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キャラクターの葛藤や苦悩が伝わり、何が本当の正義なのか深く考えさせられる――「Ninety-Nine Nightsのすべて: 次世代キャラクターデザイン」Game Developers Conference 2006(2/2 ページ)

日韓共同で開発された、Xbox 360期待のファンタジーアクション「NINTY-NINE NIGHTS」。発売日である4月20日を目前に控え、開発に携わった水口哲也氏とサンユン・リー氏によって、キャラクターデザインやシナリオ構築の課程など、N3がどのようにできあがっていったのか、その詳細が語られた。

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自分の中で正義と悪が逆転する、その感覚が不思議とおもしろい

N3のプロデューサ、キューエンターテインメントの水口哲也氏

 次に、N3のプロデューサである、キューエンタテインメントの水口哲也氏から、N3のシナリオ面に関する解説が行われた。

 「ゲームとドラマの融合がいかに難しいかお分かりだと思います。この調合を間違うとゲームは壊れてしまいます。N3でもハイデフゲームにおけるドラマの描き方をどうすればいいのか、ずいぶん深く考えてきました」と水口氏。そして、N3では、1つのストーリー、つまり1つのメッセージを持たせるのではなく、プレーヤーにあらゆる視点からプレイさせることで、さまざまな側面からゲームを見られるようにする、という方法を考えついたそうだ。

 戦争をテーマとするゲームを作る場合、そこには2つ以上の“対立”が存在する。その対立の元になるのは、正義、大義といった要素だが、国家間の対立のような内容だった場合では、個人の感情を隠し、その集団ごとに感情を与えるといった手法がとられることがほとんどとなる。しかし水口氏は、N3において、キャラクターそれぞれの人格に基づく感情、例えば家族愛や兄弟愛、エゴ、葛藤などといったものによって、微妙に異なるストーリーが展開されるように考えたそうだ。キャラクターそれぞれに異なるストーリーを持たせることで、基本的には同じ戦争を戦っているにも関わらず、プレイするキャラクターによってその中で起こっている事実が違った印象で見えてくる。そして、それらさまざまなストーリーを体験することで、N3の謎が明らかになっていく、そういう作りになっているのだ。

 実際に、異なるキャラクターでプレイした場合の、同じシーンで流れるムービーの違いが示されたが、双方に登場する同じキャラクターに対する印象は大きく異なっている。これによってプレーヤーは、同じ事象を異なる視点・心理状態でとらえ、それぞれのキャラクターの個性がさらに強く感じられるようになる。また、ゲーム中でキャラクターが決断しなければならない事柄について、プレーヤーに選択がゆだねられる場合がある。これも、キャラクターの葛藤や苦悩をプレーヤーと共有させるという意味合いがあるのだろう。

あるシナリオクリア時に流れるムービーのひとコマ。プレイするキャラクターによって内容が変化し、それぞれのキャラクターの気持ちが伝わってくるように工夫されている

 ちなみに、N3には7人のプレーヤーキャラクターが用意されており、それぞれ微妙に異なるストーリーが展開されるが、実はN3はそれだけにとどまらない。最終的には、敵であるゴブリンでもプレイできるようにもなる。これこそN3の最大の特徴と言ってもいい部分だろう。本来味方である人間側の立場だけでなく、敵であるゴブリン側の立場でもプレイすることによって、プレーヤーは正反対の感情を抱くことになる。

 「敵と味方を逆転させてプレイすることが本当におもしろいのか、非常に不安でした。」と水口氏。しかし、ゴブリン側のプレイ開始時に、ゴブリン側の感情が如実に伝わってくるムービーが用意されており、それを見ると自分の中で正義と悪が逆転してしまう。先ほどまで操作していた人間のキャラクター達を、敵であるゴブリンになってなぎ倒していく。しかし、そこではゴブリン側に感情移入しているため、非常に快感に思える。水口氏自身、そのことに不思議な印象を受け、とてもおもしろく感じたそうだ。そして、これこそが水口氏の真の狙いではないだろうか。

 2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ。それ以降、戦争やテロなど、さまざまな事件が発生しているが、水口氏はそれら戦争やテロの報道を見つつ、不安を感じるとともに、正義とはいったい何なのか、なぜ人間は戦うのか、と真剣に考えることがあったそうだ。戦争やテロの報道は、その内容が国やメディアによってまったく異なっている。そういった映像を見つつ、双方の立場でさまざまなことを考えさせられた経験が、N3の特徴的な内容を作り出す原動力となったのだろう。そして、N3をプレイすれば、水口氏が何を考え、プレーヤーに何を伝えたかったのか、はっきりと見えてくるはずだ。

まだやっていたい気持ちと、やっと終えたという充足感が半々

 今回のセッションに先立つ3月21日(現地時間)、サンフランシスコの「Supper Club」において、Microsoft主催のパーティ「Xbox 360 San Francisco Showcase Event」が開催され、その会場に特別ゲストとして水口氏が招かれた。そこで、水口氏を直撃し、発売を目前に控えたN3についての感想をうかがった。


―― N3を作り終えての感想をお聞かせください。

水口 どのタイトルもそうですが、毎回作り終えるともうちょっとやりたいところがあるもので、N3にももちろんそういった部分はあります、しかし、その中でもやりきった感はあります。今は、まだやっていたい気持ちと、作り終えた充足感とが半分半分ですね。

―― 今回、韓国のファンタグラムと共同開発ということでしたが?

水口 最初はどうなるかと思っていました。しかし、ファンタグラムのスタッフは皆プロフェッショナルで、仕事をする上でストレスはほとんどありませんでした。双方がいいものを作ろうという気持ちを持っていて、短い期間でいいものが作れたと思っています。

―― Xbox 360という新ハードに挑戦した感想はいかがですか?

水口 Xbox 360はまったく新しいハードです。そういう新しいものにチャレンジするときは常にわくわくします。それは、Xbox 360に限ったことではないのですが、Xbox 360は他のゲーム機とパワーが格段に違うので、新しいテクノロジーから来るインスピレーションはすごいです。とにかく、一番最初の段階で参加できたのは幸せなことでした。

―― これまでたくさんのタイトルを作ってこられましたが、それらと比較してN3はどういった印象ですか?

水口 N3は戦争がテーマとなっています。これは、とても勇気がいるテーマですので、それを作ったということは思い入れも非常に強いです。もちろん、作るからにはただの戦争ゲームにしたくはありませんし。また、アクターへの演技指導であったり、声優への演技指導であったり、サウンドも細かく指示出したり、プロデューサーが普段やらないようなこともさせてもらいましたから、そう言う意味でも思い入れが強いですね。

―― ファンタグラムとの共同開発という点はどうでしたか?

水口 ゲームの内容についてはファンタグラムを信用していましたし、信頼関係もありましたので、最初のコンセプトを詰めてしまったらあとはほとんどお任せといった具合で、とてもやりやすいプロジェクトでした。こういう形のプロジェクトはまたやりたいですね。

―― では、次にどういったものを作りたいですか?

水口 次のことは、もうすでに考えています。でもまだそれは内緒です。今はとにかく休みたいですね。

―― どうもありがとうございました。



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