歴史を変えた1日を体感――コーエーが調理した「関ヶ原の戦い」はポップでコミカルなアドベンチャー「采配のゆくえ」レビュー(2/2 ページ)

» 2008年11月10日 19時33分 公開
[立花裕壱,ITmedia]
前のページへ 1|2       

武将の心を変える「説得」

 西軍を束ねる三成だが、武将たちが言うことを聞いてくれるとは限らない。そうした場面で始まるのが「説得」パートだ。場所を移動してさまざまな人物との会話で入手した「言ノ葉(証言)」や、こちらの根拠を示す品などを相手にぶつけて、考え方を変えていく。間違った選択肢を選ぶと「聞く気」を表す扇が落ちてしまい、5回ミスするとゲームオーバーだ。

 例えば作戦上、後退を命じても「まとめて、わしが叩きつぶす!」と戦闘を主張して退かない宇喜多秀家。「わしは退かぬ、退く必要もない!」と食ってかかる秀家に、まともに戦う危険性を主張する。ここでは島左近が以前に指摘した言ノ葉「挟み撃ち」を選択し「敵は一部隊ではない!」と発言するのが正解。すると秀家が「お前に、戦術の何が分かるというのだ!」とさらに反論してくるので、また適切な言ノ葉を選び論破する……。これを繰り返して、徐々に納得させれば成功だ。

 この説得システムは、ゲーム性としてもオリジナリティがあるが、相手の性格や生き様がダイレクトに伝わってきてシナリオにも効いてくる。なぜ宇喜多秀家はそんなにも自信たっぷりに振る舞わなければならないのか。幼少時代のエピソードも挿入され、ただのわがままに思えた秀家の人となりもより深く理解できる。頑として言うことを聞かないただの邪魔者ではなくて、人と人との想いがぶつかる合戦という、物語全体の主題に沿ったシステムになっている。

photo 何かと難癖をつけては指示に従わない武将たち。説得では彼らの矛盾点を突いていく。後退しようとしない宇喜多にはどう出る?
photo 相手の主張を突き崩すような言ノ葉を選んだり、証拠の品を使ったりして反論する。よく考えればそれほど難しくはない

photo 合戦の前には各陣を移動して会話を交わす戦略パートがある。説得時に使う言ノ葉は、主にここで入手する
photo 戦略パートではその場を調べる注目も使える。カーソルを動かして画面内のものを見ると、重要な品を入手できることも

新感覚の合戦パート

 先に述べた説得パートに加え、もうひとつの目玉が、マス目上に位置する各武将の部隊に指示を与える合戦パートだろう。三成は本陣に残り、戦場に出た武将たちの「報告」を受けて「伝令」で指示を与える。伝令で下手な選択肢を選ぶと、説得パートと同じく、ライフにあたる「戦意」を表す矢がひとつ減り、5つすべてがなくなるとゲームオーバーだ。

 重要なのはそれぞれの部隊が得意とする攻撃方法。横一列に並んだ敵部隊を一斉に攻撃できる「鉄砲射撃」や、縦一列の敵部隊を蹴散らす「騎馬突撃」などをうまく使えるよう部隊を動かす。敵の意図も読んで、伝令で「前進せよ!」「南に向かえ!」といった選択肢を選ぼう。

 この合戦パートは自由度が高い戦略シミュレーションというわけではなく、状況を聞いて正解の選択肢を選ぶアドベンチャーの枠組を保っている。とっつきやすく、しかも三成たちが苦しい局面をどう乗り越えたか、自分の手でプレイしながら戦局を体感できる作りだ。

 また、ゲームが進むとマス目上で味方のコマを動かして敵を誘導する、詰め将棋のような「天眼」というパートも登場する。こちらも、工夫すれば独立したパズルゲームとしても成り立ちそうだが、ストーリーの勢いを削がないようにあえて控えめにしている印象がある。

 できれば、一度クリアしたあとにもっと手応えのある合戦や天眼のおまけがあってもよかったと思うが……。

photo 本陣から味方に指示を与える合戦パート。報告を受けるとマップ上に敵部隊の位置が描き込まれる。まずは報告を指示しよう
photo 状況を把握したら各武将に伝令で指示を与える。指示は2〜4つの選択肢から選ぶ。複数の戦場を切り替える場合も
photo 三成が目覚める特殊能力「天眼」。達成条件を満たすように、自軍の武将を動かしていこう。何度でもやり直せる

歴史を遊ぶ新たな切り口

 あえて残念な点を挙げるとすると、ラストが思いのほか、あっさり終わってしまうところ。もう少し後日談などを膨らませてほしかったというのが正直な感想だ。作り手の意図とは外れるが、歴史とは違うifの別ルートを用意して、大風呂敷を広げても面白かったように思う。

 クリアしても、ギャラリーやおまけシナリオがなく、余韻にひたりたいのにぶっつり切られてしまった、そんな印象が強い。小説やアニメと違って、クリア後のおまけで余韻にたっぷり浸れるのは、ゲームの利点でもある。このあたり、次回作にぜひ期待したい。

 プレイ時間は10〜15時間程度と心持ち短いが、熱っぽさを切らさないで遊ぶにはちょうどいい。関ヶ原の戦いをベースにしたまったくのフィクションではなく、演出や解釈によって、関ヶ原の戦いそのものをエンターテイメントに仕上げた采配のゆくえ。歴史上には、まだまだ語るべき豊かさを持った合戦や事件が多く存在する。今後、コーエーが歴史をどう調理していくのか、ますます楽しみになった。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/08/news177.jpg イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
  2. /nl/articles/2411/06/news180.jpg 「むりだろww」「笑いました」 ニトリでソファ購入 → 愛車の前でぼうぜん…… “まさかの悲劇”が1000万表示
  3. /nl/articles/2411/07/news182.jpg 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
  4. /nl/articles/2411/07/news163.jpg 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
  5. /nl/articles/2411/05/news138.jpg 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  6. /nl/articles/2411/08/news132.jpg peco、息子の近影を公開「すごーくりゅうちぇるに見えます!」「パパに似てる〜」 息子のスクールランチも色とりどりでおいしそう
  7. /nl/articles/2411/08/news143.jpg 高嶋ちさ子、3000万円超の“超高級外車”ゲットにドヤ顔も! 笑い止まらずハンドル握り「Woohoo!!!」
  8. /nl/articles/2411/07/news029.jpg 50代主婦が5日間、ひたすら草抜き&庭木の剪定→たった一人でやり遂げたとは思えないビフォーアフターに称賛の嵐 「尊敬する」「本当に脱帽です」
  9. /nl/articles/2411/08/news025.jpg 「そうはならんやろ」クルマ修理会社の壁を見ると…… まさかの“シュールすぎるイラスト”に9万いいね 「よすぎる」「天才か」
  10. /nl/articles/2411/08/news111.jpg 2人組ガールズユニット、突然の脱退を発表 マネージャー「本人の意思ではない」 母親とする人物からの脱退理由と経緯説明が物議
先週の総合アクセスTOP10
  1. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  2. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  3. 結婚相手を連れてくる妹に「他の人に会わせられない」と言われた兄、プロがイメチェンしたら…… 「鈴木亮平さんに見えた」大変身に驚がく
  4. 「2007年に紅白出場」 38歳になった“グラビア界の黒船”が1年ぶりに近影公開→驚きの声続々
  5. 「クソビビったwww」 ハードオフに38万5000円で売っていた「衝撃的な商品」が90万表示 「売った人突き止めたい」
  6. 夫婦喧嘩した翌朝の弁当を夫が作ったら…… “森”すぎるビジュアルに「インパクトすごい」「最高に笑いました」の声
  7. 約9万円の「高級激レアガンプラ」を10時間かけて制作→完成品に「家宝だ」「めっちゃくちゃにかっこいい!!」
  8. 天皇皇后両陛下主催の園遊会、“お土産”に注目 ジョージア大使「大好物です」「娘たちからも大好評」
  9. 「庶民的すぎる」「明日買おう」 大谷翔平の妻・真美子さんが客席で食べていた? 「のど飴」が話題に
  10. 事故で重体の人気日本人TikToker、1カ月の意識不明と家族ケア経て逝去……“旅立ち直前に会った”親友は「励ましに来てくれてたのかな」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた