デジタルエンタテインメントアカデミー 市谷和久氏が語る、ゲーム業界に必要な人材とは:ゲーム業界求人特集
次世代機、そしてネットワークゲームで盛り上がりを見せるゲーム業界。これから新しくこの業界へ就職を希望する人、または他業種から転職を希望している人へ向けて、ゲーム業界の現状や現場に詳しい市谷和久氏に話を聞いた。
―― まずはここ数年の、ゲーム業界への新卒就職あるいは転職を希望される方の傾向などを教えて下さい。
市谷和久氏(以下、敬称略) 本校の話で言うと、まず感じられるのは新卒も転職も含めて、生徒さんの平均年齢が上がっていることです。ひと昔前なら10代から20歳ぐらいの人が「ゲームの仕事をしたい!」と集まっていたところが、現在は20歳〜30歳とかなり上がっています。非常にレアなケースですが、結婚されてお子さんをお持ちの方がゲーム業界への転職を希望して、本校に入学されたこともあります。
その理由として考えられるのは、「ドラゴンクエスト」シリーズや「ファイナルファンタジー」シリーズをかつて遊んだ層が転職などを考える年齢に差しかかったこと。もう1つは、ニンテンドーDSなど携帯ゲーム機と多種多様なジャンルのタイトルが増えたことで、ゲームというものが身近な存在になったことがあるでしょう。
―― 開発者ではなく“クリエイター”と呼ばれる人も登場したことで、ゲームとゲームに関わる仕事のイメージが、10年前と比べたら格段に良くなっているのは事実ですね。
市谷 アーケードゲーム全盛期の頃にあった、ゲームセンターに出入りしているのはすなわち不良……という悪い印象が、ゲーム業界全体に対してもマイナスに働いていましたが、今は市民権を得たと言えるでしょうか。中には大学院を出てから本校に入学される人もいらっしゃるぐらいです。
ただ、ゲーム業界を志す人が増えるということは同時に、何か誤解したままの人も多いのが事実です。
―― 誤解というのは、具体的にはどんなことですか。
市谷 ゲームメーカーというのは、その規模の大小に関わらず、何かと厳しく、そしてキツイ職場です。そんな現場で働くスタッフは本当にゲームを作ることが好きな人たち。物を作るということに真剣な人ばかりなのに、あまりに安易な気持ちで目指す方も増えています。
もっと簡単に言いますと、新卒の方の場合は特に、就職の選択肢の1つぐらいにしか考えずに志望されるケースです。こういった人は言葉は悪いですが、結局腰掛けで終わってしまうことが多いですよ。
―― ゲームが好きなことはもちろんですが、それだけではついていけない、ということですか。
市谷 遊ぶことと、プロとしてユーザーに作品を提供することは全く別ですね。最も多い誤解は「自分が好きなものを作れる」と思っている点です。ゲームを作るということは、マーケットを調査した上で人を喜ばせる作品を作り、なおかつビジネス的に成功する。これが基本であり正論なんです。自分が好きなものとマーケットが一致していれば、もちろん問題ありませんが……。
―― ゲーム開発に特に向いているタイプというのはあるんでしょうか? 能力というよりは人柄といいますか。
市谷 何よりも研究熱心で好奇心が旺盛なことでしょう。多少人とのコミュニケーション能力が劣っていたとしても、「これはどんな技術なのか?」、「さらに高度なものづくりをしたい」という前向きな気持ちが常にある人が、ゲーム開発には向いている人材といえます。
とはいえゲーム作りというのは、チームで行う作業なので、自分の意見をいった上で相手の意見も聞ける人。そして相手の立場になって、相手を楽しませることが好きなサービス精神の旺盛な人が望ましいです。
―― では逆に能力といいますか、今からゲーム業界を志す人が取得しておくべき資格などはどうでしょう。学生の場合、時間に余裕があるうちにそういった資格にチャレンジしたい。何を勉強しておけば就職に役立つか知っておきたいはずです。
市谷 ゲーム開発というのは、資格はほとんど関係ない世界です。情報処理一種や色彩検定などを取得すれば良い、というものではなく、現場で要求されることはただ1つ。及第点の取れる完成した作品をきちんと提出できること、これに尽きます。
大学の情報処理・理工系の出身者なら、プログラマーとして採用されやすいということも実はありません。むしろ低いでしょうね。ゲーム開発に使われる言語というのはおもに「C、C++」ですが、、今のところこれを実用レベルで教えてくれる大学は存在しないのですよ。そもそも大学は研究機関ですから、学問としてもプログラム言語は指導してくれても、ものづくりのためのゲームに特化したプログラムというのは、全く異なることを覚えておいてほしいです。
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―― どの言語が扱えれば就職しやすいのか、といった具体的なところも教えていただけますか。
市谷 数多くのプログラム言語を理解していれば、有利ではありますが、大前提としてDirect Xの知識、3Dの関数ができることは必須です。あとはJava、OpenGLなどでしょうか。グラフィッカーについては3D系のツールが使いこなせること。自分の思い通りにテクスチャが描けて、モデリングやモーション制作ができる技術、そしてそれ以前に原画が描ける能力が要求されます。
―― 一般企業の場合は、全く同じでなくても似たような仕事内容の経験があれば、いきなり部署が変わったり転職しても適応するのはさほど難しくありません。しかしゲーム業界の場合はどうなのでしょう?
市谷 それは違う環境から入ってきた人材を、育てる余裕が企業側にあるかどうか、というお話ですよね。残念ながら圧倒的多数のゲーム開発会社にその余裕はありません。とにかく現場に配属して、あとは「自分で盗め、慣れろ」の世界ですから。指示がなければ動かない、という受身の姿勢ではいけません。怒られてでも自ら試行錯誤して作業を進める、そんなタイプの人ならば他業種からの転職も可能でしょう。
―― ビジネス系のシステムエンジニアから、ゲーム開発への転職は、難しいということですか。
市谷 ゲーム開発の技術はビジネス系の開発よりも、高いレベルが要求されるため、その実力には大きな差があります。常に最先端の技術を学びたいという向上心を持ち、勉強を欠かさない人でなければ難しいでしょう。その代わり熱意があれば、これほど充実している面白い現場もないでしょうね。
グラフィッカーにも全く同じことが言えるでしょう。3Dグラフィックのツールは、日々新しいものが出てきていますから、それこそ毎日勉強ですよ。さらに言うならば、最新のツールは英語版のみがほとんどなので、必要とあらば辞書を引きながらでも説明書を読むぐらいの姿勢が必要です。
―― まだまだ少ないとは思いますけれど、女性の就職率などはいかがでしょう? プログラマーにせよ、グラフィッカーにせよ、体力的にはかなり厳しい職業ではありますが。
市谷 女性の志望者も増えてきています。どちらかというとプログラマーよりはグラフィッカーのほうが率は高いですね。女性は基本的に真面目で、こつこつ勉強を重ねるタイプの人が多いので、本当はこの業界に向いているんですが……いかんせん現場は本当にタフですから、心身ともに強い人がいいですね(笑)。
―― 市谷さんが、ゲーム業界を目指す学生さんに毎回必ず伝えていることなどがありましたら、教えていただけませんか?
市谷 皆さんミーハーというか、実際には現実をほとんど知らないというのが事実でしょうが、とにかく大手有名メーカーばかりを就職先に希望されます。しかし一部のキラーコンテンツを除けばほとんどのタイトルを、全く違う下請け企業が作成しているという事実は、本校の学生には必ず教えています。現在、国内のゲーム開発会社は約500社〜600社、あるいいはそれ以上ともといわれています。CESA加盟企業だけで100社近くあるのに、そのほとんどの名前すら学生側は知らないのが現実です。
ちなみに有名企業であれば、毎年のエントリーシートだけで最低数千通ですし、とあるメーカーの場合は2万通もの応募がある中で、採用されるのはそのうち数十名です。本校だけで学生は約400名。自分のスキルと経験を照らし合わせて、メジャーな企業以外にも目を向けさせることは、非常に大事だと思っています。
それでもゲーム業界に就職したいのか? 有名ゲームメーカーに就職したいのか、それとも就職先の規模を問わずとにかくゲームを開発したいのか、その本音に自分自身で気が付いてもわねばなりません。
―― 最後に、日本のゲーム業界の将来について一言コメントをいただけますでしょうか。
市谷 海外では国を挙げてゲーム産業を後押しする体制が整い、若手育成に対しても熱心に取り組んでいる所も増えてきました。このままでは国産ゲームなのに作り手は日本人ではないという状況も、将来的には起こりうるでしょう。その危機感は常に抱いています。海外に通用する人材を育て、そして海外でも売れるコンテンツ作りを視野に入れてほしいです。
また、携帯ゲームの台頭も注目しないわけにはいきません。すでに携帯ゲーム機の能力は、プレイステーションとプレイステーション 2の間ぐらいまで高性能になってきています。しかも24時間いつでもオンラインゲームに場所を問わず参加できるわけですから。インフラの問題も解決され、膨大なゲームデータも一瞬で転送できる時代が来ましたから、1年後には携帯ゲームの世界がどうなってるかは、ちょっと想像しづらいですね。必要とされるネットワークの知識も膨大ですから、もしかしたら他プラットフォームのゲーム開発者よりハードルは高いでしょう。
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制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2007年3月31日