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インタビュー

「大神」はアートじゃない。すごく間口の広い、質の高いアクションアドベンチャーなんです「大神」発売記念インタビュー(2/3 ページ)

世界に命と緑を取り戻すために冒険を繰り広げるネイチャーアドベンチャー「大神」。その独特なグラフィックや、どこかで見たことのある登場キャラクターなど、見どころの多い本作について、クローバースタジオのキーマン2人に話を聞くことができた。

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最初は本当に何もなかった

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―― 最初の発表会(2004年4月に行われたクローバースタジオ設立の発表会)で流された映像を見た限りでは、かなり作り込まれていると感じましたが、本当は何も決まっていなかったと?

神谷 あの映像を見たんですね。あの時のプロモーションビデオは全部でっち上げなんです(笑)。

稲葉 煽るだけ煽ったみたいな感じでしたね(笑)。

神谷 会話シーンもあったんですけど、あれは編集で後からのせたもので。実際のゲーム上で出ている会話じゃなかったんですよ。

―― しかし、それが実現したということですよね?

神谷 結果的にはそうなりました。プロモーションビデオで表現したものがAとするならば、できあがった大神もAになっています。ただ、そこに一直線に向かったかというとそうではなく、グネグネした道、しかも途中で戻ったりしながらたどり着いたという感じなんです。そこには大きな苦しみもありました。

―― その苦しみというのは、具体的にどのようなものだったんですか? 2人とも立場は違いますよね? 今だから言える、自分はここに苦労していた、みないなものがあれば聞かせてください。

神谷 先ほども言ったように、現場レベルでは、やっていけばうまく行くだろうという気持ちで進めていました。が、一向に良い具合にならなかった。作るものが決まっていれば、作業量が多くて大変とかありますけど、そういうのは苦しみじゃなくて単に大変なだけ。苦しみというのは何から手をつけていいのか分からない、手をつけて何かを生みだそうにも出てこない、その中で脳が筋肉痛になるくらい悩み続けましたね。
 もうひとつは、クローバースタジオの1発目なので、ユーザーからも自然と高いレベルのものが求められるでしょうし、そこに対するプレッシャーもありました。いい加減なものを作るつもりはない、でもなかなかいいものが出てこない。のたうち回っているというか、やっぱり苦しかったです。

―― 新しいものを生み出そうとする時の壁でしょうか。

神谷 そうですね。最初は本当に何もなかったので、タイムマシンがあったら大神の発売日に行って、商品を買ってきたいくらいでした。僕がこれまでかかわってきたタイトルは短いスパンで遊ぶものや、1本道で進んでいくものが多かったんです。ただ、大神はフリーのフィールドがあって、自由に動き回ることができる。器がでかくて遊びの幅も広い、そういうゲームを作ろうと最初に打ち立てたんですけど、この手のジャンルはやったことがなかった。そこに対する苦労はありましたね。

―― 現場での苦労が出ましたが、稲葉さんはどうでしょう? プロデューサーとして何か苦労したことは?

稲葉 プレッシャーを与えて、現場に苦労をさせているのは僕ですから。アイディアは出ないと言っているのに“何してるんだ”と言う。もちろん何も努力していないわけじゃないのは分かってますけど、それでも何してるんだと追い込む。スタッフのみんなには相当ひどいことをしたと思う1年ちょっと、という感じですね。

―― そこにはクローバースタジオの第1弾がなかなか出ないという、稲葉さん自身のプレッシャーもありましたか?

稲葉 それももちろんありますけど、僕自身も妥協したくないと理想を高く持っていたからだと思います。制作期間が長いと言われますけど、例えば「筆しらべがない大神」とかであれば、妥協してゴーを出すこともできた。スタッフのみんなも文句を言いつつ、そこに向かって作ってくれたと思います。ただ、当時はそんなこと考えなかったですね。クローバースタジオの1発目ということで、プレッシャー以上に自分の気合いや思い入れ、かける力や情熱など、いつもとは全然違っていましたし。その分、スタッフのみんなにはかなりのプレッシャーを与えてしまったと思いますけど……。

―― それはプレッシャーを与えたほうが良いものが生まれるという確信があったからですか?

稲葉 追い込んだほうがいい時もあれば、そうじゃない時もありますから。ただ、デジャビュみたいなものはありましたよ。大神の前はビューティフル ジョーを作ってましたけど、同じようなことをやっていたので、分かるんですよ。この先こういう感じでしんどい月日が流れるんだろうなって。ビューティフル ジョーの時も、絵が決まっていて後は何も決まっていなかった。また、これかって(笑)。加えてゲームの規模が段違いですから、その分だけの苦労が大きくなるのは簡単に想像できました。仕方がないというか、どこかで腹をくくっていたんでしょうね。

―― 先ほど稲葉さんが「筆しらべのない大神」と言いましたが、それが想像できないほど、大神の根幹を担うゲームシステムです。こちらはどうやって生まれたのでしょうか?

神谷 ゲームのコンセプトとして“大自然を描きたい”というのがあったんですけど、そこに対してデザイナーのほうから、“自然を描くのはいいけど、ただ描いても華がない”と言われたんです。きれいな自然はいいけど、ゲームとしてのケレン味がないというか、何かダイナミックな遊びにつながるようなものが欲しいという指摘がありました。
 そこで考えたのが、単にきれいな自然を用意して出すよりも、最初は荒廃した土地があり、アマテラスが持つ特別な力でプレーヤーが自然を生み出していく、というものだったんです。生み出される自然が爆発的に広がっていくという点で、映像のダイナミズムを生み出したらどうかと考えました。
 次に、自然を生み出すことをどのようにしてゲーム的な面白さと絡めるか? それをミーティングで話していたんですが、僕は木を作ったり、川を作ったりといった感じで、自然を生み出すというところにこだわり過ぎていて、どうしてもそこから思考が進まなかったんです。そんな時にデザイナーの1人から“森羅万象すべてを操れるからこそ神さまなんじゃないか”という意見が飛び出した。
 この話を聞いた時にピンと来たというか、絵のタッチはアナログ的な、人が描いたような日本画でしたから、その絵に直接プレーヤーが筆で絵を加えることで(ゲーム内での)現実のものにする。それこそ神がかった力なんじゃないか、とガチッとはまったんです。筆しらべができて、ようやく大神というゲームに芯が1本通りましたね。それまでは漠然としていた“ゲームとしての大神”が、筆しらべができたことでようやく形になったんです。

photophotophoto 風を操り自在に舞い踊らせる筆しらべ「疾風」。画面は疾風の風で巨大な掛け軸を吹き上がらせ、巨大掛け軸を足場にしたところ

―― ドラマチックな展開はなく、現実的な苦労があって生まれたアイディアだったと。

神谷 そうですね。道を歩いていて、子どもが落書きしているのを見て“ハッ! これだっ!”と思いついたとか、そんな秘話はないですよ(笑)。映画化できそうなドラマはまったくないです。ただ、ドラマチックという意味では、稲葉にめちゃくちゃ怒られたことがありますね。大神チームのみんながフロアに集められて怒られた。これはさすがに何か生み出さなきゃいけないな、という危機感は生まれましたよ。

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