アメリカンなハードにほとばしるジャパニーズ・サブカルチャー「テイルズ オブ ヴェスペリア」レビュー(2/2 ページ)

» 2008年08月22日 00時00分 公開
[水野隆志,ITmedia]
前のページへ 1|2       

キャラクターの行動動機を意識した良質なシナリオ展開

 絶妙の導入で始まった物語がどのように進むのか。細かいところは実際にプレイして確かめてもらいたいので、ここでは大きな流れだけ紹介しておこう。

 主人公であるユーリの最初の行動動機は水道魔導器の修復である。魔導器を動かすためには魔核(コア)と呼ばれる部品がいるのだが、これを何者かが盗んでしまったため、下町の人々は水道が利用できなくなり困っている。長引けば深刻な事態になるのは明らかだ。

 見逃されがちだが、この目的設定も実によい。急いではいるが多少ならば余裕がある、という状態を作り出しているため、プレイヤーはある程度の緊急性を感じつつも、ただもうがむしゃらに解決しなければならないほどの切迫感は受けない。

 無論ゲームなのだから、プレイヤーがその気になればどんなに寄り道をしてもいいのだが、あまりに時間感覚がずれていると、イベントでのセリフなどに違和感が出てきてしまう。TOVはこの点もきっちり回避している。

 さて、もうひとりストーリーを進める原動力になるのがヒロインであるエステルだ。彼女の行動動機はフレンに会うことである。フレンというのはユーリの友人で、騎士団に所属しているれっきとした騎士。ところが上流階級の令嬢であるエステルは行動の自由が許されていない。

 たまたま城で出会ったユーリがフレンのなじみだったこと、ユーリが魔導器の核を盗んだ者を探すための旅に出ようとしていることを知って、同行を願い出てくるのである。従って旅のきっかけに関しては、ユーリとエステルは共通の目的を持っているわけではない。

 TOVでは、このようにキャラクターごとの目的をきちんと立て、そのうえでそれらを巧みに1本の話に集約させていく。キャラクター個々の目的があり、一緒に行動したほうが目的を達しやすいからという前提があってパーティが組まれている。

 その一方で、旅をしているうちにそれぞれの親睦も深まるようにイベントを設け、パーティとしての一体感を生み出していく。この辺りの見事な構成も作り手のレベルの高さを感じさせる。

photophoto (写真左)キャラクターたちの行動に対する理由がちゃんと説明されている。これをおろそかにしてはストーリーが成り立たない
(写真右)旅の目的から外れる場合も強引にイベントを押し込んだりしない。主目的との間に関連を持たせているため、話の筋がぼけないのだ

 次に戦闘システムについて見ていきたい。

 シリーズ作品に慣れた人であれば、すでに見たことがあるシステムを採用しており、アクション性は今回も高い。同じ敵と渡り合ったとしても、アクション慣れしているか否かで、ご褒美に差が出るようにもなっている。ただ、アクションを重視しているといっても、戦闘の難易度自体はそれほど高くない。

 よほどまずい戦い方をしない限り、ザコ戦はそれほど苦労しないだろう。どちらかと言うとザコ戦は勝てるのが前提で、むしろ経験値やドロップアイテムを入手するために行うといってもいい。とはいえ、あまりいい加減にやると評価が下がってしまうので、それなりの配慮は必要だ。

photophoto (写真左)同じ敵でも倒し方によって得られる経験値が変わってくる。“Grade”は勝ち方を総合的に評価した値で、あまり無様な勝ち方をすると勝っていてもマイナスになることがある。この値はクリア時に影響するので、下がらないようにしたい
(写真右)同じ武器を使い続ければ、その武器に対応したスキルを習得できる。多数のスキルをマスターし、それらを使いこなせば、戦闘の難易度はずいぶん変わってくる

 アクションが苦手ならば無理する必要もない。レベルアップに必要な経験値はそれほど多くないので、多少時間を割いて経験値稼ぎをすれば、すぐにレベルが上がっていく。一度挑んで惨敗したら、そこからレベルを少し上げて再戦すれば何とかなるだろう。


 TOVの根底には、王道中の王道というべきJ-RPGらしさが存在する。それは若いキャラクターたちが協力して世界を救うというストーリーに象徴される。これは海外のみならず、ファミコンの昔から日本人のRPGファンが慣れ親しんできた設定だ。

 一方、デザインや主題歌といった外見の部分には近年海外でも注目を集めている日本のサブカルチャーテイストをふんだんに取り入れている。ここまでなら、あくまでジャパニーズスタイルにこだわっているだけになるが、RPGの要となる戦闘システムではアクション性を重視し、個々のプレイヤーの力量が反映される作りになっている。その点では、明らかに海外志向になっているともいえる。

 すなわち、RPGのコアであるストーリーと戦闘システムのうち、前者を日本志向、後者を海外志向にし、外殻には海外にアピールできる日本のサブカルチャーを配した構成となっているわけだ。そのスタンスを明確にしたうえで、考え抜かれたバランスとテンポで全体を仕上げている。

 クオリティはシリーズでも筆頭クラスの出来栄えを誇っている。ぜひ、これをきっかけに海外での飛躍を成し遂げて欲しいと思う。そして日本でのXbox 360拡大の一助ともなれば、ゲーム業界全体にとって、極めてよろこばしい福音となるだろう。この作品には、それに応えるに足るだけの完成度が十分すぎるほどにある。

photophotophoto

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/15/news031.jpg ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. /nl/articles/2412/14/news019.jpg ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  3. /nl/articles/2412/15/news011.jpg 「懐かしい」 ハードオフで“30年前のPC”を購入→Windows 95をインストールしたら“驚きの結果”に!
  4. /nl/articles/2412/16/news107.jpg 「靴下屋」運営のタビオ、SNSアカウント炎上を受け「不適切投稿に関するお詫び」発表 「破れないストッキング」についてのやりとりが発端
  5. /nl/articles/2412/15/news035.jpg 餓死寸前でうなり声を上げていた野犬を保護→“6年後の姿”が大きな話題に! さらに2年後の現在を飼い主に聞いた
  6. /nl/articles/2412/10/news133.jpg 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  7. /nl/articles/2412/15/news002.jpg 毛糸でフリルをたくさん編んでいくと…… ため息がもれるほどかわいい“まるで天使”なアイテムに「一目惚れしてしまいました」「うちの子に作りたい!」
  8. /nl/articles/2312/15/news032.jpg 放置された池でレアな魚を狙っていた親子に、想定外の事態 目にしたショッキングな光景に悲しむ声が続々
  9. /nl/articles/2412/15/news028.jpg 脱北した女性たちが初めて“日本のお寿司”を食べたら…… 胸がつまる現実に考えさせられる 「泣いてしまった」「心打たれました」
  10. /nl/articles/2412/16/news023.jpg 父「若いころはモテた」→息子は半信半疑だったが…… 当時の“間違いなく大人気の姿”に40万いいね「いい年の取り方」【海外】
先週の総合アクセスTOP10
  1. イモトアヤコ、購入した“圧倒的人気車”が思わぬ勘違いを招く スーパーで「後ろから警備員さんが」
  2. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  3. パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
  4. 高校生のときに付き合い始めた2人→10年後…… 現在の姿に「めっちゃキュンってした」「まるで映画の世界」と1000万表示突破
  5. 大谷翔平の妻・真美子さん、ZARA「8000円ニット」を着用? 「似合ってる」「シンプルで華やか」
  6. 新幹線で「高級ウイスキー」を注文→“予想外のサイズ”に仰天 「むしろすげえ」「家に飾りたい」 投稿者に感想を聞いた
  7. 高校生時代に父と撮った写真を、29年後に再現したら……再生数1000万回超えの反響 さらに2年後の現在は、投稿者に話を聞いた
  8. 散歩中、急にテンションが下がった柴犬→足元を見てみると…… 「そんなことあります?」まさかの原因が860万表示「かわいそうだけどかわいい」
  9. コメダのテイクアウトで油断して“すさまじい量”になってしまった写真があるある 受け取ったその後はどうなったのか聞いた
  10. 「やめてくれ」 会社で使った“伝言メモ”にクレーム→“思わず二度見”の実物が200万表示 「頭に入ってこない」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」