人という字は支え合ってできています――絆が大切な学園ジュブナイルRPG:「ペルソナ3」レビュー(2/2 ページ)
シリーズの核となる部分を継承しながらも、それ以外の部分を一新させた新生ペルソナ。多くの人間との出会いが個性的なエピソードを展開させる学園生活と、真夜中の影時間を舞台としたバトル。表裏一体の光と影を魅力的に描き出した会心作だ。
「コミュ」が表すあなたの学園生活
影時間にはタルタロスでの冒険を行う主人公たちだが、影時間以外の24時間に関しては、普通の人間と変わらない生活を送っている。学校へ行って勉強したり、友だちとしゃべったり、部活に精を出したり……そんな日常の生活を楽しむのも、このゲームの面白さのひとつ。いや、むしろこっちのほうが「ペルソナ3」を楽しむ上では重要とさえいえる。
なぜなら、タルタロス探索は、どのプレーヤーもやることがさほど変わらないのに対し、日常の楽しみ方はそれぞれ千差万別。自分だけの学園生活を演出していくことができるからだ。各種部活や生徒会活動に力を注ぐ、定期テストで学年トップを目指す、特定の女の子と親密になる、男同士の友情を深めるなど、できることはいろいろある。もちろん、そうした要素をまんべんなくこなしていくことも可能だ。ただ、自分の好みに従って、意図的に偏りのあるプレイをしたほうが面白いと思う。例えば、運動部では幽霊部員でほとんど顔も出さない一方、文化部のほうの活動日には必ず参加するとか、男からの遊びの誘いは断りまくるかわりに、女の子とは広く深くつきあってみるとか……。
本作には、その指針となるようなシステムがバッチリ搭載されている。それが「コミュ」だ。コミュはコミュニティの略で、コミュニティとは「共同体」……一定の仲間意識を共有した集団を指す言葉だ。プレーヤーは、学園生活を通じてさまざまな人物や集団と出会い、それらとの関係を深めることで、このコミュを手に入れることができるのである。
例えば、ペルソナ使いの仲間である特別課外活動部もコミュのひとつだし、ほかにもクラスメイトや各部活動、顔も知らないネットゲーム仲間なんてものまである。コミュには1〜10までのレベルがあり、主人公がそれらコミュと関わりを持ち、絆を深めるごとにレベルが増していく。しかも、コミュにはそれぞれ連続したエピソードによるストーリーが用意されており、これがまたどれも個性的で楽しい。笑えるもの、感動できるもの、ちょっと悲しいものなど、どのコミュのストーリーも、最後まで見てみたいと思わせてくれるものばかりだ。
しかし、プレーヤーがコミュのために費やせる機会は、基本的に1日に1度だけ。ゲーム内の時間は1年間なので、すべてのコミュのイベントを見るには、1〜2日に1レベル、なんらかのコミュのレベルを上げていかなければならない。各コミュと関われる日には曜日などの制限があり、メインストーリーに関わるイベントや学校の行事などで、その機会が潰れることもある。また、発生させたコミュを長く放っておくと関係にヒビが入ることも。人間関係を広げすぎるのも考えものということだろう。さらに、主人公の「基本能力値」を上げるための行動にも、コミュに使うのと同じ時間が使用されるため、さらにそのあたりのやりくりは複雑になる。
基本能力値は戦闘に使うものではなく(戦闘に使うのはペルソナの能力値)、「学力」、「魅力」、「勇気」という、学園生活に影響を及ぼすものになる。具体的にこれらが何に使われるかというと、実はこれもコミュだったりする。コミュの中には、これらの能力値が一定以上ないと関係を結べないものがあるのだ。そのため、どの時期にどの能力値を高めておくかということも、コミュを計画的に発生・レベルアップさせたい場合には考えなくてはいけない要素となっている。
人と人との絆が、戦うための力に変わる
さて、学園生活を演出してくれるコミュについて書いてきたが、実はこのコミュ、タルタロスでの戦いにも密接に関係している。「ペルソナ合体」を行った際に、コミュのレベルに応じた経験値が、合体後のペルソナに与えられるのだ。
ペルソナ合体というのは、手に入れたペルソナ同士を材料として、より強力な別のペルソナを作るというもので、シリーズの核となっているシステムのひとつ。戦いの要である主人公を強化していくためには、レベルを上げるだけでなく、強いペルソナを作り、与えていく必要があるのだ。
コミュによる経験値ボーナスは、そのペルソナをさらに強化してくれるありがたいもの。ペルソナは使用するごとに経験値が入り、成長させることができるが、コミュによるボーナスは、たとえコミュレベルが1であっても、数十回の戦闘に相当する経験値となる。さらに言えば、コミュレベルが高い場合は一気に何回もレベルアップするため、強力なスキルが新たに追加されることも多く、大幅な戦力アップを果たすことも可能だ。
ちなみに各コミュには、それぞれ対応するタロットのイメージがあり、これは、ペルソナのカテゴリーと符合している。つまり、「愚者」のカードがイメージとなっているコミュのレベルは、「愚者」のカテゴリーに含まれるペルソナへのボーナスになるということだ。そのため、多くのコミュレベルをまんべんなく上げることができれば、さまざまなペルソナが全体的に少しずつ強くなるし、特定のコミュレベルを集中的に上げれば、そのカテゴリーに属するペルソナだけが恐ろしく強化されることになる。その辺のバランスは、プレーヤーの好みや戦略によって変わってくるところだろう。
満月の日は何かが起こる
通常の時間では学園生活を送り、影時間ではシャドウとの戦いを行う。そして、双方を結ぶコミュの存在。これが本作の基本構造となっている。これに加え、本作には月に1度、満月の日の影時間に発生する、強力なシャドウとの戦いが用意されている。これは通常のRPGにおける、いわゆるボス戦に相当するものと考えると良いだろう。
満月の日の戦闘はタルタロスの外で行われるため、普段生活している街の一角が戦いの場となり、ここでは象徴化した人間の姿なども目にすることができる。影時間の奇妙さを、改めて感じることのできるイベントだ。そして、本作のメインストーリーは、満月の日の戦いをつなぐことで展開していく。普通のRPGのように、ダンジョンなどを先へ進む(空間を進む)ことで、そうしたイベントが発生するのではなく、特定の日時がおとずれる(時間が進む)ことで進行していくというのも、「ペルソナ3」の特徴だろう。
誰もが素直に楽しめる
本作をひと言で表すなら“個性的なRPG”となる。もちろん、個性的と言われるRPGは世の中にたくさんあるのだが、それらの多くがアレンジとして個性的なのであるのに対し、「ペルソナ3」は根底から個性的な作品だ。これはやはり「真・女神転生」シリーズという異端の流れの中から、さらに独自の進化を遂げたシリーズであるがゆえだろう。
個人的に驚いたのは、本作の入り込みやすさ、遊びやすさだった。しかも、あくまで“遊びやすい”のであって、“分かりやすい”のではないところもポイントだ。「真・女神転生」シリーズの派生らしい変なこだわりやとんがった部分は、テイストとしてちゃんと残っている。これまでのシリーズ作品が好きで遊んできた人も、それらを敬遠してきた人も、たぶん両方が楽しめて、さらに新しい感動を味わえるゲームになっているのではないだろうか。
ペルソナ3 | |
対応機種 | プレイステーション 2 |
メーカー | アトラス |
ジャンル | 学園ジュブナイルRPG |
発売日 | 発売中 |
価格 | 7140円(税込) |
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