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ニンテンドーDSのWi-Fiコネクションは、軽々と障壁を飛び越えるGame Developers Conference 2006(2/3 ページ)

現地時間の24日、米国サンノゼで開催されたGDC 2006において、任天堂の大原貴夫氏によるセッション「The Zen of Wi-Fi: A Postmortem of the Wireless Features of Nintendo DS」と題して、Wi-Fiコネクションの目指すものと事後分析を行った。

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「カンタン」を実現するためにしたことは?

 その答えが「Wi-Fi USBコネクタ」である。2004年秋頃の統計では、ブロードバンドの世帯普及率は北米で約29%、日本で約37%とそれなりに普及していたが、そのうち無線LANの使用率は北米で約30%、日本で約24%に留まり、全世界で北米9%、日本約11%と少ない。もし、自宅に無線LAN環境のない人が、ニンテンドーDSでネットワークにつなげようとすると、市販のルーターを購入し、難しい設定を行わなくてはならない。

 ところが一般の無線LANルーターを購入するとなると、複雑怪奇な文言や専門用語が並んでおり、そこでユーザーはまずつまづく恐れが出てくる。最初の設定を例えクリアしてもまだ油断できない。DNSやDHCP、IPアドレスなどといった普段聞き慣れない言葉と格闘しなくてはならないためだ。ニンテンドーDSは無線LANでの接続になるので、さらにSSIDやらウェップキーなど、特有の設定をしなくてはならなくなり、お手上げと思う方も多いはず。多少興味があれば別だが、これは前途した“障壁”のなにものでもない。そこで専門知識がなくとも、簡単にできるだけ安価に無線LAN環境を構築できるものが必要と、Wi-Fi USB コネクタの開発に取り組んだ。

 Wi-Fi USB コネクタはPCのUSBポートに差し込んで、専用のCD-Rを読み込み、画面に従って登録すればいいだけにとした。難しい単語はそこで極力排除。しかも分岐がないよう設計された。これが“カンタン”を追求するひとつの答えというわけだ。

 さらにユーザー登録は誰もが面倒と思うとの観点から、IDやパスワードの排除を目指す。ちょっとだけ遊んでみたいと思っても、IDやパスワードの登録を要求されて面倒だからまた今度にしよう、とブレーキがかかることがある。いざ登録しようとしても、自分がつけたい好みのIDやパスワードは、すでに誰かが取得済みで使えないという状況も多い。それゆえニンテンドーDSでは、Wi-FiコネクションIDという16ケタのIDを、本体側で自動生成し、ネットワーク上での識別に使用するようにした。ユーザーは一切それらを意識しないようにしたわけだ。これに関連して、オンライン上で使用できるニックネームなど、オンライン上で決めたひとつのものを使うのではなく、ゲームごとで自由に使用できるようにした。

 自宅に無線LAN環境がないユーザーのための体験用アクセスポイントとして、ニンテンドーDSからであれば一切のネットワーク設定をすることなく、無料でWi-Fiコネクションが利用できる無線LANアクセスポイントを世界中に設置。アメリカならばマクドナルド約6700件に設置されているWayportからや、日本でも約1000のゲームソフト販売店にWi-Fiステーションという名前でサービスを提供。カナダでも約450カ所、欧州でもイギリスで約1万カ所、ドイツで5500カ所と各地から接続が可能になっている(ただし欧州からの接続には特殊な設定を要する)。

「あんしん」を実現するためのアプローチ

 ニンテンドーWi-Fiコネクションの最初のプロジェクト名は「House Party」だったと大原氏は明かす。自宅などでパーティーを開いた際、そこに招待されるのは自分の友人であったり、友人の知人であったりと、見ず知らずの人であっても必ず誰かを仲介しており、仲介者から紹介してもらい友達の輪を広げていくというイメージがあったからと大原氏は明かす。広がる友人関係、そして家庭的で温かい雰囲気をイメージからつけた名前だったのだが、ネイティブスピーカーに聞くと、タッパウェアーの訪問販売と誤解されるとのことでプロジェクト名は使えなくなった。これは任天堂代表取締役社長・岩田聡氏の基調講演でも明かされ、笑いを誘っていた。


 名前は使わなくなったとはいえ、この「House Party」のイメージは、Wi-Fiコネクションのひとつのコンセプト“あんしん”へのアプローチとなった。そこで2つの問題点を挙げる。

 従来型のオンラインゲームでは、ネットワーク上のロビーにおいて見ず知らずの人の中から対戦相手を見つけ、対戦するというものが多かった。世界中の見ず知らずの人と競争できる仕組みは、ゲームの腕前に自信があり、かつ見知らぬ人とのコミュニケーションに慣れている人であればすごく魅力的に感じられるだろう。だが、大原氏は「ではなぜ従来型のオンラインゲームに、もっと多くの人が参加していないのか?」という疑問にぶち当たる。それには心理的障壁を抱えているから参加できなかった可能性があると推測した。事実、腕前もコミュニケーションもそれほど必要としないカジュアルゲームには多くの人が参加しているではないかと。

 オンラインゲームに参加していない人であっても、目の前の人との対戦は行っている。友人が集まり1台のゲームを遊ぶ様はまさにそれにあたる。ニンテンドーDSにワイヤレス機能が標準で装備されたことで、交友範囲は広がり、利用者が広がると考えていた。面と向かって通信した相手が、自動的にフレンドとして登録。特別な意識をすることなくシームレスに離れた場所でもWi-Fi経由で遊べる。最初知らない人でも友達を介して紹介してもらい仲良くなれば、それこそ当初掲げた「House Party」そのものではないかと大原氏。

 ニンテンドーDSでは面と向かって直接通信することでフレンドとして登録。そうして登録した友人とは離れていてもネットワークを経由して通信できるようになる仕組みを用意している。しかし、友人であっても面と向かってフレンド登録ができない場合もあるのではないか。もう1つの問題点である。こうしてニンテンドーDSには、なかなか会えなく環境のことも考えた、互いのフレンドコードを教えあい入力さえすれば遠く離れていても遊べるような仕組みが実装された。

 大原氏は、これらの仕組みを各々のゲームでどう使うかは、そのゲームのプレーヤー同士のコミュニケーションの仕方で使い分ける必要があると「おいでよ どうぶつの森」と「マリオカートDS」を使って説明する。

 日本では今週末に累計248万本出荷を記録した「おいでよ どうぶつの森」は、Wi-Fiコネクションの掲げるテーマのひとつである“あんしん”を代表したタイトルである。これは同じくGDC 2006で行われた江口勝也氏のセッションでも紹介されたこと。「おいでよ どうぶつの森」では自分の理想とする村での満足度を高めるために、木を植えたり花を育てたりとフィールドを自由に変更できる。本作はフレンド登録してある友人を、互いに自分の村に招待できる「おでかけ」が可能となっているのだが、この際大事に育てた樹木を友人が伐採したり、花を引き抜いても、制止することもできるし場合にもよるが冗談で済ませることもできるだろう。荒らされた方は文句も言える。しかし、これが見ず知らずの人がやったとすると、なかなか言いづらかったり、恐怖すら感じる場合もある。

 このゲームは遊びに来る人の性質によっては、自分の村に破壊的影響を及ぼすかもしれない要素をはらんでいた。だからこういうゲームでは、現実世界で知っている人間に限定することで“あんしん”を実現している。とはいえ、実際はインターネット上でフレンドコードを交換し、会ったことのない相手と通信する例もある。しかし、これはあくまでも自己責任とユーザーは理解してくれていると説明する。

 一方「マリオカートDS」は、必ずしも知っている人でなくとも対戦することができるもの。腕試しをしたいと思う場合は、フレンドコードの登録など必要とせず、いつでも誰とでも対戦できるように設定している。とはいえ、見ず知らずの人に言葉で傷つけられる場合もあるということで、チャット機能は排除した。また、初心者が楽しめるよう、腕前の格差を埋める仕組み(レベルの近い人との対戦を優先する仕組み、順位の低いプレーヤーには優位アイテムが出現するよう実装)が施されている。

 プレーヤーが望めば見ず知らずの人との後腐れのない対戦が楽しめる。あくまでもユーザーに選択権を委ねた形と言える。

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