ペンで空間を切り取り、過去を修正せよ!――DSで楽しめる本格SFアドベンチャー:「タイムホロウ−奪われた過去を求めて−」レビュー(1/2 ページ)
「あのときあんなことしなかったら今頃どうなってたかな」「あのときの失敗で人生変わっちまったな」そんな過去をお持ちの方も少なからずいるんではないでしょうか。そんな忌まわしい過去を今の自分が修正することができたら……。というわけで、タッチペンで過去を直していく、不思議なSFアドベンチャーの登場です。
新機軸の“過去修正アドベンチャー”が登場
KONAMIのニンテンドーDS用ソフト「タイムホロウ 奪われた過去を求めて」は、タッチペン操作を駆使したアドベンチャーゲームだ。続編やスピンオフ作品ではなく、まったくの新作で、ニンテンドーDSのインタフェースをしっかり生かした内容になっている。
アドベンチャーゲームは、キャラクターやシステムも大事だが、“物語を追う”という要素の比重が大きいジャンル。というわけで、キャラ同士のセリフのやりとりや、シナリオの構成、展開は非常に重要な要素だ。
本作のシナリオ監修には小説「推理小説」(ドラマ「アンフェア」の原作)や、ドラマ「天体観測」、「ドラゴン桜」などの脚本で知られる秦建日子(はたたけひこ)さんが起用されている。また、ディレクターは「幻想水滸伝」「シャドウオブメモリーズ」「Rhapsodia」など数々のRPGやアドベンチャーを手がけてきた河野純子さんだ。本作は、熟練のクリエイターがタッグを組んで世に送り出す本格アドベンチャーゲームなのである。
しかも本作はただの“アドベンチャー”ではない。パッケージに銘打たれた正式なジャンル名は“過去修正アドベンチャー”……。過去を修正するってどういうことだ? と気になった人もいるだろう。単なる犯人探しのミステリーでもなければ、恐怖を体感させるホラーでもない、過去を修正することで事件を解決していく新感覚のSFアドベンチャー、それが「タイムホロウ 奪われた過去を求めて」なのだ。
謎に満ちたストーリーと12人プラスアルファのキャラクターたち
本作の主人公は、高校生・時尾歩郎(ときおほろう)だ。
17歳の誕生日の前日に父に「明日は大事な話がある」と告げられた歩郎は、その夜に“子供時代の自分が、焼け落ちる家屋の中で両親とはぐれる”という夢を見てしまう。夢から覚めた歩郎は、飼い猫のフォ郎から謎のホロウペンを受け取る。そして気がつくと、両親が12年前に失踪した世界に変わってしまっていた……。
という導入から物語は展開していく。ホロウペンを手に入れた歩郎は、時折過去の映像が頭にフラッシュバックする能力を持つようになる。自分が実際に見ていない光景も含まれているので、最初はどこで起きた何の光景なのかハッキリしない場合が多い。しかし町の中を探索し情報を集め、フラッシュバックの場所や時間が確定すると、その光景に対してホロウペンで介在することができるようになるのだ。
例えば、今はがらんとしている自転車置き場。その過去の光景、自転車があったはずの場所に対してホロウペンで穴をあけ、過去あったはずの自転車に影響を与えて、穴を閉じる。この行動によって現在の歩郎の周りの人々にも影響が現われ、過去の修正が現在を変える、というわけだ。
過去に戻って現在を変える、という内容のSFモノは、映画やマンガにおいて数多く存在する。たいていはタイムマシンや時を戻る能力を使うもので、タイトルそのまま「タイムマシン」という映画や、有名なところだと「バック・トゥ・ザ・フューチャー」や「時をかける少女」など、枚挙にいとまがない。タイムスリップをして過去に影響を与える、ということは、影響がなかったはずの過去と影響を与えられてしまった過去の2つが存在することになり、タイムパラドックスやパラレルワールドなどのSF理論が展開することになる。
本作でもそのあたりのSF理論はしっかりと踏まえている。過去を修正したからと言って必ずしもいい結果ばかりが訪れるわけでもないし、過去を変えたことによって新たに事件が起きたり、いたはずの人が消えたり、消えたはずの人が現われたりと、SF的に納得のいく範囲でとんでもないことが起きてしまう展開が面白い。加えて、従来の“過去に戻る”タイプのタイムスリップではなく、ペンで穴をあけて“過去を少しだけいじる”という点もユニークだ。タッチペンでの操作との相性もよく、秀逸なアイデアだと言えよう。
本作の世界を支える魅力は、そのキャラクターたちにもある。ホロウペンで周りの人を助けるためにがんばる主人公・歩郎もいいが、脇役たちもなかなか面白いキャラが揃っている。歩郎のおじさんにあたる時尾保は過去が変わるたびに違った顔を見せてくれるし、歩郎に会うたびに変なクイズを出してくる二宮先生もいいキャラをしている。歩郎の友人、三原、四堂、五島も、物語の展開に沿ってその関係性が変わったりするが、基本的に陽気で楽しい3人組だ。その他、喫茶「黒の巣」のウェイトレス八木さんや図書館員の十倉さんなど個性的な面々が物語に華を添える。歩郎のベッドの上でごろごろしている愛猫・フォ郎(プレイが進行すると、歩郎をまさにフォローしてくれたりする)もいい味を出している。
そして本作のキーパーソンとなるのが、歩郎のクラスメート、十二林かのんだ。かのんは、本作におけるヒロイン的な存在。いつのまにかクラスにいたかのんは、なぜか歩郎しか知らないはずのホロウペンの能力について知っているようだ。時に歩郎に助言し、時に歩郎とともに行動するかのん。その正体が明らかになる頃には、プレイヤーは物語の核心に迫っているだろう。
ここまで読んで察しのいい人は気づいただろうが、多くのキャラの名字に数字があてられているのが本作の特徴だ。数字は1から12まであり、時間を操るホロウペンの能力と“12”という時間に関連した数字がリンクしているものと思われる。この12人プラスアルファの登場人物たちの運命をにぎるのが、歩郎の持つホロウペンなのだ。
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