必要なのはオーディエンスへの意識と発声練習:ヒライタケシの「投げる前から変化球」(その4)(3/3 ページ)
押見 アメリカだとシステム部門がゲームエンジンを提供して作っていて、ミドルウェアの採用を決めるのはこの部門なんです。でも日本はまずタイトル。タイトルを作る人がミドルウェアを使うかどうかを決めるんです。だから、同じ会社でもあるタイトルでは我々のものを使っても、あるタイトルでは使ってないということが起きる。タイトルが何をしたいのかに依存しているんですが、でもこれっていいことだと思うんです。何を作りたいのかが先にあるべきでしょ。
平井 CRIさんのミドルウェアはほかのミドルウェアとの相性もいい。一番下のレイヤーをいっしょにやれている感じ。これ使いたいんですけど、一緒に使えますか? と相談できる感じ(笑)。
押見 それは日本の開発会社が比較的近いからかもしれません。アメリカだと西海岸と東海岸とでは会うのも容易ではない。日本語のサポートがあるかないかも大きいですね。
平井 日本のミドルウェアに頑張ってもらいたいんですよね。描画エンジン部門が弱い。メーカーごとにフレームワークを持っていて、クローズドじゃないですか。独自で持っているので、そこをオープンに共有してと。描画エンジンとビヘイビアの部分、そしてAIが強くなれば日本のゲーム開発の現場の基本的な底上げができると思うんです。そこに乗るタイトルがいいものかは置いておいて、それを使うタイトルで何か訴求できるものを出せるといいのですが。
押見 欧米の方と話していると面白いのが、コンテンツを大事にしている点でしょうね。自分たちのコンテンツをなるべく多くのプラットホームに出したいという流れがありますよね。
平井 日本でも家庭用ゲーム機のハイエンドの上だけはマルチにしようとしていますが、そうではないものが日本ではない。
押見 どれも同じコンテンツをベースに作るとして、操作系は同じにできるので、ペリフェラル(周辺機器)の持つ面白さを生かしきれないものもあります。そういう細かいところは日本人がうまいかもしれません。
平井 そこを出さないと海外に負けてしまいますよね。
押見 コンテンツの持つ面白さと強みと、周辺機器の持つ細やかさを融合していけばまだまだ日本もいける。
平井 日本ではキャラクターが強いとは思われていますが、ゲーム単体が強いとは思われていません。むしろ技術力は弱いと思われている。恥ずかしいのですが。日本人はコミュニケーションが苦手なのか、論文を書けるだけのレベルのものを開発会社が書けないんです。産学一体になっていないとよく海外でも言われていますよね。大学からの協力も得られていない。協力してもらえば人材的にもいいことづくめなのに。やはり、コミュニケーションの苦手をどう解消していけるかなんでしょうか。
押見 適切なミーティング人数ってありますよね? 会議を20人くらいでしていると話さない人が出てくる。4〜5人くらいが一番いいのですが、でもアメリカの人はしゃべる人はしゃべるわけです。日本人はRPG好きだからか自分のポジショニングを決めがちじゃないですか。ヒアリング能力も必要でしょう。
平井 僕は自分が目立ってしまうから。僕自身もうまいヒアリング能力を身につけないといけませんよね(苦笑)。今回、押見さんとは情報の共有と経験というところを、強調して話したかったんですよ。日本の開発現場は情報の共有が特にヘタなんじゃないかと。話はできても自分の意見を隠す傾向にあったり。自信がないからか、隠してしまう傾向があって、情報の共有が滞るんです。経験もその本人にしかほかに伝えられないし。その情報の共有と経験はどう今後開発は考えるべきか聞いてみようかと。
押見 いろんな方法がありますが、いろんなことを現場でヒアリングしてくる中で、ドキュメント化するのが共有化になっていますね。
平井 押見さんはどう伝えているんですか?
押見 わたしたちがやっているのは全体ミーティングがあり全員が参加しているのですが、その中で、前の週にやったことを顧客案件ミーティングからチョイスして、その場で共有しているんです。提案ベースであったりと、ケースバイケースですが。だから発言できている方かもしれませんね。ウチって、昼礼があって発声練習があるんです(笑)。完全に裁量労働でフレックスなのに、昼礼の時だけ集められて発声練習をしている。そこで人前で声を出すことに臆することがなくなると。
平井 うちもやろうかな。
押見 当番制で、3分間スピーチでちょっと面白い話したり。最近では、SCEの「リトルビックプラネット」を使ってプレゼンステージを作ってプロモーション用にして発表したりしてましたね。それなりに頑張ってんなぁと。そんなことをやっているので、うちはコミュニケーションを大事にしてますよね。あと共有という意味ではリポート書くとか積極的にやってますね。
平井 ほかの会社にも伝えていきたいんですよね。教科書に載っていない技術を日本の企業に伝えて底上げしたい。とりあえず昼礼は大事だということですかね(笑)。そこから始まるんじゃないかと。人に伝えるのもまず言葉ですから。発声練習から始まる。発声練習をしないと生き残れないとか。なによりも楽しもうとするというのが大事なんですよ。我々はエンタテインメント企業ですからね。
押見 急ですけど、ブログって書くじゃないですか。あれってどこからその情熱が生まれているんでしょうか? 情報共有という意味ではあれは基本じゃないですか。不特定多数に向けて自分が操作して表現しやすいアウトプット先として分かりやすいツールだし、消せるし修正ができる。他者とのかかわりを操作しやすいのかな。
平井 僕も日記は書いているのですが、そこは情報共有ではなく外部記録装置としていますね。自分で理解したいし、他人へのアプローチという楔というか。日記ではありますが、報告書みたいなもの? 自分の外部記録装置を外に持っているといった表現のほうがいいかもしれません。僕は消しゴムを使わないで、書いたら消さないし、間違ってもそのままですけどね。
押見 誰かが見てくれる、つながっているという感覚も大事なのかもしれません。音楽は聴いてくれる人がいないと成立しないじゃないですか。
平井 カメラもそうですが、誰かに見てもらえないってのはありなのでしょうかね。
押見 繰り返しになりますが、音楽は聴く人がいないと成立しないじゃないですか。何か表現することと、伝わる何かがないと成立しない。情報共有とかいうか、聞いてくれる人がいる環境を作ることが大事。何かを伝える場を作ることですね。
平井 突き詰めると、エンタテインメントも誰かに遊んでもらうという意識がないと成立しないじゃないですか。自己満足では成立しないし、遊ぶ人の顔を見ながら作らないと。写真も観てもらうために撮影しているわけですし。
押見 あと東京ゲームショウ(TGS)なりGDCなりの展示会があるのが大事ですよね。人に見せることが前提になるんです。そこに向けてミドルウェアのデモを作るし、どう見せられるかを考える。お客様と技術を共有できるというのか。
平井 TGSのタイミングでは頑張りますよね。見せる人に、遊んでもらう意識を持つことが一番開発を向上させる。オーディエンスへの意識というんですか。
押見 どういう人を集められるかで変わっていくわけですし、ターゲットによって変わってくるんでしょうね。
平井 若い世代に向けて最後に聞きたいのですが、若い人への目標として20年間やっていた押見さんがゲーム業界に入って作る人に向けてのメッセージってありますか?
押見 月並みですが、オンリーワンのなにかを持つことではないでしょうか。ワタシのポリシーでもあることですが、そもそもコンペが嫌いなんです。競争して叩きのめすのが苦手で、それだったらマネできない単独の何かがあればそれがオンリーワンでしょ。ワタシにとっては技術ですが、それが絵でも音楽でもプログラミングでもいい。企画でも、オンリーワンの何かを持つことではないでしょうか。
平井 それには何か必要なものはありますか?
押見 情報を集めすぎないことじゃないでしょうか? いろんなものを見ていると自分のものが出にくくなるんです。模倣になりやすいし、その先がないんじゃないかと思ってしまいがち。ただ、あまりにも無知では話になりません。受験勉強でもそうですが基準から点数を上げていくのが常じゃないですか。でも点数取っても100点の限界がある。70点でもいいんです。そこからこれとこれを足すとこうなんだというブレークダウンを導き出せるかなんですよ。いろんなすべての人が唯一のものをゼロから作るのは不可能ですが、いくつもの可能性の中からチョイスして作るのは可能でしょう。誰もアインシュタインになれとはいいません。オンリーワンは特別ではなく、今ある何かと何かを結びつけて自分だけのものを作ることがオンリーワンでしょう。
平井 押見さんのおっしゃるのは、高い思想のもとに存在する方向性がオンリーワンであることを指してらっしゃると思いました。今ある何かと何かを結びつけるためには、コミュニケーション能力が必要です。僕が常に意識していることですが、日本のエンジニアは情報シェアの向上が急務でしょう。CRIさんは、ミドルウェア開発会社という立場からワイドな目線をもってらっしゃるからその部分が見えているのだと思います。これからもその姿勢でデジタルエンタテインメントを支えていっていただきたいです。本日はありがとうございました。
ヒライからのひと言
第4回はCRI・ミドルウェア株式会社代表取締役専務の押見さんにご登場いただきました。押見さん含めCRIさんは日本のデジタルエンタテインメントの底上げを常に考えてらっしゃる数少ない優秀な集団です。とても気さくな方が多くプロジェクト開始前から相談に乗っていただくことがほとんどで、技術者=寡黙というイメージをいい意味で裏切るくらい、皆さんコミュニケーション能力が高いです。
対談の最後にもお話させていただきましたが、日本のエンジニアは全体的に見て、コミュニケーション能力が衰えていっている傾向にあるのではないかと危惧しています。その理由はほぼインターネットの普及にあるのではないかと考えます。
なんでも検索してそれなりの答えが見つかることにより、日常生活において人とのコミュニケーションの存在するスペースが減っていっているように思えてなりません。検索は便利ですしボクも常に使うものではあります。ただしデジタルエンタテインメントの多くは、1人ではなく多くの方の協力で成り立つものですからプログラミングと同等にコミュニケーションをし、少しでも全体的な技術の底上げをしてエンタテインメントを開発する部分に注力出来る体制を整えることも大切だと思います。発声練習をするかどうかは、お任せします……。
次回の対談候補はデジタルエンタテインメント業界に精通し、常に新しいエンタテインメントを投げかけてらっしゃる方をお招きして、今後の日本のエンタテインメントのありかたに関してヒアリング、ディスカッションしてみたいと思います。ご期待ください。
プロフィール
平井武史(ひらい たけし)
キューエンタテインメント 最高技術責任者/CTO
代表作:「シェンムー」「スペースチャンネル5 パート2」「メテオス」「メテオスオンライン」
エンジニアとしてハイエンドからモバイル、Web、システム管理までほぼすべての環境、言語を話す。ヘアショーのサロン映像、音楽プロデュースを行ったり、海中での写真集を提供したりと守備範囲は広い。海をこよなく愛するMSD(マスター・スクーバ・ダイバー)である。
関連キーワード
ミドルウェア | セガ | コミュニケーション | CRI・ミドルウェア | キューエンタテインメント | ファイルシステム | MIDI | 考え方 | ファイル圧縮 | プレゼンテーション
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