オンラインゲームを作るのも大変――「動き出すオンラインゲームファンドの実態と可能性」
ブロードバンド推進協議会は11月24日、オンラインゲーム専門部会の第7回研究会を開催。オンラインゲーム開発運営に関わるファンドの契約スキームや注意すべき点などについて、パネルディスカッションを行った。
昨今重要視されつつあるオンラインゲームファンドについて11月24日、ブロードバンド推進協議会は「動き出すオンラインゲームファンドの実態と可能性」と題してパネルディスカッションを開催。ガンホー・オンライン・エンタテインメント代表取締役会長の孫泰蔵氏や、TMI総合法律事務所の水戸重之弁護士、そしてMU ハンズオンキャピタル投資事業本部の三好大介氏やモビーダ・インベストメント代表取締役社長の三木信雄氏を招き、投資される側と投資する側からの今後の展望について講演、パネルディスカッションを行った。
冒頭、オンラインゲーム専門部会部会長を務めるIDGA日本代表の新清士氏が挨拶。オンラインゲームへの新規参入企業が増加している現在、これから成長する余地を残す有望な事業であるとの認識を示し、その中でも今後ますます需要が高まるオンラインゲームファンドについての見解を述べた。
オンラインゲームに限らず、ゲーム製作には莫大な資金が必要とされ、特にオンラインゲームについては、パッケージゲームに比べ新規参入が難しく、開発、サービス維持には各メーカーとも頭を悩ましているのが現状とのこと。そこで必要となるのが投資を受けるという単純な資金調達となるわけだが、開発からβテスト、サービス開始後の資金回収と、オンラインゲームは先が計算しづらい投資対象でもある。しかし、昨今のオンラインゲーム市場の成長は目を見張るものがあると、投資家からは熱い視線を送られているのも事実。
こうした背景を踏まえ、7月に開催された第5回研究会では「オンラインゲーム開発・運営における資金調達」と題して、投資や資金調達、ファンド運営に関する講演を行っている。今回はそれに続いての、ファンド中心の話となった。
小難しい話のように思われるが、要は“ゲーム開発には莫大な資金が必要だから、現行法で投資してもらうのにこれだけの方法がありますよ”という内容。だからか、参加者のほとんどはゲームソフトメーカーの方々が大半のようだ。こうして現在の法体制の元では、どのようなファンドの形があるのかを、TMI総合法律事務所の水戸重之弁護士による簡単な説明へと進行する。
ゲーム開発にはお金が必要とはいえ、完成品が目の前にない状態――特にこのようなデジタル・コンテンツへの投資に二の足を踏む投資家も多い。しかし、映画や音楽業界の例を挙げるまでもなく、投資対象として資金の提供と利益の回収は行われている。
政府のコンテンツ事業振興政策からも、今後さらに整備されていくことは分かっており、あとは投資家にとってさまざまなリスクを避ける手だてがなされるかによるのだと言う。“ハイリスク・ローリターン”“産業構造が複雑で未成熟”、“評価・収益予測が困難”という3つのファイナンス障害を克服できれば、開発資金を得る1歩となると明快だ。
現在、ゲーム開発のために融資を受けるとすると、なにかしらを担保にしてのローンや、製作委員会、一番シンプルなファイナンスとも言える任意組合+匿名組合、ファンドマネージャーに純粋に資金を渡し運用してもらう投資事業有限責任組合など多くの方法があると駆け足で例を挙げ、多くの手段はあると水戸弁護士は説明する。時間があまりにもなかったため、一気に割愛しての講演だったが、今後は投資サービス法の構想が重要課題だと締めくくった。
次にガンホー・オンライン・エンタテインメント代表取締役会長の孫泰蔵氏が登壇し、投資を引き出す側の視点から、オンラインゲーム事業の今後を「オンラインゲームビジネス・ブロードバンドビジネスについての孫泰蔵の考え方」と題してわかりやすく説明した。
最近関連会社でファンドを立ち上げた孫泰蔵氏は、ニッポン放送やTBS株買収など一連の動向からも、今後ブロードバンド市場において「メディアビッグバン」が起こるだろうと予見する。
孫泰蔵氏は、ブロードバンド事業の最近の動向を見るにつけて、100年前の自動車産業と似ていると解説。ひとつの産業が盛り上がると、いずれかの地点でバブルが弾け、そしてまた熟成していくとし、現在のブロードバンド産業は一度落ちきったあとの上昇期にあたるのだそうだ
事業にリスクはつきものだが、最初からその事業に投資している企業は、やはり軌道に乗ってからは先行投資者として“強い”のだと、利益回収曲線を提示し独自の考察を展開。思ったほど利益率が上がらない“がっかり段階”と、利益が見込める事業だが、すでに参入するには遅すぎる“手遅れ段階”の2つの時期があるのだと提示。
オンラインゲーム事業は、とかく開発にも継続にも資金がかかりすぎるが、やはり先行投資をしている者には、それ相応の見返りがあるものだと、今後の事業計画をリスク回避の方法とともに説明した。
オンラインゲーム開発に伴うリスク、「そもそもヒットするかどうかわからない」「ヒットするとしてもどれくらいヒットするかわからない」「ヒットさせるためにどれだけプロモーション投資をしたらいいかわからない」「ヒットしたとしてもどれくらい継続するかわからない」という4つを例に出し、その対抗策を参加者に教示した。それが現在自分たちが進めている会社の“事業そのもの”なのだと言う。
さまざまなメディアに個人が裂く時間は減りつつある昨今、インターネットに向き合う時間は格段に延びているという統計からも、今後事業として拡大する余地は十分期待できるとし、ポータルサイトだけではなく、目的地となるコンテンツ事業も充実させていきたいと孫泰蔵氏は抱負を語った。
途中、「ラグナロクオンライン」を例に、採算シミュレーションをぶちかます孫泰蔵氏。初期プロモーションコスト、人件費、設備費用や初期ライセンス費用などのイニシャルで使用した初期投資額が3億1750万円。マーケティングや人件費などランニングにかかった分を月次総売上高2億円から引いた営業利益が6400万円と健全な事業となりえることを立証してみせる
その後、再び登壇した新氏と水戸弁護士のほか、MU ハンズオンキャピタル投資事業本部の三好大介氏やモビーダ・インベストメント代表取締役社長の三木信雄氏とのパネルディスカッション「オンラインゲームファンドの将来展望〜投資家・ゲームディベロッパーに求められるもの〜」へと移行。質疑応答も含め、オンラインゲームファンドの契約スキームや注意すべき点などについて貴重な意見を拝聴できた。
オンラインゲームは開発に着手してから、βテスト、製品版と段階を踏みながらサービスを提供、継続していかなくてはならない。ゲームの中には開発半ばで、そのどこかの段階でふるい落とされ開発中止となるものも多い。それらのリスクの軽減も課題として挙げられた。
今回のオンラインゲーム専門部会が、申し込み受付後即定員となり、追加募集も即締め切りとなるほど注目度が高かったように、ゲーム開発に対する資金難は切実なものがある。オンラインゲームは確かに開発や維持に莫大な資金と人員を使うが、コンシューマーゲームソフト開発も次世代機へと移行するにあたり、尋常ではない負担をメーカー側に強いている。開発にお金と時間と人員を割かれすぎるのだ。こうした現状からも、常にバージョンを上げ、アップデートすることで対処でき、さらに利益を調達できる仕組みが整いつつあるオンラインゲームに注目が集まるのは自然の流れなのかもしれない。
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