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文庫本感覚で楽しめる“ひと癖もふた癖もあるオムニバス小説”「かまいたちの夜2 特別篇」レビュー(1/2 ページ)

サウンドノベルの中では最大のヒットを記録した「かまいたちの夜」。その第2弾がPSPに移植された。ゴロゴロ寝ながらでも気軽にプレイできるPSPと多彩なシナリオで楽しませるサウンドノベル、相性はかなりいいと思う。

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最強のサウンドノベルの続編

 「かまいたちの夜」は、「弟切草」に続くチュンソフトのサウンドノベル第2弾として1994年にスーパーファミコンで発売された。弟切草はカップルが不気味な洋館に迷い込むホラーだったのに対し、かまいたちの夜は雪山のペンションで殺人事件が発生するミステリーだ。

 筆者が当時驚いたのは、現役のミステリー作家、我孫子武丸氏がシナリオを担当したこと。小説の世界で活躍している作家がゲームのシナリオを書くなんて、こんなぜいたくな話はない! と思ったのを覚えている。我孫子氏は2年近くゲームのシナリオに入れ込み、その間、小説の仕事はほぼできなかったそうだ。

 こうして完成した、かまいたちの夜はまさにバリバリの本格ミステリーだった。しかも小説と違って、早く解ければそれだけ被害者が減る。逆にダメなら次々と犠牲者が増え、最後にはペンションに死体がゴロゴロ……。事件を解決するための選択肢が、トリックを見破った人でないと分からない仕掛けになっているのもうまかった。漫然と事件を追っていては、いつまでたってもペンションの人々は救われない。

 かくいう筆者も一向に謎が解けず、皆殺しパートに何度も入った。どれだけスキーのストックで突き刺されて死んだことか……。

 弟切草と同じくやり込むとしおりの色がピンクや金に変わり、多彩な隠しシナリオが出現するのも面白かった。実はスパイだったペンションの客が華麗なアクションを繰り広げる「スパイ編」、爆発の一発ネタ「釜井達の夜編」など、この辺のパロディが惨劇で緊張しっぱなしの心をほぐしてくれた。結局、かまいたちの夜は大ヒットし、スーパーファミコン版とプレイステーション版を合わせて累計100万本以上を売り上げ、サウンドノベルとしては最大のヒットを記録している。

photo かまいたちの夜2の作中に、かまいたちの夜の話題が登場。あの惨劇はゲームの中の話ということになっている

 かまいたちの夜の続編として、2003年にプレイステーション 2(以下、PS2)で登場したのが「かまいたちの夜2 監獄島のわらべ唄」だ。こちらでは我孫子氏がサブシナリオと脚本監修に回り、新たに2人の作家がメインを張っている。簡単に紹介すると、

田中啓文:1962年、大阪府出身。1993年「凶の剣士」で第2回集英社ファンタジーロマン大賞佳作を受賞。代表作の伝奇ホラー「水霊 ミズチ」はこのほど井川遥主演で映画化された。ほかに「蹴りたい田中」、「銀河帝国の弘法も筆の誤り」など。ユーモラスな駄洒落の語りとディープな伝奇テイストが読者を引きつける。

牧野修:1958年、大阪府出身。1999年「スイート・リトル・ベイビー」で第6回日本ホラー大賞長編賞佳作を受賞。ほかに「だからドロシー帰っておいで」、「アロマパラノイド―偏執の芳香」など。SFから出発し、主にホラー畑で活躍する作家。独自の言語感覚に優れ、妄想描写が巧みな作風から“電波系ホラー”と呼ばれることもある。

 この2人の代表作を読んでもらえば分かるが、かまいたちの夜2はミステリーというよりも伝奇ホラーの色が強い。もちろんメインの「わらべ唄篇」は、謎解きもあるのだが、我孫子氏が得意とする本格派のイメージで遊ぶと少々拍子抜けするかもしれない。ミステリー部分に期待するよりは、同じ登場人物と同じ舞台という制約の中、どう話が転がっていくのかを楽しむ実験場としてのゲームを満喫してほしい。時に恐ろしく、時にグロテスク、時に爆笑、時に電波……次はどんなテイストになるのか? 楽しみは尽きない。

 また、サウンドノベルではおなじみの、エンディングリストのコンプリートも夢中になる。エンディングの数は105種類もあるのだ。フローチャート機能があり、既読の個所なら自由にジャンプできるので快適だ。すべてを埋めたあとにもまだ謎は残る。これこそが作者の仕掛けたミステリーかもしれない。

photo 画面サイズは16:9と4:3、どちらにも変更可能になった。PSPの液晶画面は字が読みやすく、サウンドノベルと相性がいい
photo 今回の舞台は三日月の形をした島・三日月島。島に伝わる不気味なわらべ唄が、次々と死をもたらす
photo 明治時代の富豪・岸猿家が建てた三日月館。7メートルほどの高い壁に囲まれた薄暗い建物で、かつては私設監獄だった

PSP版にはこんなオマケ要素も

 さて、今回紹介するのはかまいたち2のPSP移植版「かまいたちの夜2 特別篇」だ。ゲーム内容的には、PS2のおまけシナリオ「ラブテスター篇」がない以外は、基本的にほとんど同じ。ただし、テレビの画面とは違い、まるで文庫本感覚で楽しめるのがPSPならではの良さだ。ゴロゴロ寝ながらでもプレイできて、インドア派の筆者にもありがたい。サウンドノベルとPSP、相性はかなりいいと思う。

 PSP版のおまけ要素としては、サウンドドラマ「ちょっとHなかまいたちの夜2」が収録されている。これは、初代かまいたちの夜で、ピンクのしおりに到達したプレーヤーがキャンペーンに応募するともらえたドラマCD「ちょっとHなかまいたちの夜」の続編だ。

 ――孤島に建つ三日月館にやってきた主人公の透たち。扉を開けたその先は……。
 「お帰りなさいませ、ご主人様!」
 なんと可愛いメイド2人がお出迎え! メイドに部屋へ案内された透を待ち受けるのは、あんなことやこんなことだった!?

photo かまいたちの夜2に加え、初代の音楽も収録。あの名曲「Introduction」、「かまいたちの夜」なども聞ける

 このあとかなりHな展開があるかも!? お楽しみに! このドラマは新しく追加されたモード、サウンドプレーヤーで聞くことができる。PSP版で追加されたサウンドプレーヤーはゲーム中の音楽を自由に聞ける、音楽ファンにはうれしいモードだろう。

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