あの「FFT」が10年ぶりによみがえる!――楽しいゲームは、いつ遊んでも良いものです:「ファイナルファンタジータクティクス 獅子戦争」レビュー(1/3 ページ)
「ファイナルファンタジー」シリーズの中でも、外伝的なタイトルであった「ファイナルファンタジータクティクス」が、10年の時を経てPSPに移植された。装いも新たになったシミュレーションRPG、傑作と表される本作を遊んでみました。
「FFT」のルーツは「タクティクスオウガ」から
1997年にプレイステーション版として発売され、大ヒットを飛ばした「ファイナルファンタジータクティクス」(以下、FFT)が、このたびPSPにて登場。「ファイナルファンタジー」の名を冠しているものの、既存のシリーズ作品とは異なり、外伝的な作品であるこの作品は、3Dとリアルタイムのアクションが全盛だった当時、じっくりと腰をすえて楽しめるシミュレーションRPGとして楽しめる希少な作品だった。
実はこの「FFT」は、スーパーファミコンで発売されてカルト的な人気を博した「タクティクスオウガ」の主要スタッフが手がけている。その血脈を受け継いでいるという点で、「FF」ファンのみならず、「タクティクスオウガ」ファンからも非常に注目されていた。
「タクティクスオウガ」は、エポックメイキングな作品だった。味方をいっせいに動かし、行動終了したら敵の番、という従来のターン制とは一味違うシステム。祭り上げられた英雄の苦悩や、歴史では描かれない戦争の暗部を鋭く描いたショッキングなストーリー展開。強力なユニットが揃うと若干大味になっていったものの、ゲームとしての完成度も高く、その後のシミュレーションRPGに大きな影響を残した作品だった。
当然筆者もファンのひとりだったが、ドロドロのストーリー展開に魅了されつつも、ゲーム的にはかなりのボリュームがあったため、忙しさにかまけて未クリアで放置してしまった思い出がある。
では「FFT」はというと、ジョブやアビリティといった「FF」らしさで包まれてはいるものの、作品が持つ空気はまぎれもなく「タクティクスオウガ」と共通のもの。賛否両論を受けたものの、コアユーザーだけでなくライト層も巻き込んで、シミュレーションRPGとしては異例の累計130万本もの大ヒット作となったことからも、作品としての完成度の高さはうかがえるだろう。
というわけで、10年の歳月を経てよみがえった「FFT 獅子戦争」。「タクティクスオウガ」を知る世代としては、以前のようなカルチャーショックを受けられるかどうか、非常に興味津々だ。本作ならではの新要素を含めて、チェックしてみよう。
繊細なタッチのグラフィックとは裏腹のハードなストーリー
本作の魅力であるストーリーは、数々の英雄たちが、きれい事だけでは済まされない戦争に巻き込まれていく様を描いたものだ。ざっと背景を紹介すると……。
五十年戦争と呼ばれる戦いに敗れ、わずか2歳の少年王が即位した国・イヴァリース。王妃による支配を恐れた議会は、国きっての実力者である王妃の実兄・ラーグ公を排斥、先王の従弟にあたるゴルターナ公を摂政に任命する。有力貴族の大半はゴルターナ公を支持するが、五十年戦争で疲弊し、地位も名誉も失った没落貴族や騎士たちは、こぞってラーグ公に味方した。
黒獅子を紋章とするゴルターナ公と、白獅子を紋章とするラーグ公。五十年戦争で活躍した将軍でもある2人の激突が、後に“獅子戦争”と呼ばれた戦いである――。
こうした状況の中、武門の棟梁として名高いベオルブ家出身の主人公・ラムザと、平民の出ながら、ラムザの父により引き立てられた幼なじみのディリータの2人を中心にストーリーが進行していく。
実に魅力的なストーリーだが、実はプロローグからチャプター1にかけて、過去と現在が錯綜する、という展開になっている。こうした手法は昔からあるものの、かなり分かりにくい展開となっており、正直驚いた。こんなんだったけ? もうちょっとフリがあるだけで、素直に受け止められるのに、というのが筆者のいまさらながらの正直な感想だ。
序盤の展開ではそれほどでもないが、ゲームを進めるにつれ、ショッキングな描写も増え、ストーリー展開やセリフ回しも難解なものが目立つようになる。「タクティクスオウガ」体験済みの筆者にとって、ドロドロしたストーリーはむしろドンと来いなので、まったく問題なく楽しめた。だが、デフォルメの効いたキャラクターから、ライトなイメージを想像している人たちは、実際はやや大人向けの作品ということを覚悟しておかないと、少しショックを受けるかもしれない。
ストーリー展開と関連して、2頭身のキャラたちが細かく動くイベントシーンの質の高さも注目だ。昨今の3Dブームにも関わらず、「FFT」のキャラクターはドット絵で描かれている。そのしぐさや表情の変化、なびく髪や服といった描写は、思わず“これぞ職人芸!”と、うなってしまうほど。このキャラの動きにノスタルジーを感じる人も多いと思うが、今でも十分に通用する確かな技術ということで注目してもらいたい。
また、PSPに移植されるに当たり、幕間に挿入されるイベントシーンのいくつかが、新規にムービーとして起こされているのもポイントだ。キャラクターデザインを担当した吉田明彦氏のイラストそのままのキャラクターたちが、淡い色調の中でなめらかに動き回る美しいアニメーションは、まさに必見モノ。思わず手書きのアニメかと見まごうほど、繊細な3D(セルシェーディング)で描かれたムービーは、これだけで一本の作品として見てみたいと思わせるほどクオリティが高い。PS版プレイ済みの方にも、このムービーを見るために買いなさい、と言いたくなるほど気に入ってしまった。
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