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北米のゲームプロモーションは日本と同じなのか?くねくねハニィの「最近どうよ?」(その6)(2/2 ページ)

海外のゲーム動向で日本の市場が見えてくる。2007年もゲーム業界にするどくメスを入れるハニィの「最近どうよ?」6回目は、新年のご挨拶とともに“ゲームの売り方”についてまとめてみたのでよろしこ。

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雑誌とWebサイト

 テレビCMはコストが高いので、よほど大きなタイトルでもない限りはやらないことも多いのよ。その場合は日本同様Webや雑誌の広告枠や記事稿を駆使して告知をするわけですよ。

 ゲーム専用雑誌ってのがありますね〜、アメリカにも。日本と違って国土が広いこととか、もろもろの事情で、週刊ってのはちょっとムリなのね。なので月刊のプラットフォーム(ハード)別のものが主流なんだけど、発売直前とか既に発売済の数タイトルの体験ROM(デモともいう)がついていることがあって、体験版に採用してもらうためにパブリッシャーは相当な営業活動をするわけよ。この体験版、毎月数タイトルがピックアップされて1枚のROMに焼くオムニバス形式が取られてるのね。タイトルの第一ステージだけとか、キモになる部分だけとか、タイトルによってどうユーザーにアピールするかを鑑みて入れられるんだけど、1タイトルあたりの容量が決められていて、マーケッターと開発者とのディスカッションで決められることが多いの。

 発売後に体験版ってのも「はぁ?」って感じだけど、CMのところでも言ったように、体験して楽しかったからすぐ買いに行く! ってことを考えれば効果的なのかも。でも、準備するパブリッシャー側は大変。だってさ、このROM素材とか記事素材、3カ月前とかに要求されるんですわ。日本だったらそんなにリードタイムはかからないし、タイトル発売前のROMだから「このソフトは開発中のものです」って言い訳が利くけど、北米の場合はその時点で完成品が世に出てるってことを考えると、クオリティ的にも最終版と同様のものを持ってこなきゃいけないってこと。発売から3、4カ月前って、結構磨きあがってないものだから、バグ取りも含めて体験版のためだけに作業が発生したりするよね。その価値があるからやるんだからしょうがないといえばしょうがないんだけどね。海外で体験版を考えていらっしゃる方々はどうかピリピリしないで、体験版の開発スケジュールにお気をつけくださいませ。

 雑誌側が記事に関してエクスクルーシブ(独占)を要求したがるのだけは日本と同じ(笑)。タイトルのジャンルやカラーを見てうまく振り分けるってのがパブリッシャーの仕事になるわけですな。あ、これは日本でも同じだったわね。アメリカではWebサイトが大きなメディアなので、雑誌同様の対応を求められるの。エクスクルーシブに関してはこちらも同じだわよ。パブリッシャーが望む「○日に一斉に!」ってのはなかなか難しいみたいよ(笑)。

 ゲーム専用Webサイトは北米で大きなメディアになってるの。大きなサイトがいくつかあるんだけど、ユーザーがゲームを買う前にチェックするところでもあるのね。Previewと言って、発売前にゲームをプレイしてみた記者による点数やコメントが書いてあったり、発売後になるとReviewがあがってくる。すでにプレイしたユーザーが点数をつけたり、内容について書き込みをしたりしてて、ゲバ評をある程度図れるところでもあるのね。そういう意味ではパブリッシャーとしては無視できないメディアになってるから、素材を送るとか取材を受けるとかってのは積極的に行っているところだよ。

 また、そのゲーム専用Webサイトにバナーを貼ってもらって、パブリッシャー側で準備したタイトル独自の専用ページに飛ばすってことも頻繁にされているのね。その独自ページ上でFlashゲームで体験させるとか、ムービーシーンをダウンロードまたはストリーミングで見せるとか、攻略方法の紹介とか、充実させてますよ、ホント。日本でも行われてることだけど、ユーザーがアクセスする頻度がとても高いので、必ずと言っていいほどパブリッシャー側は専用ページを作っていることが多いの。最近では、この専用ページ上でユーザーがコメントを書き込めたりってのがメジャーになりつつあって、ユーザーコミュニティになってる場合も多いのよ。マーケティング担当者がユーザーの生の声を吸い上げる場所でもあるわけですな。

 Webプロモーションの最近の流行(?)としてはViral Marketing(バイラルマーケティング)ってのが取りさたされてるのね。バイラルとは「ウイルス的に」って意味で、直接大多数のユーザーに働きかけるのではなく、少数のユーザーに対して行って、その紹介、推薦を期待して情報の繁殖を図るマーケティング手法のこと。通常は単純なE-mailやウェブサイトから派生することが多いんだけど、有名な例で言うと、マイクロソフトさんが「Halo 2」の時に行ったのが異例なことで有名。一見無関係に思えるWebサイト(Ilovebees.com(ミツバチ大好き))などが実はHalo2のプロモーションへと導かれていくという手の込んだ仕掛けに、ユーザー間で口コミで広がったという成功例もあるんだよね。手が込んでます。

小売店でのPOP広告

小売店は強し

 第4回「最近どうよ?」でも語ったけど、海外では小売店がとても強いのよね。ゲーム小売店に貼るポスターやチラシ、POPカンバンなどのPOP素材は、もちろんパブリッシャー側で準備するのね。ところがこのPOP、小売店に置いてもらうためには、パブリッシャーが小売店に対してお金を払わなきゃいけないの。いわゆるショバ代。衝撃的だよね〜。パブリッシャー側が準備したPOP素材を置くための「見積書」があって、ちゃっかり請求されるんですわ。無料の体験版などは、小売店からすると、場所を取られ、在庫管理も発生しているのに売上に結びつかないので、嫌がられることが多いの。

 パブリッシャーからすると、POPを準備するコストに加えて、それらを置くためだけにもコストがかかるってこと。作ってもおいてもらえるかどうかは小売店の判断だし、置いてもらうにしてもお金がかかるってことを考えると、北米のゲームマーケティング担当者って大変だよなぁって思っちゃう。「POPとかバンバン作っておいてもらえ!」なんて簡単に言うけど、タイトルの強さや競合タイトル状況によってはそう簡単にいかないこともあるわけで、小売店のバイヤーとの関係やパブリッシャーの営業担当者の営業力も問われてくるんですわ。

ハニィのあとがき

 北米ゲーム市場は大きな市場に成長しているとは言え、日本ほど国民的にゲームのことを知っているってほど市民権を得ているわけではないの。日本で「ポケモン」の映画やアニメが上映されれば、任天堂さんのゲームが元になっているってのはなんとなく常識となっている。でも、海外では映画やアニメの「ポケモン」が最初にできたプロパティで、そのライセンスを受けて任天堂さんがゲームを作ってる、って思ってる一般ピープルが少なくないの。

 これは、映画やアニメのライセンスを元にしたゲームが多かった北米の慣例から来ているってこともあるけど、実際にゲームから発信されたオリジナルコンテンツを多くの人に認知してもらうってのがとても難しいってことなんだよね。ゲームコンテンツのステイタスを上げることによって、さらなる市場の成長の可能性があるって言う前向きな見解にもつながるんだけどね〜。

 国土の広さといい、テレビの環境の違いといい、小売店の強さといい、日本とは大きく異なるのだ。そんな中で、ユーザーに対して的確で効果的なプロモーションをしていくのは大変なことだけど、チャレンジングでやりがいのあること。北米のパブリッシャーは、タイトルのジャンルやユーザーターゲット層に合わせたプロモーション策をていねいに練っているのよね。

 そういう意味では、ユーザーがどこにいてもオンタイムで見れて、パブリッシャー側もコストがそれほどかからないWebプロモーションが中心になるのはロジックが通ってるとも言えるんだよね。開発サイドとしては綿密に、かつ用意周到に練られたプロモーションプランに合わせて、オンタイムでアップすることを一番に考えなきゃいけない。少しでも遅れれば、発売予定日のずいぶん前からプロモーション計画を練っているマーケティングをいっぺんで壊してしまうことになりかねないもんね〜。

気がついたら節分も近い……鬼は外、福は内!

 ソフトのクオリティだけで売れるってほどアメリカは狭くないのだ。マーケティング、プロモーションとのコラボレーションをもって初めて知名度を上げる、ひいては売る、ってことができるってのを肝に銘じないとね。ハニィも締切を守って原稿を書こうとつくづく思うのであった(思うだけではダメだ……涙)。

くねくねハニィのプロフィール

1967年アメリカサウスダコダ生まれの日本人。

小学生からはゲームセンターに通いまくって育つ。

1990年に都内K大学を卒業後、大手ゲーム会社にて海外ソフト担当となり、2001年に退職。それ以降は自称フリーのゲームアナリストとして暗躍。暗躍しすぎたので名前を変えて表舞台に。くねくねと唐突に現れて「親父ギャグ」をかまして周りの人々のレベルを下げまくる困ったやつ。独特の口調ですが、慣れてください。言ってる中身は至極マジメです。ちなみに「風来のシレン」が好物で、名前もそこから借用。この度、なんだか公認してもらったそうですが、どういう経緯でそうなったかはよくわかりません。今回締め切り、ちょっと遅れました。


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