4月から大学での講義もスタートする「シリアスゲーム」って知ってますか?:ゲームとアカデミーの素敵なカンケイ(第3回)(4/4 ページ)
ゲーマーとしての成功が、社会人としての成功にもつながる?
―― シリアスゲーム先進国のアメリカなどではコンテンツが行政や企業の委託で作られている傾向があります。そうすると、今後の不況というのは関係してくるのでしょうか。
藤本 それもあると思います。例えば、企業内研修向けに作られていたシリアスゲームのプロジェクトも、これから受注するのは大変になっていくでしょう。ただ、アメリカですと政府系の予算はこれから経済対策などで大きくなるのかもしれないですし、そこはまだ読めないところです。ただし、今の需要として従来の教育だとなかなかうまくいかない、限界がある中で、新しいアプローチとして「シリアスゲームというのを取り入れてみよう」という流れがあるので、そこの流れは続くのではないかと思います。
―― 日本では「マルチメディア」や「eラーニング」は知育コンテンツではなかなかうまくいかないと捉えられることが多いのですが……。
藤本 マルチメディア教育はアメリカの方が日本よりは利用されていました。子供達の共有体験として「オレゴン・トレイル」とか「マスブラスター」といったものが、結構授業の中で使われていましたから「そういう名前を聞いたことがある。小学校の時にやった、中学校の時にやった」と、そういう形では出てきます。日本では、そういう共有されている誰でも知っているエデュテインメントソフトはあまりないですよね。
アメリカでは従来から「コンピューターを教育に取り入れる」という取り組みがされていたおかげで「どうやればいいか」というノウハウが教える側にも溜まっていて、慣れている人はどんどん使っていく傾向があります。日本ではそういう先生はごく少数で、それが多数派になるということはない状況があります。そういった人材層……研究者も教育者も開発者も薄いというのが、問題としてあるという感じですね。
―― これは、研究をされている方に向けてするべき質問ではないのかもしれません。なぜなら、技術や研究を行う方と、それを実際にゲームの中に取り入れることはまた違うレベルのお話になってくるからなのですが、あえてお伺いしたいと思います。シリアスゲームの研究が進む、あるいはその概念が普及していくことによって、ゲームを普段遊んでいる人達にどんな経験、世界が待ち受けているのでしょうか。
藤本 ゲームで培った知識やスキルというのは相当凄いものであることに気がつくようになるのではないでしょうか。例えばMMORPGなどでギルド(プレイヤーグループ)を取りまとめる……資源の分配や人のマネージメント、そういったスキルは普通の企業内研修ではトレーニングが難しいものですよね。
アメリカの研究でも、基本的にゲーマーとして成功している人達は社会人としての生活もハッピーという事例があったりします。色々なゲームで培ったコミュニケーション能力、マネージメントのスキル、そういったものが、直接ではなくても何かしらの形で活きている。本人も気が付いていないかもしれないけど「実はゲームで培ったスキルだった」というものが案外あると思います。
ゲームをやるのならば、徹底的にやる、極めていくぐらいのつもりでやって、凄い人から学んだり、ゲームをやっているコミュニティの中で教え合うというところが非常にプラスになることなので、そこは意識して活動に取り入れていくと良いのではないでしょうか。自分の中でうまくいかなくなって、そこで挫折するのではなくて「それだったら、あの人はうまいから、そのスキルを盗もう」とか、あるいはゆっくり話をして、その人が何でうまくなったのか聞いてみるとか、そういうお互いの学び合いだとか情報やノウハウの共有というところを考えて深めていくと、「学習の転移(過去に学習した内容が、他の状況で役に立つこと)」というところに繋がっていくのではと思います。
―― 問題が出てきたら、その解決を問題ごとにやっていきましょうと。
藤本 そういった問題解決方法というのは、ゲームだけではなくて他の問題の時にも応用できる話ですから。ただし、仕事とかも、意識してうまくなろうとすることです。ゲームの世界に閉じこもっているだけではそういうスキルは磨かれないし、それを他で応用しようという気持ちにもなりません。だから「自分はゲームできるからいいよ」というのではなくて、「もっともっとうまくやろう」という意欲を持つことが大事ですね。
―― その「うまく」というのは、ゲームスコアを高くしよう、ゲームの中でもっとコミュニケーションをとろう、もっとキャラクターのレベルを上げよう、そういった色々な意味での「うまく」ですね。
藤本 そうです。ゲームにおける自分のプレイスタイルみたいなものを磨く人がいますよね。「自分はこういう勝ち方をしたい」みたいな。そういうこだわりの部分を自分で客観的に見られるようになると、それはメタな認知スキルになります。
メタなスキルとは「今、自分はどうやってこれをうまくなっているのかな」という勉強方法やスキルの習得方法というのを自分で客観的に見られるようになることなんです。そのスキルは他の時、場所でも「自分はあの時こういうふうにやったな」というところになる。それが「今、接客をやっているけど、これはゲーム的に置き換えるとどうだろう」みたいな感じで使えるようになるんです。メタな認知というのは他のところで応用が効きやすい。一生懸命ゲームをプレイしている自分を客観的に見るというところがあれば面白いかもしれません。
藤本氏の講演資料・著書はこちらで読めます
- 平成19年度シリアスゲームの現状調査報告書(財団法人デジタルコンテンツ協会)
- テレビゲーム教育論−ママ!ジャマしないでよ 勉強してるんだから(東京電気大学出版局)
- シリアスゲーム 教育・社会に役立つデジタルゲーム(東京電気大学出版局)
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「ゲームとアカデミーの素敵なカンケイ」は、ゲームを学術的に研究するさまざまな人たちにフォーカスして、その研究内容や将来の構想についてうかがっていく。第1回目は、日本デジタルゲーム学会会長でありCESAの理事をつとめる、東京大学 大学院情報学環教授の馬場章先生。日本の最高学府では、どんな研究が行われているのか……?
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