「E3 2008」これだけ読めば大丈夫?(前編):E3を総括――存在意義を問う(3/3 ページ)
ソニー・コンピュータエンタテインメント――まずは安心感を与えるべき
ソニー・コンピュータエンタテインメントアメリカは、The Shrine Auditoriumにて7月15日(火)午前11時30分よりプレスカンファレンスを行った。マイクロソフト、任天堂と趣を違え、SCEAの代表取締役社長であるジャック・トレットン氏1人が本カンファレンスを仕切っていた。昨年よりはプレゼンがうまくなった印象はあったが、なぜ日本から平井社長やポリフォニーデジタルの山内氏などが渡米しているにもかかわらず、トレットン氏が1人で仕切ったのかは正直疑問だった。
1:プレイステーションのブランドについて
トレットン氏は、12年間のプレイステーションブランドの歴史について語った。DVDがPS2を普及させたこと、ゲーム機としてPSOneからPS2に大きく移行するのに、それからさらに数年かかっていると述べる。「Grand Theft Auto III」や「God of War」、「Guitar Hero」など大きなソフトがPS2で発売されたのは、PS2誕生からだいぶたってからのことだ。大きなタイトルには時間を要するものだ、とトレットン氏は強調する。 よくよく話を聞いてみると、どうやら焦ってはいけない、ということらしい。過去の歴史を見ると、現在のローンチ直後(もうすぐ2年だが)のPS3の不振など気にすることではない、と主張しているのだ。
2:プレイステーション 3
「PLAYSTATION 3 80GB Core Pack」の発売
トレットン氏は、2008年9月に「PLAYSTATION 3 80GB Core Pack」を399.99ドルで発売すると発表した。現在北米では40Gバイトモデルが同額であり、機能も同じとのこと。実質の値下げとなる。
PS3のマーケット報告
現在のところ北米マーケットにおいてPS3は累積500万台販売したこと、今年だけで(1月〜6月までの半年間)で180万台を販売したとも発表した。また過去にヒットしたタイトルに関しては「Greatest Hits」レーベル(廉価版)を展開するとのことで、「Resistance」、「MotorStorm」、「WarHawk」(以上SCE)、「Fight Night」、「Need For Speed Carbon」(EA)、「Rainbow Six Vegas」、「Assassin Creed」(UBIソフト)などが このレーベルで発売される見込み。 価格はいずれも29.99ドルとのこと。
ソフト戦略
全体的にファーストパーティの続編が多い中、Sony Online Entertainmentの「DC Universe Online」、256人同時対戦が可能な「MAG(MASSIVE ACTION GAME)」など新しい息吹を感じるソフトも紹介された。ただ、SCEの癖なのか、開発の早い段階でタイトルを発表してしまうため、何度も同じタイトルの発表を聞いているような気になってしまうのも特徴的だ。何となく長い間待たされて、ああ、やっと発売されるのか……と思わせるのは戦略なのだろうか。
- 「RESISTANCE 2」(SCEA):2008年秋発売予定。前作のロンドンからアメリカ東部の都市・シカゴに舞台を移し、巨大生物“キメラ”との死闘が繰り広げられる。プレスカンファレンスでは開発会社INSOMNIAC GAMESのTed Price社長がこのゲームの見所を紹介した。デモ映像が上映され、プレイヤーが高層ビル群を飛び移りながら、巨大生物に対する迫力ある場面を紹介した。全世界で約300万枚販売した前作に比べてさらにスケールアップされたものとのこと、発売が楽しみである。
- 「GOD OF WAR III」(SCEA):発売日未定。PS2、PSPで過去に発売されたGod Of Warシリーズ初めてのPS3版。コアファンが多く、発表で会場もわいていた。
- 「MAG(MASSIVE ACTION GAME)」:最大256人が同時に参戦できるオンラインアクションシューティングゲーム。フィールドを8人単位のスクアッドで行動し、隊長の戦略に従っての攻略を進めていくもので家庭用ゲーム機においてはかつて考えられないほどの大規模MMO。現在開発中で発売日は未定。
この他ファーストパーティとしてのSCEからは、既に発表されている「inFAMOUS」、「LittleBigPlanet」、ビッグタイトルの続編として、「Killzone 2」や「Ratchet & Clank QUEST FOR BOOTY」、「MotorStorm: Pacific Rift」、などが紹介された。「LittleBigPlanet」に関しては、2008年10月発売予定。「Killzone 2」もそうだが、最初に紹介されてから1年以上経つため、やっと発売か、と言った感もある。
- 「DC Universe Online」:スーパーマンやバットマンなど歴代のDCコミックのスーパーヒーローが夢の競演をするオンラインゲームがDCコミックの漫画家Jim Lee氏のもと開発されているとの発表があった。また、そこに各スーパーヒーローの敵たちも参戦するとあって、ここでも歓声があがっていた。しかしながら、ここで披露されたトレーラーではどのようなゲーム性なのかを把握することはできなかった。続報を待たれよ。
PLAYSTATION Network
トレットン氏によると、今秋からPC、PS3、PSPいずれからアクセスしても、1つの共通したIDで管理できるようになるとのこと。いずれのデバイスを経由しても自分だけのPSNにアクセスできるようになるのだ。
2006年11月以降、PlayStation Storeにおけるコンテンツのダウンロードは1億8000万ダウンロードをカウントしているという。ここで発表になったのが「Ratchet & Clank QUEST FOR BOOTY」。14.99ドルでダウンロードコンテンツとしてPlayStation Storeで購入できる。この他にも、「Crash Commando」、「Fat Princess」、「PixelJunk Eden」、「Pain Amusement Park」、「Flower」、「the Resident Evil-esque Siren Blood Curse」、「Rag Doll Kung Fu: Fists of Plastic」など、新規ダウンロードコンテンツの紹介があった。
また、「Gran Turismo 5 Prologue」とそのソフト所有者向けの有料コンテンツ「Gran Turismo TV」の紹介があった。 8月からの配信が決まっているとのこと。ファンにはたまらないはずだ。
また、GoogleとYouTubeとの提携も発表された。ユーザーによるビデオクリップのアップロードのためという。Life with PlayStation(ニュースやお天気など)も今月末からサービスを開始すると発表した。
さて、マイクロソフトの映像コンテンツダウンロードサービスから遅れること1年。SCEもようやく同様のサービスを立ち上げたとの発表があった(この日に配信開始された)。映像供給元はターナーエンターテインメント、20世紀フォックス、LIONSGATE、MGM、FUNIMATION、ワーナーブラザース、ディズニー、そしてもちろんソニーピクチャーズなど。PS3でダウンロードしたものは、PSPに転送して持ち歩けるのが売りだとトレットン氏は言う。
Home
マイクロソフトがダッシュボードを発表する中、2年越しの「Home」のローンチに関してはまだ闇の中である。トレットン氏が触れたのは、EAやUBIソフト、Nikeなどが「Home」のパートナーとして加わった、ということだけ。「クローズドβが終了した暁には、待ちに待った甲斐があったと思っていただけるでしょう!」とのこと。いや、もう待ちくたびれた、との声も聞かれそうだ。
3:PSP
「Ratchet and Clank Size Matters」を「PSP Entertainment Pack」としてPSPに同梱
トレットン氏は、2008年10月に「PSP Entertainment Pack」のラインアップに「Ratchet and Clank Size Matters」バージョンを投入すると発表した。価格は199.99ドル。今年だけで(1月〜6月までの半年間)で160万台を販売したというPSP、同梱戦略が更なる購入層の拡大につながるか。
ソフト戦略
PSPに関しても「RESISTANCE」のPSP版である「RESISTANCE RETRIBUTION」(2009年春発売)をはじめ、「LocoRoco2」や「PATAPON2」、「SUPER STARDUST PORTABLE」、「Buzz Master Quiz」などのほか、「VALKYRIA CHRONICLES」(ただし、後日PS3版「戦場のヴァルキュリア」を誤ってPSPソフトとして発表してしまったことが明らかになった)などが発売されると発表した。
4:プレイステーション 2
本年度(1月〜6月)だけで150万台を売り上げるPS2。まだまだ過去のハードとは言えない代物だ。トレットン氏は2008年に約130タイトルが新たに発売されると述べた。ハード単体では129ドルで売られているPS2だが、今秋、ライトユーザー、家族向けに「Lego BATMAN」と「JUSTICE LEAGUE」(アニメDVD)を同梱したパッケージを149ドルで発売するとのこと。
5:まとめ
プレゼンがトレットン氏1人で仕切らねばならないというさみしい状況であった。前出したが、新しい情報はほとんどなく(実は映像コンテンツのダウンロードは数日前にアナウンスされていた)、唯一の驚きはPS3の実質値下げとなる「80GB:399ドル」であろう。コンテンツを強化しておきながら、それをシームレスにつなぐはずの「Home」が、2年かかってもいっこうに姿が見えないのはまことに残念なことである。
本文でも触れたがSCEの場合、今後やろうとしていること(ハードもソフトも含め)を早い段階で話してしまうので、他者と比べると「遅れている」感を与えてしまう傾向にある。ソフトメーカーが発売を遅らす、というのとプラットフォーマーが何らかの形で後れを取るのでは大きな違いがあるのだ。今回、SCEに変化が見られるのは「映像(エピソードや映画など)の配信は本日から開始します」との発言。前もってアナウンスして期日がずれていく今までの方式とは変わってきている、という点では評価できる。しかしながら、「Home」に関しては久しく「やりますやります」と言っておきながら、後から発表したマイクロソフトに一気に抜かれてしまった感は否めない。腰を据えて開発を進めて確証を持ててからきちんと発表してほしい。
「PC、PS3、PSPいずれからアクセスしても、1つの共通したIDで管理できるようになる」との発表があったが、これは何をさすのか? PSPから直接ダウンロードする時期がいよいよやってくるということではないか? PSPローンチ時から懸案になっていた、PSPからの直接ダウンロード。いよいよ本格化する予感がする。発表では触れられなかったが、PSPハードは堅調に伸びているにもかかわらず、ソフトの伸びがイマイチであることは否めない。PC経由で他のコンテンツ(映像、音楽など)をダウンロードして楽しんでいただけのユーザーが、PSPに直接ダウンロードできるようになれば(しかも簡単に!)、ゲーム機としての本来の意味への回帰もあり得るのではないかとも思えるのであった。
サードパーティに支えられたプレイステーションブランドの印象が、今回のカンファレンスで若干払拭された気がする。圧倒的にファーストパーティのソフト紹介が多かったからである。これはファーストパーティが、本格的にソフト開発を大きく広げたのか? サードパーティがプレイステーションプラットフォームに供給を控えているのか? それともプレゼン上、ファーストパーティのタイトルに重きを置いただけなのか? それはまだ推測の域を出ない。ただ、ひとつだけ言えるのは、開発費高騰の中、プレイステーションブランド、特にPS3に対して手放しでエクスクルーシブにタイトルを供給できるのはファーストパーティでしかないこと、ということである。
ファーストパーティがたくさんの大型タイトルを供給するのはもちろんだが、プレイステーションブランドが、サードパーティタイトルの他のプラットフォーム版からのコンバージョン供給を受けるのではなく、プレイステーションブランドで作ったものを他のプラットフォームにもコンバージョンするという状況を進めないと、優位性を維持することはできないであろう。インフラ、ブランド力、マーケティングなどにおいて、SCEはサードパーティやユーザーに不安を与えてはいけない。このハードを買っておけば、このハードに向けて作っておけば間違いないのだから、と安心感を与えてくれる存在であり続けてもらいたいものだ。
3つのファーストパーティのカンファレンスについてはここまで。次回は「E3 2008」そのものにクローズアップする。
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