惨劇は進化する――舞台をPS2に変えた“正解率1%の謎”の魅力:「ひぐらしのなく頃に祭」レビュー(2/3 ページ)
「鬼隠し編」をレッツプレイ!
まず、シナリオをざらっと解説しよう。物語の舞台は、昭和後期の山奥に位置する寒村、雛見沢村(ひなみざわむら)だ。この村では、毎年決まった時期に、奇怪な連続怪死事件が発生する。この村に引っ越してきたばかりの主人公、前原圭一(まえばらけいいち)は、その素朴な生活を楽しみながらも、徐々に事件へと巻き込まれることになる。平凡に見えた日常に、徐々に牙をむく狂気の陰。今まで白だと思っていた物は、実は黒だったのかもしれない。何も信じられなくなる状況で、やがて物語は終末を迎える。圭一が体験する物語を通じて、その真相を解き明かすのだ。というわけでゲーム開始ですよ!
……と始めたはよいが、いきなり「おや?」と思わせる展開に遭遇した。原作では物語冒頭にいつも表示されていた謎の詩、“フレデリカの詩”が表示されないのだ。原作ファンにとっては、本編とどうからんでいるのか、まったく想像がつかないこの謎の詩を見て、物語に突入するというのが正当(?)な流れ。いきなりつまづいたような感覚に陥る。
気を取り直して話を進めていくと、主人公である圭一の女友達、竜宮レナ(りゅうぐうれな)と園崎魅音(そのざきみおん)が登場。原作のファンとしては、やはり作画が違うことに違和感を覚える。……しかし、これはこれで萌え萌え〜な感じなので、アリなのでは? と思えなくもない。
その後は、しばしほのぼのとした展開を楽しむ。圭一と仲間たちは、とても仲がよく、困ったことがあれば、お互いを助け合うことがきる。年齢は大きく違えど、信頼できる仲間同士だった。それは、小さな村が持つ村人たちの連帯感であったり、圭一たちの通う学校が、少人数のため学年混在だから、という理由もある。お昼の時間にみんなで弁当箱を出し合ってみんなでつつきあったり、まだ土地勘のない圭一のために、レナや魅音が村を案内してくれるエピソードを見ていて、それがひしひしと伝わってくる。
そんな仲間たちとずっと暮らすことができれば、どれだけ幸せだろうか。そんな気すら思い浮かんでくる前半パート。さらに言えば、圭一以外は全員女の子。放課後にゲームをして遊ぶ“部活動”の罰ゲームで、ネコミミをつけたり、スクール水着で授業を受けさせたりと、なにかと萌え〜なシチュエーションも捨てがたい。
そんな感じで前半パートを楽しんでいると、ついに“選択肢”が登場した。片方は明らかにその後の展開が予想できるモノだったので、あえてもう一方の選択肢を選んでみた。すると予想通り、原作には存在しなかった展開になっているではありませんか。この選択肢というシステムを追加したことで、原作ファンには、原作とは違ったエピソードが楽しめるし、知らないユーザーにとっては“どっちが正解の選択肢だ?”と考える楽しみが増えていると思う。
そんなこんなで訪れた、“綿流し祭”の日。 “綿を川に流す”ことから“綿流し”と呼ぶばれるこのお祭では、5年前から毎年、誰かが変死し、行方不明になるという“オヤシロ様の祟り”が起きる。
この“綿流し祭”の日は、ゲーム上で大きな意味をなす。この日以降、強烈なシリアスパートへ急転する。ここからが「ひぐらし」の真骨頂なのだ。「ひぐらしのなく頃に祭」は、前半パートでどの選択肢を選んだかによって、後半パートの内容が変化する。どの編へ突入したのかな、とワクワクしながら進めていくと……突然「鬼隠し編」の予告ボイスが流れ始めた! こんな演出、原作にはなかったぞ!? と驚きながら画面に見入る。そして画面には「鬼隠し編」のタイトルが現われ、冒頭では現われなかったあの「フレデリカの詩」が、今ここで表示されたのだ。……この映画の予告のような演出には、正直驚かされた。
ついに、「鬼隠し編」のシナリオが始まる。お祭で共に遊んでいた人間が“喉を自らかきむしる”という不可解な死に方をしてしまったと、刑事が圭一に伝える。さらに、魅音たちが事件に関係しているかもしれないと聞かされた圭一は、仲間たちに対して疑心暗鬼に陥ってしまう。ここでふと、前半パートでは音声が当てられていなかった圭一に、ボイスがあることに気がついた。これはどういうことだろうか。終盤で聴くことになる主人公の叫びを、音声入りで聴けということだろうか?
そして迎えた「鬼隠し編」最初の山場。学校の帰り道に、レナに「誰と会っていたのか?」と問われるが、圭一はとある理由でごまかそうとする。だが、そのウソは、レナに見破られてしまう。レナの目が、うつろなものに変わり始めた。レナのイベントグラフィックが表示され、「嘘だよね?」と圭一に問いただし始めるレナ。素肌にナイフを突きつけられたような緊張感が漂う。圭一の心情が自分に乗り移ったように緊張し始める筆者、レナの問いを否定する圭一。そしてレナはついに表情を歪め、フラッシュバック、効果音とともに「嘘だッ!!」と叫ぶ!
原作で話題を呼んだ名シーンは、「ひぐらしのなく頃に祭」では、このような演出に変わっていた。このシーン、原作はもちろん、アニメや漫画でも趣向を凝らして見せてくれたのだが、これらの中で一番面白いな、と思わせる仕掛けだった。筆者は怖がることはなかったが。……嘘じゃないですよ?
ホラーな展開はさらに続く。だが、かわいらしい声のせいと、専用のイベントグラフィックが用意されたことで、逆に恐怖感が薄れてしまったように感じた。原作はシンプルな作画ではあったが、そのぶん、逆にユーザーの想像力を刺激したのである。古参のウィザードリィファンならば、この気持ちが分かってくれるだろうか。
そして原作どおり多くの謎を残し、最後を迎え「鬼隠し編」は終了した。この終わり方が、なんともアッサリしており、正直肩透かしを食らってしまった。原作では、シナリオが終わる瞬間に「ひぐらし」のタイトルが「ドーンッ!!」と効果音とともに現われて終わる。その演出がとても好きだった分、寂しかった。
他のシナリオを遊ぼうとタイトル画面に戻ると、先ほどまではなかった“主人公選択画面”が出現しているではないか。本作はゲームの進め具合によって、赤坂衛(あかさかまもる)が主役の「暇潰し編」や、園崎詩音(そのざきしおん)が主役の「目明し編」が新たに選べるようになっているのだ。
というわけで、再びプレイ開始。2回目のプレイでは、新シナリオ「盥回し編」へ進むことができた。他のシナリオでは、主人公は惨劇に対して、立ち向かうか回避する方法を常に考えていた。しかしこのシナリオでは、“もし惨劇に挑まなかったら?”という可能性を描いている。
どちらかといえば問題編に分類される、この「盥回し編」。原作を知っている人なら、こんな“if”もあったのか、という喜びも感じることができる。ただし、一番ヒントの少ないシナリオなので、「ひぐらしのなく頃に祭」から本作に入ったファンは、「なんじゃこりゃ?」と頭を疑問符が埋め尽くすことになるだろう。
「ひぐらし」は、圧倒的なボリュームを誇る作品だ。残念ながら時間の関係上、すべてのシナリオを遊びつくすことはできなかった。特に「澪尽し編」は、PC版の最終章「祭囃し編」とはまったく異なるエピソードなので、とても気になっている。「ひぐらし」風に言えば、続きは仕事抜きにじっくり堪能しろという“オヤシロさまのお告げ”かもしれないので、これでよかったのかもしれない。
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