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ボクらは「桃鉄」で日本地理を、「信長の野望」や「三国志」で歴史を学んだ東京大学大学院情報学環教授 馬場章氏インタビュー 前編(1/2 ページ)

エンターテインメント以外の目的で作られたゲームは「シリアスゲーム」と呼ばれている。だが、日本でこの概念はあまり根付いていない。そこで「GDC 2005」においてシリアスゲームのセッションを行った東京大学の馬場教授に、シリアスゲームとは何か? 話を聞いた。

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 アメリカではすっかり定着している「シリアスゲーム」というものがある。ネットなどで検索を掛けると「エンターテインメント以外の目的で作られたゲーム」として、良く使われている言葉だ。

 2005年3月に米・サンフランシスコにて行われた「GDC(Game Developers Conference) 2005」でも、シリアスゲームサミットがチュートリアルセッションとして組まれていた。だが、日本でシリアスゲームと言って理解されることは少ない。そもそもエンターテインメント以外の目的で作られたものはゲームと呼べるのだろうか?

 この疑問を解消すべく、シリアスゲームサミットにて、IGDA(国際ゲーム開発者協会)日本コーディネーターの新清士氏、シリアスゲームジャパンコーディネーターの藤本徹氏とともに、日本のシリアスゲームの動向を発表した東京大学大学院情報学環教授の馬場章氏に話を伺った。

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馬場章氏
東京大学大学院情報学環教授。専門はコンテンツ創造科学、歴史情報論、デジタルアーカイブ学。ゲームの面白さの解明を軸にシリアスゲーム研究を提唱するだけでなく、それを構造化したゲーム制作にも取り組む

「GTA」もシリアスゲーム?

ITmedia まずシリアスゲームとは何なのかをお教えください。

馬場章氏(以下、馬場) GDC 2005でも、かなり多くの研究者やゲーム開発者が集まり、特に北米ではシリアスゲームという言葉が定着しているかに見えるんですが、必ずしもシリアスゲームに対する認識が一致しているわけではありません。

 結論から言ってしまうと非常に曖昧な概念。良く使われる説明としては、エンターテインメント以外の目的で作られたゲームをシリアスゲームと呼ぼうという考え方があり、これには教育目的のエデュテインメントや、医療目的のリハビリテインメントといったものが該当します。

 ただ実際には「太鼓の達人」や「桃太郎電鉄」のように、皆にシリアスゲームだと認識されるものはエンターテインメントを目的としていないわけではない。ですからエンターテインメント以外を目的としているのではなく、エンターテインメント以外の効果があるもの。太鼓の達人ならば身体運動ですよね? そういったエンターテインメントに付随して、それ以外の効果を得られるものもシリアスゲームと呼ぼうという動きがあります。

 私としては後者、エンターテインメント+αが期待できるものをシリアスゲームと呼ぼうと考えています。ただ、こうなるとほとんどのゲームがシリアスゲームと呼べてしまう。ですから、シリアスゲームというのは、ゲームのジャンルを分ける考え方ではなく、ゲームに対する見方になるんだと思います。

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太鼓の達人では身体運動が可能。楽しみながら体を動かすというのは理想であるだけに、こういったゲームによるプラスの側面はどんどん世に出てもらいたいものだ

ITmedia そうなると極端な話ですが「Grand Theft Auto」(以下、GTA)のようにバイオレンスなタイトルも「人の命の尊さを学べる」という意味で、シリアスゲームになるのですか?

馬場 いえ、そこには効果の度合いがあると思います。GTAであれば、確かにそういった効果もあるかもしれませんが、逆に働く可能性のほうが大きい。ですから、その効果の度合いを測るべく、今までは何となく教育、医療に使えそうと思われていたものを、実際に現場で使い、客観的に科学的に測定しようという研究を進めています。

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神奈川県の有害図書類に指定されたGTAシリーズ。「なんとなく」から客観的な研究の結果へと変わると、どう判断されるのだろうか

 これまでは“何となく”で済んでいましたが、もうこれは通用しない。というのも、「ゲーム脳」や「ネット中毒」といったゲームに対するマイナスの言説ばかりがどんどん膨らんでいる。こういった現状に対して、プラスの側面や利用の仕方、娯楽以外の効果があるということを、はっきりと科学的に証明することが必要なんです。

ITmedia 科学的に証明するとのことですが、研究というのは具体的にはどういったことを行っているのですか?

馬場 第1歩としては、高校でパイロットテストといった形で進めようと考えています。しかし日本の高校で、研究とは言えゲームをやらせてくれるところはなかなかありません。PCゲームならPCにインストールすれば良いだけですが、家庭用の場合は、メーカーから何十台という機体とソフトを提供してもらわなければならない。オンラインをやろうと思ったらネットワークの問題も出てきます。

 これを一挙にやることは不可能なので、最初は限定的に、条件を満たすところで研究を行うつもりです。2年後くらいにはひとつの結論を出したいと考えていまして、その後は年齢層を変え、ソフトウェアの種類も増やして研究を進めるつもりです。

ITmedia その研究が進んでいくと、日本におけるシリアスゲームの線引きも決定してくるのでしょうか。

馬場 そうですね。ゲームソフトによって、教育的効果が大きい、少ない。教育的な効果はないけれども、別の効果があるといったような感じになると思います。そういう意味では、現在CERO(コンピュータエンターテインメントレーティング機構)が行っているレーティングとは別のレーティングにもなる可能性があるかもしれません。ゲームをするしないを基準にしたレーティングではなく、することを前提にした新しいレーティングです。

 ただCEROとは違い、もっと本質的なゲームに対する評価も与えるつもりです。シリアスゲーム研究のゴールのひとつは、ゲームに対する評価に行き着くと思っています。これは評価に基づいて区分するというのでなく、ゲームそのものをどう捉えるかといった意味での評価ですね。

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CEROとは別の本質的なゲームに対する評価を与える、と述べる馬場氏

ITmedia 新しいレーティング、本質的なゲームの評価ですか、それは興味深いものがあります。研究自体は高校生を対象に進めるとのことですが、他に重視している面などは?

馬場 実は高齢者を重視しています。高齢者にゲームをやっていただいて、楽しいと思うほかに、それ以外の効果も測定してみたいんです。

ITmedia 高齢者にやってもらうゲーム……パッと思いついたのは「もじぴったん」です。

馬場 もじぴったんは良いと思いますよ。実は携帯用ゲームで試したいという考えがありまして、もじぴったんにはPSP版もありますよね。高齢者が大きな家庭用ゲーム機を抱えてプレイするのは抵抗があると思いますし、ゲーム機が小さければ小さいほど、指先の運動も兼ねてゲームをプレイすることができますから。

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PSP版のもじぴったんは、指先の運動だけでなく、「言葉を考える(頭を働かせる)」という効果も期待できるだろう

ゲームで人格形成も可能

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