インタビュー
» 2007年09月27日 16時50分 公開

「echochrome 無限回廊(仮)」は“そぎ落としの美”

東京ゲームショウ2007のソニー・コンピュータエンタテインメントブースで初出展された「echochrome 無限回廊(仮)」。どのような経緯でこのゲームが生まれたのか、制作者の藤木淳さんと鈴木達也プロデューサーに話を聞いた。

[聞き手:今藤弘一,ITmedia]

 ソニー・コンピュータエンタテインメントが2008年春に発売を予定している「echochrome 無限回廊(仮)」(以下、無限回廊)。このゲームのプロモーションムービーを見たときに、衝撃を受けた人は多いだろうし、先日開催された「東京ゲームショウ2007」の同社ブースで、コンセプトデモンストレーションに触れた人も多いのではないだろうか。

 シンプルな絵で描かれる“錯視”という不思議な3Dの世界。今回はこのゲームの元になった「OLE Coordinate System」を制作した藤木淳さんと、ソニー・コンピュータエンタテインメントの鈴木達也プロデューサーに、このゲームに対する思いを語ってもらった。

画像 ソニー・コンピュータエンタテインメント ジャパンスタジオ 制作3部プロデューサー 鈴木達也氏(左)、九州大学大学院芸術工学研究院 インタラクションデザイン研究室 学術研究員 藤木淳氏(右)

―― 「無限回廊」というゲームは、どのような発想から生まれたんでしょうか。

藤木淳氏(以下、敬称略) このゲームは、わたしが作ったインタラクティブだまし絵ソフトウェア「OLE Coordinate System」(以下、OLE)が元になっているんです。わたしは3次元のインタフェースを研究していたんですが、その中で、画面というのはいくら3Dで表現できるとはいっても、見た目には平面のものでしかないんで、もっと平面ならではの表現があるのではないかと思いました。その方向性として「だまし絵」に行き着きまして、いまに至る、というところでしょうか。

画像画像 藤木さんが作成した「OLE」

鈴木達也氏(以下、敬称略) 2006年に、ベクターや窓の杜で藤木さんの「OLE」が紹介され、それに加えて藤木さんが「OLE」で第10回メディア芸術祭アート部門で優秀賞を受賞されたんですね。もともと「OLE」の存在自体は知っていたんですが、メディア芸術祭でのデモムービーや、参加者の反応を見たときに「これはゲームにしなきゃいかん!」と思いまして。「OLE」は空間を作ってそこから錯視を体験できるというソフトだったので、そのステップを1個変えて、ステージを最初から作っておき、いきなり錯視を体験させる、というところまでフォーカスさせると、もっといろいろな人に広まるのではないかと思いました。

 実際には今年の3月に藤木さんにお話をして、ゲーム化のプロジェクトが始まったんです。企画を立てたり、音楽を決めたりといったことはわたしたちが担当して、これを藤木さんに確認していただきながら進める、という流れでこの半年が過ぎた、というわけです。

―― 「無限回廊」には「ゲームやろうぜ!」のロゴが表示されますね。

鈴木 それは、わたしが所属しているジャパンスタジオ制作3部が、「ゲームやろうぜ!」のプロジェクトを担当しているからです。かつて「ゲームやろうぜ!2006」を実施していたときに記事にしていただきましたが、あの時の企画は1990年代に実施した企画を引き継いで、人にフォーカスして、異業種の方や、これまでの立ち位置と違うところでゲームを作ってみたいという人に入っていただいたんです。

 ただ同時並行で「デジタルマイスター」というプロジェクトもありまして。こちらはプレイステーション 3のダウンロードコンテンツやPSPプラットフォームでのゲームなど、“小粒でピリリと辛いゲームを集めています”という施策でした。「デジタルマイスター」では、あくまでもコンテンツをベースに応募していただきましたが、こちらからもアプローチしていったんです。その一環で、藤木さんの作品をぜひ、うちのフォーマットで形にさせていただきたい、とご連絡を差し上げたわけです。

―― プレイステーション 3やPSPで実際に動いている「無限回廊」を見られた感想はいかがですか?

藤木 見ての通りといいますか、すばらしいですね。ビックリしました。

―― プレイしているユーザーの反応を見ましたか?

藤木 海外の方が興味を持ってくれているみたいで、錯視を成立させたときのリアクションが楽しいですね。「あ!」みたいな。

鈴木 わたしは残念ながら今年のE3には行けなかったんですが、カンファレンスに参加したメンバーの話によると、ストレートに「すごい」という反応をいただけたようですね。わたしの方で米国のSCEAや欧州のSCEEに紹介する機会があったんですが、そのときもプロモーションビデオを見た瞬間に拍手が起きました。これは動画だけでだますわけにはいかないから、ゲームを作らなきゃいけないなと(笑)。最初に発表した「echochrome」というキーワードでも、かなりの検索をかけていただけたようです。広報にも国内外からの取材依頼がかなり来ました。

画像画像画像

 この時代ですから、ブログや動画サイトなどでコメントを見ることができますよね。あまり情報がないこともあって、ユーザーの中でゲーム性が飛躍しているようで……。これは難しいんじゃないかとか、ステージが理解できないとか……。逆に「この形、神!」と言ってくださる方もいて。期待が渦巻いている中でのプレイアブル出展は重圧がかなりありました。微妙な調整に東京ゲームショウ2007の朝までかかりましたし(笑)。ステージも、ブロックを1個足す、1個引く、ここのスタート位置の角度はこう、とか。かなり前に形にはなっていたんですが、どのステージを見せるかということを綿密に打ち合わせましたし。

 この調整作業を繰り返していますが、簡単に触ってみたいという方向けに、気持ちよく進めるコースも用意しましたし、ぐるぐる回して解かないといけない難解な道もいくらでも作り込めますので、やり込み度を求めるユーザーの方にも満足していただけると思っています。そんなわけで日々白黒画面と戦っていますが、そろそろ目がしばしばしてきましたね。ゲームは1日1時間!(笑)。

 ところで、藤木さんが大学で研究していらっしゃる「インタラクティブアート」というのは、ものすごく可能性を秘めていると思うんです。わたしたちゲーム業界の人間は“ゲーム文法”で物事を考えてしまうため、打ち崩せない壁があるんですね。だからこそ「ゲームやろうぜ!」を続けてきたんですが、そういう中で藤木さんと出会えたのは、本当に“目から鱗“でした。業界内では「エッシャーをゲームにしたい」と誰しも考えていたと思うんですが、“この男”にさくっとやられちゃって悔しいですね(笑)。

―― E3のSCEAカンファレンスでムービーを見たときも、ひさびさにプレイステーションプラットフォームらしいゲームが出てきたと思いました。

鈴木 「I.Q」とはよく比較されますね。「I.Q」は服部隆之さんに音楽をお願いして、フルオーケストラでのBGMとなりましたが、今回は“錯視”というテーマがエッシャーに関係していることもあって、バッハの曲を使っています。“数学的に楽譜を置いていく”というところから、エッシャーはバッハが好きだったようです。それを受けて、バッハといえば「弦楽四重奏」だろう、ということで、これに決めました。オペラも2曲だけいれています。音楽の制作会社からは「バッハだけではつまらない」という意見もありましたが、このタイトルには思い入れがあったので、そこは頑張って。いい曲を作ってもらいましたので期待していてください。

―― 「無限回廊」はプレイステーション 3のダウンロード版とPSP版との2種類が発売されます。しかもステージ数やルールが違ったりしますが、なぜ2種類用意されたのですか?

鈴木 プレイステーション 3というと、大きなTVで、リビングでプレイするというイメージがありますよね。そこで比較的簡単なルールで簡単なステージを、家族でゆっくりと解いていただきたいと思いました。お父さんが子どもに解いたところを見せて「すごいだろ?」と話すというような。PSPは、TV出力ができるようになったとはいっても、個人でじっくりと楽しむタイプのゲーム機ですよね。このためやり込み度が高いパッケージを詰め込んだものとなっています。

藤木 なお、プレイステーション 3では、自分で作ったステージをネット経由でやりとりできます。

鈴木 もともと「OLE」は空間を作って楽しむという要素がありましたから、この機能を入れました。それに加えて今回、コントローラーを使って“ものすごく気持ちよく3Dを作る”という発明を藤木さんがしてくれました。ダウンロード配信ですから、買ってくださったユーザーにはネット環境がありますので、SCEの公式サーバにアップしていただいて、それをパッケージングして出すといったことも、プレイステーション 3版では考えています。

藤木 「OLE」ではマウスベースでしか空間を作成できませんでしたが、ゲーム用のコントローラーということで、さまざまなこだわりがありました。「OLE」のインタフェースとはまったく違うものになっています。

鈴木 3Dは3軸であるのに対して、コントローラーの操作は2軸という相性の悪さ、みたいなものがあるじゃないですか。そこへ果敢に挑戦しています。これ以上はお話できませんが、期待していてください。

画像画像 PSP版「無限回廊」。プレイステーション 3版と比べて白黒が反転している

―― 2008年春発売ということで、発売まではまだ間がありますが、これから追い込みが大変ですね。

鈴木 ええ。ただ東京ゲームショウ2007でご覧いただいたように、基本システムはできあがっています。もちろんモーションや演出面で強化しなければならないことはまだまだありますが、一番気をつけなければいけないのは“ステージ”だと思っています。操作系も含めて、ユーザーの方に気持ちよく遊んでいただける形を目指しています。

藤木 東京ゲームショウ2007でプレイしていただいた形も、大幅に変わるかもしれません。

鈴木 ゲーム的に考えると、もっとさまざまな要素を詰め込まなければ、と考えてしまうこともあるんですが、今回の試遊台に来ていただいた方の反応を見ていると、ほとんどゲームをプレイしたことのない方でも「これ、すごい!」と言っていただけるゲームですので、「うわ、難しそう」と思われてプレイしなくなってしまうのはすごく残念なことです。藤木さんの作品をいろいろなところで、いい形で見ていただきたいというのが一番の思いですので、難易度や操作感を含めてベストを尽くします。

藤木 一般のゲームは、演出をどんどん派手にしていく傾向にあると思いますが、「無限回廊」については“いかに削るか”に神経を使っています。

鈴木 “そぎ落としの美”ですからね。でも、プレイステーション 3版は1080pですよ(笑)。あんなにシンプルな絵なのに、720pではさみしいじゃないですか。もちろんフルHDです。あと、DUALSHOCK 3にも対応しています。どこでどうなるのかはお楽しみにしてください。

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