iPod touchは携帯型ゲーム機の新たな地平を切り開けるか?iPodの生みの親に聞く(1/3 ページ)

ちょうど10年前、iPodは音楽プレーヤーとして誕生した。そして今ではゲーム業界でも影響力を持つ携帯ゲーム機に生まれ変わり、さらに輝きを放っている。iPodの生みの親でもある、米AppleのStan Ng氏(スタン・イング)に話を聞いた。

» 2011年02月03日 10時22分 公開
[林信行,ITmedia]

運命の分かれ道だった2001年

iPod touch

 iPodは、2011年で誕生から10年目を迎える。ちょうど10年前の今ごろ、2001年1月中旬には、アップルがMacwolrd Expoで、iTunesの最初のバージョンを発表した(キャサディー&グリーンという会社のSoundJAM MPというアプリケーションを買収して作り直したものだ)。

 iTunesはリリースから1週間で27万5000本もダウンロードされた、このこと自体も驚きだが、実は最初のiTunesがiPodではなく、クリエイティブ・ラボの「Nomad」シリーズやソニックブルーの「Rio」シリーズ、NikeやNakamichiなど他社製の音楽プレーヤーと連携していたと聞いたらさらに驚かれるかもしれない。

 だが、史実はそうなのだ。アップルのデジタルライフスタイル戦略は、まずはこうして他社のガジェットと連携する道からスタートした。ちなみにアップルは、携帯電話も最初は自ら開発せずに、まずはモトローラに作らせていた。しかし、そのうちに他社が作る製品のできに満足ができなくなり、自社開発の道を選ぶ。そうして今の大成功を収めてきた。

 アップル社員は、(“鉄の掟”によって)社内での働きぶりを語ることはできないが、これまでいろいろなところに出てきた話を総合すると、10年前の2001年2月ごろ、アップルでマーケティングをしていたスタン・イング氏と、ハードウェアエンジニアのトニー・ファデル氏は、スティーブ・ジョブズ氏をはじめとする重役陣の勅命を受け、アップル自身が音楽プレーヤーを作る必要性があるかどうかの調査を始めた。

 2001年4月、2人が出した結論は「携帯型音楽プレーヤー市場に、まだ勝ち馬と呼べる製品はなく、どれも操作が複雑で普通の人が使いこなせるモノはない。アップルは携帯型音楽プレーヤー市場に進出すべきだ」というものだった。

 そこから2人は、極秘計画として何のプロジェクトかを明かすこともしないまま、社内から優秀からエンジニアをかき集め、わずか半年という短期間で初代iPodを完成させるために心血を注いだ。

初代iPodが登場した瞬間

 2001年11月、世の中は、まだ9.11の衝撃にうちひしがれ元気を失っていた時期だったが、アップルはあえてこのタイミングでの製品発表を敢行。筆者もアップルの広報に「私のせいで、こんな危険な時期に飛行機に乗るハメになった」とジョークを言われながら発表会を訪れた。そしてその1年後にはWindows版iPodを発表、これがアップルブランドをそれまでのMacユーザー以外にも広げるきっかけとなり、さらに2003年にはiTunes Music Store(現iTunes Store)を立ち上げ、そのおかげで今ではアメリカ最大の音楽販売会社になり、映画やテレビ番組の販売でも大きな影響力を持つようになった。

※記事初出時、一部の記述で誤りがありました。おわびして訂正します。

 “iPod以前”は、アップルが優れた工業デザインや最先端技術をつめこんだ製品を作っても「でも、それって(市場シェア3%でほとんど誰も使っていない)Macでしょ」で片付けられ、そのすばらしい仕事が評価されることはなかった。

 しかし、iPodがその流れを変えた。やがてはアップルは世界で最も影響力のある携帯電話メーカーになり、ついには時価総額で世界2位の企業にまで大躍進させることになる(関連記事:「過去最高益とジョブズ氏の不在――Appleのこれから」)。

“iPodの父”が、過去10年を振り返る

 iTunes/iPod誕生から10年目を迎えた今、iPodの生みの親の1人である、米AppleワールドワイドプロダクトマーケティングiPod担当シニア・ディレクターのスタン・イング氏(Stan Ng)に、改めてiPodについて語ってもらった(聞き手:林信行)

―― 今年はiPod誕生からちょうど10年目になるわけですが、この10年をどう振り返られますか?

イング 我々は過去を振り返らず、未来にフォーカスすることをよしとする会社なので、あまり語ることはありません。ただ、iPodについて1つだけ特筆すべきことがあるとすれば、それはこのiPodという製品が常に進化を続けてきた、ということでしょう。

 最初のiPodは、圧倒的な携帯性と、とてつもない大容量を両立した音楽再生専用機として登場し、人々の音楽の持ち歩き方を変えました。その同じiPodが、今ではメールやWeb、Facetimeまでできる最先端のコミュニケーション機器を経て、世界で最もポピュラーな携帯型ゲーム機器にまで進化しました。

 こうした技術とイノベーションの「シフト」こそが、アップルという会社の本分であり、これはiPodを含むアップルの全製品の共通項にもなっています。

―― 今さら聞くのも変な話ですが、10年前にiPodを発表された時、なぜ「iMusic」や「iJukeBox」ではなく「i“Pod”」と名付けたのでしょう(「Pod」とは豆のさやのこと)。やはり、この時から音楽以外の可能性を予見していたのでしょうか。

イング いえ、実を言うと当時は音楽のことだけで手一杯でした(笑)。「iPod」という名前には、何かとても小さくて、それでいて密度が濃くてパワフル、そんな意味が込められていました。残念ながら、それからわずか10年で、この製品が世界でも人気の高い携帯型ゲーム機になるとは、まったく想像していませんでした。

 App Storeに8万本のゲームタイトルが出現したことも含め、そこに至るまでの道筋を振り返っても驚くことばかりです。

―― 2009年から、そのiPodシリーズの主力製品が、音楽再生中心のiPod shuffle、iPod nanoから、iPod touchに移り、2010年に至っては、iPodシリーズの出荷台数の半分以上がiPod touchになっています。現行機種のiPod nanoが、機能を大幅に縮小し、半ば音楽再生専門に回帰したのは、その辺りが理由と考えてよろしいでしょうか。

イング そうですね。現行のiPod shuffleとnanoは、より最高の音楽体験にフォーカスしたうえで、より手頃な価格で楽しめるようにするか、タッチ操作や“音楽を着る”楽しみも提供するのか、そういった違いになっています。

 iPodシリーズの出荷量の50%以上を占めるiPod touchは、非常に幅広い用途に使えるデバイスで、さまざまなユーザーのニーズに応えてくれます。しかし、例えばこれをスポーツジムにまでは持ち込みたくないと考える人もいるでしょう。そうした人たちのために、音楽再生に特化し、より携帯性を増したiPod nanoやshuffleがあるのです。

――前のiPod nanoで、ビデオ撮影の楽しみを知ってしまったユーザーは、次はiPod touchへ移行をしてほしい、ということですね。

イング その通りです。だからこそ我々は、iPod touchにより高精細なHDビデオカメラを搭載したのです。

―― このように用途がシフトしてきたことでユーザー層もシフトしているのでしょうか。例えばゲームが増えたことで、ユーザー層が若くなったとか、ユーザー層そのもののシフトも起きているのでしょうか。

イング そうですね。販売台数のデータを見ると、今や任天堂やソニーと比べても、世界的にみて圧倒的に利用者が多い携帯型ゲーム機になったわけですが、面白いのはそのユーザー層の幅が非常に広いことです。iPod touchは3〜4歳の幼児でも遊ぶことも、逆にかなり年配な方たちが楽しむこともできます。

 その理由はやはり、マルチタッチの操作が非常に直感的で簡単だからではないでしょうか。タイトルごとに、X、Y、A、Bといったボタンに、それぞれどんな機能が割る当てられているのかといったことを暗記する必要もありません。

 使うアプリケーションごとに、その操作に最適化された最も自然で分かりやすい操作環境が用意されており、とりあえず機器に触れて、画面に触ってみたり、本体を振ってみたりと、いろいろ試しながら、その反応をみて操作を習得していくというプロセスが、操作を獲得するうえで非常に自然で分かりやすいのです。

 そして、この簡単さこそがiPhoneとiPadを含むiOS機器を累計1億6000万台出荷するような超人気製品に仕立てた秘密ではないかと思っています。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/14/news189.jpg 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  2. /nl/articles/2411/14/news014.jpg ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. /nl/articles/2411/14/news187.jpg 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  4. /nl/articles/2411/14/news167.jpg 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  5. /nl/articles/2411/13/news176.jpg 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. /nl/articles/2411/15/news009.jpg 高2のとき、留学先のクラスで出会った2人が結婚し…… 米国人夫から日本人妻への「最高すぎる」サプライズが70万再生 「いいね100回くらい押したい」
  7. /nl/articles/2411/15/news058.jpg 「腹筋捩じ切れましたwww」 夫が塗った“ピカチュウの絵”が……? 大爆笑の違和感に「うちの子も同じ事してたw」
  8. /nl/articles/2411/14/news023.jpg “膝まで伸びた草ボーボーの庭”をプロが手入れしたら…… 現れた“まさかの光景”に「誰が想像しただろう」「草刈機の魔法使いだ」と称賛の声
  9. /nl/articles/2208/06/news075.jpg 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. /nl/articles/2411/15/news187.jpg 「2度とライブ来るな」とファン激怒 星街すいせい、“コンサート演出の紙吹雪”が「3万円で売買されてる」 高値転売が物議
先週の総合アクセスTOP10
  1. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  2. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  3. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  4. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
  5. イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
  6. 「この動画お蔵かも」 親子デートの辻希美、“食事中のマナー”に集中砲火で猛省……16歳長女が説教「自分がやられたらどう思うか」
  7. 老けて見える25歳男性を評判の理容師がカットしたら…… 別人級の変身と若返りが3700万再生「ベストオブベストの変貌」「めちゃハンサム」【米】
  8. 「ガチでレア品」 祖父が所持するSuica、ペンギンの向きをよく見ると……? 懐かしくて貴重な1枚に「すげえええ」「鉄道好きなら超欲しい」と興奮の声
  9. 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
  10. 「天才」 グレーとホワイトの毛糸をひたすら編んでいくと…… でっかいあのキャラクター完成に「すごい」「編み図をシェアして」【海外】
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた