バンダイの戦略とベックの戦術 〜販社と開発のより良い関係〜:CEDEC 2005リポート
2005年8月29日から31日の3日間、明治学院大学にて開催された「CEDEC 2005」において、バンダイの鵜之澤伸氏とベックの岡本吉弘氏による、次世代ゲーム機戦略を含むセッションが行われた。
バンダイは基本的に30社にも及ぶ外部の製作会社を使い開発を行っている。だからといってバンダイに開発内製チームがないわけではない。それがベックだ。
バンダイ常務取締役 ゲームソフトグループリーダー兼ビデオゲームカンパニープレジデントの鵜之澤 伸氏がビデオゲーム事業部に来た際、バンダイでなくても作れるゲームを作っていたという。バンダイはバンダイでなくては作れないゲームを作るべきと、キャラクターゲームに特化している。だからこそターゲットはおのずと明確化するのだ。アニメありきならば、そのアニメを見るコア層向けに“良質”なタイトルを発売する。
バンダイのビデオゲーム事業部は50人。制作要員はわずか16人、4チーム制という少数で、年間70タイトルをリリースしている。これも前途したように、ベックという100人体制の内製チームと、それぞれの得意分野を活かした外製チームを持つからこそ可能なのだと内情を説明する。
バンダイの鵜之澤伸氏。バンダイビジュアルを経て、2001年ビデオゲーム事業部ゼネラルマネージャーに就任。1996年に例のPIPPINプロジェクトに部長として関わる。鵜之澤氏はPIPPINでの268億円の借金を、昨年度のビデオゲーム売り上げで消化したと明かす。「いざ会社としての借金がなくなると新たに穴を掘りたい気持ちになるのは不思議なもので」と会場を笑わせる
バンダイは少数だからこそ、プロデューサーの定義がほかとは違うのだと鵜之澤氏は続ける。バンダイでは、クリエイターというより“商売人”であれとしている。制作ではなく、製作という意味でのプロデューサー制度を確立している。バンダイに入社した人間は、あくまでも玩具が好きなのであり、ゲームを扱いたいと配属される人間は希有なのだとか。そういう意味でも、せめて商売人でなくてはならないとも言えるのだ。
バンダイも当然ながら次世代ゲーム機へのアプローチをしている。しかし、PS2でもそうだったように、あくまで発売2年後までは現有機と共存するというのが、バンダイの戦略だと語る。開発者はつい新しいものに飛びつきたがるが、バンダイがキャラクターゲームに特化し低年齢層を取り込んでいる現状では、現行機での販売が求められていると説明する。鵜之澤曰く「旧ハードの最後の刈り取りはバンダイの役目」なのだとか。
さて、バンダイの内製チームであるベックだが、「機動戦士ガンダム めぐりあい宇宙」「機動戦士ガンダム ジオニックフロント」「機動戦士ガンダム戦記」などのほか、「機動戦士ガンダム ギレンの野望」シリーズ、「機動戦士ガンダム 外伝」シリーズ、「デジタルモンスター デジタルモンスター」シリーズなどを生み出しており、その組織体系に特徴があるのだと、続けて営業企画部 部長 制作プロデューサーの岡本吉弘氏が登壇する。
ベック営業企画部 部長 制作プロデューサー岡本吉弘氏。ベックでは開発室、CG制作室、サウンド制作室、そしてPS3プロジェクトという部門が営業企画部が統括している。近年では、「交響詩篇エウレカセブン」の企画・開発に携わっている
特筆すべきは、バンダイではゲーム制作におけるプロセスに「評価版」を重視しているとのこと。あまり聞き慣れない評価版とは、ゲームを企画・開発するにあたり、実質の開発が始まる前に、あらかじめそのゲームの特徴を知るために、いわばパイロット版を製作することになっている。その利点は、ゲームの内容を企画書で理解しても、実際目で見たほうがわかりやすいし、取り返しが付かなくなる前に対処できる。そして、その開発元が予算とスケジュールをちゃんと間に合わせることができるかもわかるのだという。
ゲーム自体のスタイル(狙い)がちゃんと確立しているか。それがゲームとして成立しているか(おもしろいか)。精度の高い作業コストやスケジュールの見積ができているか、またそれは適正か。ROMに搭載されていない仕様が明確になっているか。その時の(ゲーム的な)流行を取り入れているか。意志を持った作品であるか、など、例え企画が通ってもこれらの要項に沿って開発元は「評価版」を製作しなくてはならないのだ。
バンダイとベックは切っても切れない蜜月関係と言える。“身内だからこそ”できなくてはならないこともあるのだと結ぶ。バンダイとベックはうまくリレーションが取っていくためには、お互い足りないところを補完しあわなくてはならない。集団合議制がいかに不毛で、企画をダメにするか思い知ったと語る鵜之澤氏は、プロジェクトにおける「事情」や「都合」を排除し、迅速で正確なコストとスケジュールの元、“一瞬で心をつかむ”ものを作らないといけないとのこと。「いい作品は数秒で伝わるもの。瞬間で心をつかまれないものに、いいものなどないんです。CMは大体15秒、長くて30秒の間にそれがなんなのかを伝え、なるほどと思わせているように、ゲームだって瞬時に伝わらないものでないと売れないんです。説明に5分もかかるようなゲームは売れません」と語った。
ベックは営業企画部の下に「PS3 GUNDAM project」という組織を編成している。ベック内部でもっとも技術力が高い「研究開発室」をベースに、ハイクオリティ映像を提供できる「CG開発室」が参画。各開発室から選りすぐりのゲームプログラマとプランナーを加え、最高峰の体制を作り上げている。今年5月に北米ロサンゼルスで開催されたE3で上映された「機動戦士ガンダム」の出展映像や、7月に催されたPSミーティングで場内を驚かせたプレイアブルデモを制作しており、東京ゲームショウ2005でも経過ROMを出展予定とのこと。
現在構成人数は40人ほどだが、近々増員しさらなる開発を進めていくとのこと。バンダイは、そしてベックは独自の“らしい”企画・開発体制を維持し、次世代機の世も生き残りをかけて模索していく。
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