ゲームとアカデミーの素敵なカンケイ(第1回)――東京大学 大学院情報学環 馬場章教授(2/4 ページ)

» 2008年10月01日 02時31分 公開
[松井悠,ITmedia]

ゲーム大国日本が、ゲーム研究で立ち後れている事実から

研究室にはすべての家庭用ゲーム機と多種多様なソフトが並んでいた

―― 馬場先生は、とにかく世界中を飛び回ってらっしゃいます。学生の方からも「馬場先生はいつ寝てらっしゃるのか……」という話を伺ったことがあります。

馬場 8月はドイツのライプチヒで開催されたゲームズコンベンションに参加していましたし、9月はアテネに行きますし、10月には台北とアラブ首長国連邦のドバイ、11月にはロサンゼルスに出張の予定です……。国内での活動もありますが、だいたい、1年のうちで5分の1程度は海外にいまして、そのほとんどがデジタルゲームについての活動です。アテネはたまたまデジタルアーカイブについてですが、10月に行く台湾、ドバイもデジタルゲームについてですね。睡眠時間は平均3時間ぐらいでしょうか? 研究室で徹夜ということもよくあります。

―― やはり、海外の方がそういった研究が盛んなのでしょうか。馬場先生は、さまざまなインタビューで「日本はゲーム研究で立ち遅れている」とおっしゃっています。DiGRAも、もともと母体となる団体はフィンランドで設立されていますね。それを解消するために日本デジタルゲーム学会「DiGRA JAPAN」の立ち上げをされたということでしょうか。

馬場 これまでにも「ゲーム学会」や「日本シミュレーション&ゲーミング学会」など、ゲーム関連の学会は既にあることにはあったのですが、それとは違うコンセプトでゲームの学会を立ち上げようと2年前にDiGRA JAPANを立ち上げました。その時に出た新たなコンセプトの1つは、やはり「国際的な活動を重視する」というのがありまして、それは海外のゲーム研究に追い付きたい、産業に比べて日本でのゲームの研究が著しく遅れているという認識から出発しています。

―― 海外の場合、研究と産業が密接に連携して、そこから研究としても、産業としても良い結果が生まれているケースが多いのかと思います。それはゲームに限らず他の産業でも。  

馬場 一般的に言えることですが、日本でも他の産業であれば、産学(産業・教育研究機関)の連携であるとか、産官学(産業・国、地方自治体・教育研究機関)の連携はかなり進んでいると思っています。それに比べて日本のゲーム産業は今まで世界的に見て優等生だったにも関わらず、国内の産学連携、あるいは産官学の連携が著しく遅れている、そういう問題があると思うんですね。

―― その原因はどこにあるのでしょうか?

馬場 産官学それぞれに責任があると思いますが、共通していることはゲームの社会的な地位の低さが原因だと思います。例えば学、大学や研究機関の研究者の側でいうと、ゲームが研究の対象になり得るという認識がなかったと思うんですよ。私の目から見て「あなたのやっている技術研究は実はゲームにも応用できるんじゃないんですか?」と言ってみても本人はその自覚がなかったり。それは技術だけではなく、他の分野の研究にも言えることなんですが……。

 産業界の側も、大学と連携できる、あるいは国の一流の機関と連携できるだけのテーマだという認識がゲーム業界の中に無かったと思うんですよね。ゲームを作り出している企業、産側は「自分たちの作っているものに、学に対して何か引け目を持っていなかったか? そういう意識が産業界の側にありはしなかったか?」と私は思うわけです。ただ、最近は徐々に産学官の距離が近くなってきているのではないかと思います。きっかけのひとつは、韓国など他の国々が産業としてのゲームに注目をして、しかも政府が力を入れるという政策が成功したことがあります。日本でも経済産業省を中心にデジタルコンテンツやゲーム産業に、それなりに注目をするようになってきたわけですが……。

―― それでも、海外に比べて連携の度合いは足りていない?

馬場 まったく足りていないですね。理想的な産学連携の姿としては、やはり相互乗り入れが必要です。例えば半導体の研究であれば、企業の研究者が大学の研究室で研究すると思うんです。あるいは大学の研究者や学生が企業に行って一緒に研究するとか。物理的にも人的にも相互乗り入れがあるわけです。ところがゲーム研究についてはそういうことはほとんど……実は私のところで始めたので、一切ではないんですけれども……ない。

 私の認識で言うならば「産学連携しよう、連携したい」と思ったところですらお互いの窓口を探している段階じゃないのかなと。ゲームの産学連携が商業的に成功した事例は一部ではあります、川島隆太先生の「東北大学未来科学技術共同研究センター川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング」などですね。「脳トレ」は商品化に結びつき、すばらしいセールスを記録しましたが、これはきわめて特殊な例で、「脳トレ」を産学連携の一般的なスタイルと捉えられてしまうとまた間口が狭まってしまいます。もっと他の分野で進んでいるような産学連携に近づけるためには、ゲーム産業界と研究機関・学校等が物理的にも人的にも乗り入れていくような。そういう形が理想ではないかなと思います。   

―― 最近は、大学や大学院を卒業した後にゲームメーカーに入る方も少しずつ増えている印象を受けます。

馬場 そうですね、現に私の研究室や情報学環からもゲーム会社に就職している卒業生は少なくありません。全国的に見ても確かに増えてきていると思いますし、そこにはDiGRA JAPANもその役割を少しでも果たしているかなと思います。DiGRA JAPANの研究会や公開講座で大学の研究者や開発者の方々が顔を合わせる場が多くなった。名刺交換をし、コミュニケーションが発生し、もっと深いところへと話が発展するチャンスが生まれているのかな、と。

日本で開催されたDiGRA2007におけるセッション「ゲームにおける女性 2007」の風景
DiGRA2007では馬場先生、パックマンの生みの親・岩谷氏、ファミコンの父・上村氏による記念対談も行われた
台湾デジタルコンテンツ学院での講演風景

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2501/02/news027.jpg 【ハードオフ】2750円のジャンク品を持ち帰ったら…… まさかの展開に驚がく「これがジャンクの醍醐味のひとつ」
  2. /nl/articles/2501/03/news057.jpg 「箱根駅伝」10区ランナー、“父親が大物アーティスト”と判明し「息子が走ってたなんて」「イケメン息子」と驚きの声
  3. /nl/articles/2501/02/news034.jpg 「脳がバグる」 ←昼間の夫婦の姿 夜の夫婦の姿→ あまりの激変ぶりと騙される姿に「三度見くらいした……」「まさか」
  4. /nl/articles/2501/03/news005.jpg 「妹が入学式に着るワンピース作ってみた!」→こだわり満載の完成品に「すごすぎて意味わからない」と大反響 2024年に読まれたハンドメイド記事トップ5
  5. /nl/articles/2501/01/news001.jpg 【今日の難読漢字】「手水」←何と読む?
  6. /nl/articles/2501/02/news038.jpg 「どういうことなの!?」 ハードオフで13万円で売っていたまさかの“希少品”に反響「すげえ値段ついてるなあ」 
  7. /nl/articles/2401/03/news055.jpg 「思わず笑った」 ハードオフに4万4000円で売られていた“まさかのフィギュア”に仰天 「玄関に置いときたい」 当時の感想を聞いた
  8. /nl/articles/2501/03/news055.jpg 運だめしに“ガンプラ福袋”を買ったら……「様子おかしい」“衝撃の開封結果”に反響 「欲張りセット」「やば!!!!」
  9. /nl/articles/2501/02/news015.jpg 【計算】代金が398円のとき、45円のおつりをもらうにはいくら払えばいい? 大人なら即答したい計算クイズ
  10. /nl/articles/2501/03/news007.jpg 考え方も性格も“正反対”の2人が結婚→それから13年後…… 苦楽をともにした“現在の姿”に反響 「素敵ですね」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 東京美容外科、“不適切投稿”した院長の「解任」を発表 「組織体制の強化に努めてまいる所存」
  2. 大谷翔平、妻・真美子さん妊娠公表→エコー写真に“まさかの勘違い” 「デコピン妊娠?」「どう見てもデコピンで草」
  3. 「すごい漢字!」 YouTuberゆたぼん、運転免許証公開 「本名の漢字」に衝撃の声続々
  4. 「麻央さんにそっくり……」 市川團十郎の11歳息子・勸玄の成長ぶりに驚きの声 「大きくなってる!」「すでに貫禄がある」
  5. チェジュ航空社長、日本語で謝罪 犠牲者は170人以上との報道 公式サイトは通常のオレンジからブラックに
  6. 「スマホ入荷しました」 ハードオフ店舗がお知らせ→まさかの正体に大横転 「草しか生えない」
  7. 母「昔は数十人もの男性の誘いを断った」→娘は信じられなかったが…… 当時の“想像を超える姿”が2800万再生「これは驚いた」【海外】
  8. 毛糸で作ったお花を200個つなげると…… “圧巻の防寒アイテム”完成に「なにこれ作りたい……!!」「美しすぎる!」と100万再生【海外】
  9. 「思わず泣きそう」 シャトレーゼの“129円クリスマスケーキ”に衝撃 「すごすぎない!?」「このご時世に……」
  10. 「デコピンを抱き寄せたのはもしかして」 妻・真美子さん第1子妊娠発表で大谷翔平の発言と行動に再注目 「“もう帰る?”は気遣っていたのかも」
先月の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
  3. 東京美容外科、“不適切投稿”した院長の「解任」を発表 「組織体制の強化に努めてまいる所存」
  4. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  5. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  6. イモトアヤコ、購入した“圧倒的人気車”が思わぬ勘違いを招く スーパーで「後ろから警備員さんが」
  7. 「何があった」 絵師が“大学4年間の成長過程”公開→たどり着いた“まさかの境地”に「ぶっ飛ばしてて草」
  8. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  9. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  10. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」