても否定すべきレベルに達しているのかと考えれば、そこまでは至っていないと考えるのが妥当ではないだろうか。

 ニュースなどを見ていると、「暴力描写ゆえに日本では発売が危ぶまれていたサンアンドレアスがついに発売」といった主旨のコメントを見ることがあるが、はっきり言って暴力描写、もっと言えばエグさを求めるなら、その手のものが好きなプレーヤーがこのゲームで満足できるはずはない。吹き飛ぶ血のりの量も前作、前々作に比べて少ないし、前作までできた身体の部位攻撃という概念も一撃必殺のヘッドショットを除いてなくなっている。この一撃必殺は頭部を攻撃するという暴力性ではなく、難易度が高めなゲームの中で戦闘を早く解決するテクニカルな要素として残されていると考えるべきだろう。アメリカ版と逐一比較したわけではないので絶対とは言えないが、少なくともこのプレイステーション 2日本版に関して暴力性が下がっているのは間違いない。その反面、ゲーム的なやり込み度は格段に進化している。「GTA:SA」は、より一般性の高いゲームとして作られているのだ。

 ところで、「グランド・セフト・オート」シリーズの本質は暴力性にあるのだろうか。改めてこんなことを言うと変に感じるかもしれないが、この点についてあまり掘り下げがなく、単純にイコールで繋がっているように見受けられる。しかし、本質と表現手段は必ずしも一致しない。人が無惨に殺される反戦映画を見て「残酷だから公開禁止にせよ」というのはよほど極端な場合だけだろう。

 本質と手段が異なっている表現の代表格が風刺だ。現在のお笑い番組は1960年代に生まれたカウンターカルチャーを元祖にしている。例えばこの時代を代表するモンティ・パイソンのコントを見てみると、政治ネタや社会ネタが非常に多いことがわかる。そこでは、それらの問題を正面から取り上げず、コメディという枠で風刺しているのだ。チャップリンにもモダン・タイムスという笑いと社会批判を併せ持った映画がある。風刺とユーモアは切っても切れない関係なのだ。

 先ほど、1992年の特別な意味について触れた。サンアンドレアス州のモデルになったカリフォルニア州は全米No.1の人口を持ち、1995年のデータでは個人所得総計もNo.1である。ところが1人あたりにならすと12位に後退する。これは貧富の差が激しいことを意味する。1990年の人口統計によると、カリフォルニア州全人口の25.8%がヒスパニック系、7.4%が黒人で、ロサンゼルスだけに限るとヒスパニック系39.9%、黒人14.0%となる。この大半は当時低所得者層だった。

 貧富の差に苦しめられ、「こんなんじゃムチャでもしなきゃやってらんないよ!」という人々は現実に存在する。「グランド・セフト・オート」シリーズにはそれを風刺する精神が流れている。核となるのは暴力性ではなくセンス・オブ・ユーモアなのだ。ただ、どんなユーモアも行き過ぎれば笑えない。だからそのユーモアを認めるか否かは、最後は個々人の主観によってしまうだろう。しかし、たとえ否定するとしても“このギャグはやりすぎ”という視点に立つべきだと思うし、それならば納得がいく。暴力性は第二義的な問題なのだ。もちろん筆者の意見は“薄い白い線を超えていない(正気、すなわちOKの意)”。このユーモアが通らないのはちょっと寂しすぎると思うのだが、いかがだろうか?

「グランド・セフト・オート・サンアンドレアス」
対応機種プレイステーション 2
メーカーカプコン
ジャンルアクション
発売日2007年1月25日
価格7329円(税込)
CEROZ(18才以上のみ対象)
(C) 2007 Rockstar Games, Inc.


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