鉄壁のデフェンスに開いた一点の蟻穴――「アップルシードタクティクス」第4回戦詳報(2/3 ページ)
アメリカ帝国は攻撃の手を緩めず、オリンダから南下した軍と、南米大陸南端を回って北上した軍をイグアスフォールで合わせ、ナグルファルの全南米領を制圧、本拠である北米と合わせ、南北アメリカ大陸統一を果たした。ナグルファルは首都を大西洋上のアトランティックベースに移し、ようやくここで敵の進軍を食い止めたが、この敗北で勝利は遠い存在となってしまった。
アメリカ帝国の大躍進から世界はしばし膠着状態に陥った。
苦境の続くナグルファル、ガイアシティからタッシリナジェールに繋がるわずか4拠点しか支配していないオリュンポスは他国の領土を削るパワーがなく、アメリカ帝国も占領地の内政や体制の立て直しで時間を必要とした。自由アフリカは大勢としては反アメリカ帝国路線を取って、南極に程近いウォルヴィス海嶺を奪う戦果は挙げたものの、それ以上は支配地に逼塞して静観状態に入ってしまった。
唯一、抗戦能力を持っていたのがUR。スタートダッシュがものを言って圧倒的な経済力を誇っていたURは総資産でもトップに立ち、優位な状況を作っていた。ただし、アメリカ帝国が領地を倍増させたことで、近い将来に逆転される可能性も出てきており、なにがしかの手を打つことが望まれた。
ここでURから見ると問題なのが北米大陸の経済力。豊かなヨーロッパに比べると、北米諸都市は貧しく、しかも大陸の東側は要地ばかりで奪っても資金力が上昇しない。手強いことが確実のアメリカ帝国軍を蹴散らしても経済力が上がらないのでは戦争する気になれないのも事実。とはいえ、都市が多く、資金源となる自由アフリカ領のアジアへ進出すれば後背をアメリカ帝国に突かれる恐れがある。第1、第2回戦ではそれが原因で壊滅的なダメージを受けたこともまだ記憶に新しい。
こうした状況でURは戦略の基本を防衛においた。アメリカ帝国もいかに南米を取ったとはいえ、URを圧倒しているわけではない。結局はUR領を直接削って経済力を下げるという選択肢を取らざるを得ない。かくして世界の焦点は攻めのアメリカ帝国、守りのURによる直接対決に向かっていくことになった。
終盤:UR、鉄壁のディフェンスでアメリカ帝国を阻止。しかし……
最終決戦を意識すれば、主役の2勢力が他の3勢力の介入を避けたくなるのも当然。追うアメリカ帝国も逃げるURもこれに着手した。
先に動いたのはUR。西アフリカのオリュンポス領に攻め込み、4拠点しかない敵領土からカナリア諸島とオートアトラス山脈を奪取する。しかし、この2拠点はいずれも要地でアメリカ帝国の追撃をかわすために必要な経済力の上昇には繋がらない。そこでURはさらにタッシリナジェールへも触手を伸ばす。
結果的にはこの行動がオリュンポスに対して「自分たちが生き残るにはURを叩くしかない」という認識を植え付けることになった。この頃までオリュンポスはアメリカ帝国とは友好関係を築き、URとは不干渉の立場を取ってナグルファルと戦うという方向で動いていた。しかし、4領地中の2領地を失い、さらなる攻撃を受ければ話が変わってくる。
ここでさらに追い風(URにとっては逆風)が吹く。南米失陥のショックから立ち直れないでいたナグルファルが第2の首都であるアトランティックベースをもアメリカ帝国に奪われてしまったのだ。第3の首都はラゴス。ナグルファルはもはや完全に西アフリカの勢力となってしまい、所属プレイヤーたちの士気もにわかに衰えてしまった。事実上のリタイアに近い。
ナグルファルが攻勢に出る可能性は低く、敵をURに絞りたいアメリカ帝国は弱小勢力との小競り合いなど望んでいない。オリュンポスが対UR戦に専念できる状態が生まれていた。だが、オリュンポスがどれほどURに敵愾心を燃やしたとて、戦力差は歴然としている。とてもまともに戦っても勝てる相手ではない。そう、単体では。
やがてアメリカ帝国はURとの全面戦争を決意、大西洋、北極圏の2ルートから攻勢に出た。最初の防衛戦は大西洋方面が北大西洋、北極圏方面がレイキャビク。もちろん、URとて準備は整っている。数で勝る敵に対して戦力を効果的に配し、かつ機動的に用いて“その時危ない拠点に必要な戦力を投入する”という教科書のような内線防御を見せた。アメリカ帝国軍も攻撃重点を切り替え、柔軟な攻撃を繰り広げたが、ことごとくURに対応され、北大西洋、レイキャビクともどうしても落とせない。とりわけレイキャビクの防衛戦は見事の一語に尽きる。アイスランド島の西端にあるこの街は全174拠点中、下から数えて11番目という極めて貧弱な防衛力しかない。だが、URはここを守り抜いた。満を持して攻め込んだアメリカ帝国軍は海上でその野望を途絶させられたかに見えた。
が、完璧なURのディフェンスにわずかな穴があった。オリュンポスである。
資産で見る限り、圧倒的な最下位であるにも関わらず、オリュンポスのメンバーは高い士気を持っていた。生き残るためには攻めるしかない。最下位の彼らのとって攻められる拠点はすべて攻撃対象と考えるしかない。そうした視点から見た時、アメリカ帝国の攻撃により防御に専念せざるを得なくなっているURへの攻撃は極めて有効に思えただろう。
オリュンポスはガイアシティに隣接し、しきりと首都にちょっかいを出してくるリスボンを最初の攻撃目標に選んだ。だが、URはここでも堅固なディフェンスを見せる。URにすれば、資産を生み出す都市だけは絶対に渡せないのだ。オリュンポスはやむなく比較的防衛が薄い要地、以前URに奪われたカナリア諸島へ攻撃目標を切り替える。
URはこの攻撃を事実上容認した。結局のところ、取られても経済力には関係ない要地であり、現在の状況では他に守るべき場所はいくらでもある。ならば、カナリヤ諸島ぐらいオリュンポスにくれてやればいい。こうしてオリュンポスはカナリア諸島を奪還した。そしてその勢いのまま、オートアトラス山脈も占領して、URに奪われた領土の奪還を成し遂げた。
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