「ファミスタ オンライン」はなぜこれほどまでに愛されたのか?(2/2 ページ)
誕生から20年目にしてオンラインゲームとして生まれ変わった「ファミスタ オンライン」は、サービスを提供しているハンゲームにおいて最速記録で50万人を突破した。なぜここまで愛されたのか? NHN Japanの瓜生貴士氏に話を聞いてみた。
―― そもそも本作を開発するに至った経緯が奇跡的な出逢いからだとうかがったのですが。
瓜生氏 当時はまだナムコさんでしたが、バンダイナムコゲームスさんからなにかオンラインゲームを作りたいと相談にいらしたのが始まりでした。実はその前週に昔の良質なコンテンツをオンラインサービス化して、ハンゲームの中でやっていきたいという旨をちょうど会議にかけておりまして、特に「ファミスタ」のようなものが事業化しやすいと話していたんです。来社されたのが、野球セクションの方々だったので、「ファミスタをやりたいのですが」と逆提案したというわけです。ナムコさん側はもっと高機能なものをと考えていらして、もっといろいろできますよ? といったお話でしたが、その時にもう自分の中に絵ができあがっていたので、「ファミスタで!」と1時間くらいかな……。打ち合わせも弾んで「じゃあ、やりましょう」と勢いづいたわけです。あとは数字を叩いて経営陣を納得させればOKというところまで……でも、この納得させることが大変だったんですけどね(笑)。やはりコンシューマのメーカーとは今までお付き合いがなかったので、ものの考え方も違うし、お互い理解していく作業が大変でしたね。もし、あの時ナムコさんがいらしてなかったら、きっと自分の方から翌週にでも出向いていたと思います。それくらい奇跡的な出逢いだった。
―― そこからはとんとん拍子に?
瓜生氏 経営陣を納得させるのに、実は数カ月要しました。途中バンダイナムコゲームスさんへとなる合併がありましたし。開発がスタートしてからはものすごいスピードで進んでいきましたね。
―― 「ファミスタ」をサービス化するのにやりやすいゲームでしたか?
瓜生氏 やりやすいですね。いきなりオープンサービスだったでしょ? 試験運用するまでもなく、いきなりサービスイン。初日で6万アクセスくらいあったのですが、そのくらいの規模のものをなんのテストもなくサービス開始したのは始めてのことでした。周囲からは暴挙に出たと言われましたよ。ただ、CMなどはすでに流れているのに、遊べないのはありえないという考えがあって、オープンさせました。開始直後の3時間くらいは不具合をその場で修正してという作業をしていました。それでも4時間目くらいから安定してきて、その後今に至っています。ですから内部ではわずか4時間のクローズドβテストと呼んでいるくらいです。ゲームバランスも最初の1週間でアップデートをかけることができました。
―― 開発との密な連携がないとできないことですよね?
瓜生氏 NHN Japanのフロアにバンダイナムコゲームスさんの開発陣の席を設けたんです。隣同士で、同じユニットとして、今何をすべきか、何をしているのかと意思統一できたことが成功の秘訣だったのではないかと思います。
―― 実際に課金に至ってみて、どのような印象を持っているのか、また今後どのようにビジネスを進めていくのですか?
瓜生氏 課金に関しては反発もあるかなと思っていましたが、印象としては比較的受け入れられたのかなと。ゲームに深みを与えるという点で、ユーザーが上手に課金を利用してくれたんじゃないかと思うんです。コンセプトは“必要じゃないけど欲しいものを作る”ことでした。“必要だから買わなきゃいけない”と思わせては、それはもはや月額課金と一緒です。基本的には必要じゃないけど、もっと楽しみたいからちょっと買ってみようと思うものをアイテムとして取りそろえました。ただし、小学生や低年齢層のお客様にはやはり抵抗があるようで、そのへんからは厳しい意見をもらっています。
―― 11月1日の大型アップデートにより導入されたサービスやアイテムで反響のあったものはなんですか?
瓜生氏 ビジネス周りでは、ちょうどシーズンが終わり、日ハムの小笠原選手が巨人に移籍されるにあたり、カードが販売中止となった時は盛り上がりましたね。当然、プロ野球機構様からライセンスを受けているタイトルなので、移籍するにあたり選手はカタログから抜けていくのですが、小笠原選手がなぜいなくなったのかと。まだ松坂選手はいるけどどうなんだ? とかね。実際、アイテムよりは選手やアシストカードが手に入るファミスタルーレットにお金を使う方が多いようですね。本作は、誰かに勝とうとか強くなろうというところを重要としてなく、友達とちょっと遊ぶくらいがちょうどいいんです。だから強くなるアイテムは積極的に押し出していない。まあ、半年や1年くらい経って必要性があったら購入してくれるかもしれませんが。
―― 「ファミスタ」が始まったことでNHN Japanになにか影響はありましたか?
瓜生氏 (コンシューマゲームだったものをオンライン化するという)実績となったことが大きいですね。NHN Japanはあまり外部に積極的に情報を開示してなかったのですが、昨年から対外的な活動が多くなっています。機能も充実してきた中で、NHN Japanの顔が見えてきたんじゃないかと。20年、30年かけて育ってきたメーカーから見れば、新興である我々が敵なのか味方なのか分からなかったんでしょう。オンライン機能のついたプラットフォームはすでに存在しているし、ある程度クローズドのアーキテクチャーで育った才能もあったはずです。プレイステーションやプレイステーション 2だからこそのゲームもありますが、PCで成功した事業やメーカーはそれほど多くないという現実に気がついた。これは、欧米に比べて遅れてるんじゃないかと。一方で、韓国はPCとオンラインを武器にめまぐるしく成長しており、日本のメーカーがそれに気づいた時には、目の前にプレイステーション 3やWiiがあり、身動きが取りづらいという状態です。そんな時に積極的に展開するNHN Japanの存在に気がついてもらえたんじゃないでしょうか。
―― 実際、「ファミスタ」に留まらず、「メテオス オンライン」などコンシューマメーカーとの良好な関係が続いていますね。
瓜生氏 我々も、日本にある良質の才能と手を組まないと生きていけないと知っています。ですから、弊社からはゲームの内容には口を出さず、サービスだけに集中しています。我々はバンダイナムコゲームスさんが思う最高のゲームを作ってくださいと。一方で、オンラインに関しては任せてくださいというスタンスなわけです。餅は餅屋という言葉がありますが、それぞれの責任をまっとうできたのが成功できた理由じゃではないかと。「ファミスタ」の成功を見て、NHN Japanとなら事業を展開できるんじゃないかと分かってもらえたのが大きな変化ですね。
―― すでにオンラインゲーム事業も飽和状態となっていますから、ひとつ違う展開を見せられたというわけですか。
瓜生氏 確かにインターネットでユーザーを獲得するのは難しくなっています。Web2.0は究極のCtoCになるわけだし、事業主としては困りものでしょう。できればいろいろ先んじていたいという思いはありますが、個人的には“寡占市場の業界は絶対に育たない”と思っています。他の事業社さんにもよきライバルであってほしい。先行するのは大事ですが、継続がもっと大事なのです。世間一般的にハンゲームがリードしていると思われていますが、あしたは足下をすくわれるという危機感をもってやっています。
―― オンラインゲーム市場の今後の見通しは?
瓜生氏 オンラインゲーム市場で考えると、国内においてはポテンシャルばかりが評価されてて、業界規模はまだたいした金額になっていないのが現状です。個人的にはここ数年で3倍は成長すると思っていますし、PC環境の変化などのきっかけがあれば、それ以上の市場に育つ可能性を秘めていると思っています。しかし、それだけ大きな市場になるということは、別の市場を食うことになる。別の市場が何になるのか、携帯なのかコンソール機なのか、また別の市場なのかは分かりません。5年前こんなになるとは思っていなかったでしょ? 5年後にも同じことを言ってるのではないかと思うのです。
―― 発表会では今後もさらに家庭用ゲームをオンラインゲーム化するという興味深い発言をしていましたが?
瓜生氏 計画はありますし、何社かとはコンタクトをとっている状態です。我々がいろんなメーカーにプラットフォームや、サービスする機会をご提供するのはポータル事業者の責任だと思っています。我々としては、ひとつでも多くのタレントに我々の舞台の上で活躍してもらうことを祈っているんです。
―― 瓜生さんがオンラインで興味のあることは?
瓜生氏 本当に興味あることは次にやることなので言えません(笑)。ただ、漠然とですが、市場にMMORPGが多いと思いませんか? 市場が大きくなる際には起きることですが、これからは淘汰の時代に入り、そのあとクオリティに投資する時代が来る。今は手数であったり勢いとか、短期的な戦略が多く見られるので、ユーザーに愛想をつかされる前に次のムーブメントを起こそうかなと目論んではいます。
今後オンラインゲームは両極端に進化していくと予想する瓜生氏。コンシューマがたどり着いた超大作かお手軽ものかという潮流がオンラインでも起こりうるとのこと。ただ、瓜生氏自身はなにかに特化した特徴的なものが好みなのだとか。
「ファミスタ」は、ちょっとした時間の合間や、生活の中でのワンセンテンスになるものという思想から生まれた。やはり、“野球”という言葉に感度が高い人たちが一番モチベーションが高いのだとか。
瓜生氏は最後にカジュアルゲームに戦略らしき戦略はないと付け加える。ゲームが面白いからそのあとに戦略と数字と結果がついてくるのだ。いちプロデューサーとしては、本当に面白いコンテンツを作るのが永遠のテーマであり、これからもユーザーに楽しんでもらえるものを作っていくことがあくまでも基本なのだと、大事なことは忘れていない。しかし一方では、ポータル事業社としての見解として、「クリーンコミュニティ宣言というのをやっているのが、やはり安心して遊べることが大事であり、そういうものもゲームの設計思想として持たないといけないと開発、運営チームに啓蒙していく」のが役目なのだと答える。カジュアルを具体化するには、面白いし安心というものにしないといけない。これは口に出すものではなく、見てわかるものだとか。それがカジュアルだと瓜生氏。説明などしなくても“いいよね”といえるものがカジュアルであるべきなのだそうだ。
何をもってカジュアルなのか? そんなことを考えさせてくれる今回のインタビューを瓜生氏は「いい距離でゲームとつきあってもらいたい。それがないと生きていけないというものは作りたくないので、“いい距離”で“末永く”楽しめるゲームを作っていきたい」と締めてくれた。
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