「BLOOD+」×「One Night Kiss」――藤咲淳一×須田剛一(6/6 ページ)
バンダイナムコゲームスから8月31日に発売される「BLOOD+ One Night Kiss」。この制作を担当したグラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏と、TVアニメ「BLOOD+」の監督であるProduction I.Gの藤咲淳一氏の対談をお届けしよう。
――須田さんにとっても、原作があるゲームを作るときには苦労された部分もあると思うんですが、原作ものをゲーム化するときの目標ってありますか?
須田 今回はアニメと同時進行でしたので、いろいろなものが変化していきました。わたしにとっては毎週のTV放送が教科書なんですね。そこで気づくこともありましたし。そのライブ感はおもしろかったですね。ただ、お互い忙しいとは思いますが、どこかで会って意見を交換して作っていくことができれば、よりおもしろいことができるような気がします。本来、ゲームとアニメって相性がいいはずなんで。1年間のアニメだとできるんじゃないでしょうか。半年とか、1クールでの放送だと無理があるかもしれませんが。
藤咲 ゲーム自体を作るのにも最低1年はかかりますからね。スタートから同時に開始すれば間に合うでしょうね。
――どのあたりに相性の良さを感じますか?
須田 ゲームではアニメでも流せますし、ポリゴンという表現もありますし、ゲームにはどのような表現も乗っかるんですね。わたしの場合は、自分たちでシナリオを書いているというのもありますし、アニメも当然シナリオありき、ですし。相性がいいと思いますね。
藤咲 アニメとゲームの違いが唯一あるとしたら、アニメの場合は内容を決めてからコンテを作りますけど、それは設計図で、ほとんど変更されないですね。ただしゲームの場合はそこからさらにプログラムが必要になりますので、その段階で無理が生じる場合もあって、変わったりすることもあります。そこがゲームのおもしろさでもあるんですけど。代案をその場で考えなければならないという。そういう意味ではライブ感はゲームの方がありますね。ゲームとアニメの、一番の違いはそこでしょうね。
ゲームの場合は彫刻と一緒ですよね。削りながら考えていく。アニメは逆に、骨組みがあって、その上から粘土を重ねていく作業なので、作り方としては180度違うかもしれません。わたしが一番戸惑ったのはそこでした。「やるドラ」にアニメーションを入れるというときに、ゲームは作りながら考えなければいけないのに、アニメでは作ったものは動かせない。アニメの演出を解体するところから始めなければいけなかったんです。
この違いが分かっていれば、いろいろなものができると思います。キャラクターものであれば、キャラクターだけをピックアップして、シューティングゲームだろうがアクションゲームだろうが作れると思うんですが、そこでストーリーを生かそうと思うと、そういう構造を知らないといけないんです。そうでないと絶対に失敗しますね。
須田 制作期間の違いもあると思いますが、かかわっている人数が圧倒的に多いですよね。アニメの場合は。最初が変化してしまうと、全部に影響を与えてしまう。
藤咲 アニメ制作現場の方が、システムとしてできあがってるんでしょうね。ゲームの方はハードが変わるたびにシステムが変わるので、そのたびに臨機応変が求められます。それに業種が増えてますよね。最初はプログラマーとデザイナー、企画、グラフィッカーに加えてサウンドを担当する人がいればよかったので、4つの構成要素がそろえばゲームが作れました。
須田 企画だけを担当する人もいなかったですよね。
藤咲 ええ。プログラマー兼企画という人がいればよかったですね。アニメも最初は、絵を描く人兼監督、といったペーパーアニメの世界に近い状態だったんだと思いますが、それが細分化されていって人が増えていくにしたがって、システマチックになったんでしょう。ゲームも細分化されるにつれてシステマチックになるんでしょうけど。
ただ、最近アニメの本数が非常に増えてきて、昔のゲーム業界のように感じますね。質・量ともに下がっていったような。本数が多く出ているのに作り手がいないので、劣化していくだけですね。このままではアニメはやばいと思います。どこかで本数を絞ってくれないかなと。クリエーターは量産されませんので。ゲームはハードが世代交代して、一極集中になってますね。大作主義というか、売れるものは大作に絞られていて、ライトユーザーはほかを見なくなっているという。アニメもそうなってしまうのかなあと。いまもメジャーなものしかみんな見ませんよね。ジブリのアニメは見るけどほかを知らない、みたいな。マニアですら全部追えません。
須田 深夜アニメは確かに見ないですね。
藤咲 前は、全国ネットで放送しているものに加えて、NHK BSとWOWOWくらいをチェックしておけばよかったのが、CSやケーブルTV系に加えて地方U局もありますし。
須田 地方U局だけというアニメもありますよね。それがまた結構おもしろい、という。
藤咲 ただしクリエーターはいないので、2年後くらいには崩壊しているかもしれない。正直な話。何か考えないといけないでしょうね。特に週間で放送しているものは厳しいでしょうね。来年動いているアニメは3ケタを超えるというウワサもありますが、そんなにクリエーターどこにいるんだろう、という。
須田 我々が中学生くらいの時って、新作アニメなんて10本なかったですよね。
藤咲 金曜日の4時半くらいに帰ってきて、2時間くらいTV見るだけで十分に追えた。いまは選択肢が多すぎてダメですね。
――「BLOOD+」はいよいよクライマックスが近づいていますが、終わったあとは何をされるとか決まっていますか?
藤咲 本を1冊書く時間くらいあるのかなぁ。時間を見つけるのが大変ですが。ただ、自分でもアニメ作品から離れたものを作っていかないと活性化されないですね。1つのことに凝り固まっちゃうんで。企画を作りながら次の仕事に入っていこうかなと思っています。
――須田さんの今後についてはいかがでしょう。アニメーションとのコラボのようなゲームとか……。
藤咲 ガンダムのゲームを出してくださいよ(笑)。
須田 実はこの前、(機動戦士Zガンダムに登場する)ヤザン・ゲーブルを主人公にしたガンダムゲームの企画書を出したんですが、却下されました(笑)。アニメはすごく好きな世界ですので思い入れはありますし、いつか担当したい分野ではありますね。ロボットものを作りたいんですよね。オリジナルで。
――では最後に、アニメの「BLOOD+」そしてゲームの「One Night Kiss」の見どころなどを語っていただけますか。
須田 「One Night Kiss」は、Production I.Gのタイトルをゲーム化する、ということを意識していました。先ほど監督も述べられたとおり、どんな内容を作っても許されるところもありましたので、逆にこちらが見られているな、という感じは受けていました。ですのでProduction I.Gへのラブレターではないですけど、ゲームからオリジナルシリーズへのラブレターの役割を担っていると思いますので。肉体的にも精神的にも、青山がどれくらい小夜に迫れるのかを見てほしいですね。そこを楽しみにしてください。
藤咲 脚本は50話終わっていて、絵コンテが上がってくるのを待っている段階ですが、予想外にキャラが立ってきているので、どうやって送ってあげるのがいいのかなあと。そこで悩んでいます。シュバリエですとか。キャラクター全部にとは言えませんが、一応ゴールは作ってあげられたと思っています。見ている方の中には納得できない人も出るかもしれませんが、わたしとしては、最初に作ろうと思っていたことからは変えていませんので。「BLOOD+」の物語としては、50話で完結です。
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