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元刑事カイル・ハイドの過去と現在を紡ぐ物語「ウィッシュルーム 天使の記憶」レビュー(1/2 ページ)

ロサンゼルス郊外にたたずむ赤レンガのホテル・ダスク。ここには泊まると願いが叶うと噂される部屋がある。元刑事のセールスマン、カイル・ハイドはこのホテルで奇妙な一夜を過ごす……。個性的なイラストに目が釘付けになるミステリーアドベンチャー「ウィッシュルーム 天使の記憶」。その抜群のセンスに、酔いしれてしまう。

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アドベンチャー黄金期の流れを汲むタイトル

 1980年代はPCのアドベンチャーゲームが全盛期を迎えた時代だった。そのころリバーヒルソフトというソフトハウスが硬派な推理アドベンチャーで人気を集めていた。アメリカの大都市を舞台に刑事J.B.ハロルドが殺人事件を推理するJ.B.ハロルドシリーズ、大正浪漫あふれる時代を背景に、閉塞的な空間でもつれた事件の糸を解く「琥珀色の遺言」、「黄金の羅針盤」の藤堂龍之介シリーズ。これらはゲーム史に名前を残す名作シリーズだ。

 そのリバーヒルソフトの流れを組む開発会社がシング。シングは2005年2月にニンテンドーDSでアドベンチャー「アナザーコード 2つの記憶」(以下、アナザーコード)をリリースしている。アシュレイという少女が洋館を探索する「アナザーコード」は、キャラクターの魅力と世界の雰囲気の良さが光っていた。マイクやタッチ操作を使ったニンテンドーDSならではの謎解きもプレイヤーを驚かせた。ただ、この2つの要素がお互いにぶつかり合ってしまい、「謎解きが唐突で世界から浮いている」、そんな評価も聞かれた。しかし、今回の「ウィッシュルーム 天使の記憶」(以下、ウィッシュルーム)は、仕掛けが作品の雰囲気を壊すことなく、両者の融合が実にうまく行っている。

 なんといっても必見はそのグラフィックだろう。ノスタルジックなアメリカンテイストのイラストが、非常に新鮮に映る。キャラクターは鉛筆でざっと描かれたラフ画のようで、アニメーション演出もセンス抜群だ。ニンテンドーDSを縦に持つプレイスタイルも工夫されている。ゲーム自体が独特の存在感を放っているのだ。

 ゲームデザイン&シナリオ担当はJ.B.ハロルドシリーズ、「琥珀色の遺言」、「黄金の羅針盤」も担当した鈴木理香氏。ディレクター&キャラクターデザインは金崎泰輔氏。「アナザーコード」に続いてコンビを組んだ2人が、「ウィッシュルーム」で高い作品性を生み出した。

画像 まるで文庫本を読んでいるようにニンテンドーDSを縦に持ってプレイするウィッシュルーム。メッセージ送りはタッチ以外に十字キーでもできる
画像 左右の画面に人物が表示される会話シーン。セリフはその人物の下に出るので、とても分かりやすい

殺人が起きないミステリー

 ――1976年12月24日。ニューヨーク市警の刑事カイル・ハイドのもとへかかってきた1本の電話が意外な事実を告げた。カイルの同僚で親友のブライアン・ブラッドリーが、おとり捜査中の犯罪組織と通じて裏切ったというのだ。カイルは埠頭にいたブラッドリーを発見し、引き金を引く。ブラッドリーは海に落ちたが、結局死体は見つからなかった。カイルはこの件で警察を去る……。

 それから3年経ち、カイルはマンハッタンを離れて、西海岸のロサンゼルスで、家庭用品の訪問販売の会社・レッドクラウン商会のセールスマンになっていた。今でもブラッドリーを探し続けるカイル。「そうだ、ブラッドリー、お前を見つけ出すその日までは……」

 1979年12月28日。社長のエドの裏稼業、“いわくつきの探し物”を手伝うことになったカイルは、指定されたホテルへ行く。ロサンゼルスからラスベガスへ向かう道路沿いに建つ寂れたホテル・ダスクには“願いが叶う部屋”があると囁かれる。そこで待っていたのは、探し物だけではなかった……。

画像 1976年、89分署の刑事だったカイルは相棒のブラッドリーが裏切ったという知らせを受け、彼を撃ってしまう
画像 今はうだつのあがらないセールスマンとなったカイル。二日酔いでオフィスに連絡するなど、あまり仕事熱心ではないようだ

 舞台はロサンゼルス郊外にポツンとたたずむ2階建てのホテル・ダスク。部屋は11室、従業員も3人しかいない小さなホテルだ。当然、探し物も楽なはず……だったが、半年前にカイルと同姓同名の人物が泊まったという事実を聞かされたのをきっかけに、事態は意外な方向へ転がり始める。

 口がきけない少女がつけていたブラッドリーと同じブレスレット、3年前にマンハッタンから離れた元スリとの再会……。

 偶然に思えたすべてのできごとは、ある一点へつながっていく。

 CMなどのキャッチコピーでは「DSで、ミステリー」とされているものの、犯人を当てる探偵ものではない。しかし、絡み合う糸をほどき、ひとつの真実にたどり着く展開は、まさにミステリー小説の読み味に近い。小説や映画ファンにも満足してもらえるだろう。

ホテルで交わす会話に真実の糸口が……

 ゲームシステムはホテルの中を歩き回り、会話したり、アイテムを探したりするオーソドックスなアドベンチャーとなっている。1979年12月28日の夕方から始まり、翌朝までの一夜をカイルとして体験することになる。

 ホテルの客やスタッフとの会話で、二択の選択肢を選ぶシーンでは、選択肢によっては相手が機嫌を損ねてしまい、必要な情報が得られない場合があるので注意が必要だ。たとえばボーイとの会話で「何か企んでいるのか?」、「何かあったんだろう?」のどちらかを選ぶとき、前者にすると好感度が下がってしまう。

 あまりに機嫌を損なうと相手に反感を買い、結果マスターにホテルを追い出されてゲームオーバーに……。選択肢によっては一発ゲームオーバーの危険もある。相手の気持ちを考えてうまく話を聞き出そう。

 また、ときどき会話中に出る黄色い三角マークは、タッチすることでそのセリフについて詳しい質問をぶつけることができる。気になった箇所はどんどんと突っ込みを入れよう。

 アドベンチャーとしてはオーソドックスなシステムであるが、ホテルの人々と実際に会話を交わす感覚が味わえる作りとなっている。

画像 ホテル内の移動画面。右のマップ画面で行先をタッチして移動する。赤い○はカイル、青い○はほかの人物を表している
画像 会話の内容によっては、カイルの頭に疑問が浮かぶ。左画面上部に表示されるので、ストックした疑問は会話が一段落したら相手に聞こう
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