動物の声まで録音し、細部にまでこだわって作り上げた7.1chのサウンド――「RISE FROM LAIR(ライズフロムレア)」:Factor 5現地取材リポート その3
最終回となる今回は、「RISE FROM LAIR(ライズフロムレア)」のサウンドについてご紹介していこう。THXの認証も取られているこのタイトルは、5.1chサラウンドだけでなく7.1chサラウンド対応となっている。
映画のような高品質サウンドを目指した――THXの導入
「RISE FROM LAIR(ライズフロムレア)」(以下、ライズフロムレア)では、1080pに対応していることもあるが、サウンドでも高品質を追求している。映画やDVDビデオなどで使われている「THX」の認証を受けているほか、5.1chサラウンドだけでなく、7.1chサラウンドに対応している。
「プレイステーション 3はホームエンターテインメントシステムの中でも最も進化したシステムだ」とFactor 5社長のジュリアン・エッゲブレヒト氏は語る。「パワーでもWii以上、Xbox 360と比較してもパワフルであり、最も重要な差別化ポイントとなっている」(エッゲブレヒト氏)。
サウンドでもビジュアルと同様に、映画のような世界を目指すためにハリウッドへ人材を求めた。「ライズフロムレア」の音楽を担当したのはジョン・ダブニー氏。「シン・シティ」や「ザ・パッション・オブ・ザ・クライスト」を担当したコンポーザーだ。「彼ならば、さまざまな音楽を作ることができるだろうと思った。アクションを含む部分だけでなく、エスニック的なものについても取り入れることができる人だと思ったからだ」(エッゲブレヒト氏)。
作曲したのは広範囲にわたる。ローマ帝国時代のようなイメージを持つアシリア帝国の音楽や、伝統的なアクションもののような音楽、モーカイ族のエスニックなものなど……。これまで聴いたことがないような楽器(グラスハープや中国の楽器など)を採用して、「ライズフロムレア」のサウンドは作られていったのだ。
こうしたアイディアはダブニー氏から出たもの。「彼はエスニック風の音楽を作ることができるだろうと思っていたものの、これまでと同じような音楽にはしてほしくなかった。ただしエスニック系の音楽については十分研究していることが分かっていたし、ゲームの後半部分には、風変わりというか、これまで聴いたことのないような音楽が必要になると思っていたので、ブレストをしたときにダブニー氏からいろいろなアイディアが出てきたのは喜ばしかった。選択したのは正しかったと思った」(エッゲブレヒト氏)。
音楽ディレクターのクリス・ヒュールスベック氏は「わたしがゲーム業界で仕事をし始めたときには、3ボイス(音)しか使えなかったりと、技術がまだまだ限られていた。いまではオーケストラの音がサラウンドサウンドで収録できるまでになっているなど、品質が非常に向上している」と語る。
映画の世界ではすでに、高品質なサウンドが実現されている。それはTHX。第1回でも解説したように、「スター・ウォーズ」シリーズでルーカスアーツとのつながりがあった彼らは、この技術をゲームの世界に持ち込もうと考えた。
「ただし、ゲームでは次に何が起きるのか分からない部分がある」とヒュールスベック氏。たとえば、道を歩いていて通りを曲がったときに、普通に歩いているときとは異なるアクションを求められる時もあるのがゲームの世界だ。そのときには、これまで流れていた音楽から次のステップに移行しなければならない。またもう1つのテクニックとして、2つのトラックを重ね合わせて音楽を流す場合もある。1つのトラックでは通常のBGMを流しながら、もう1つのトラックで、主人公の緊張感を表すようなサウンドを使うときなどを指す。
ちなみに、コンポーザーを捜していたのは2年ほど前から。ハリウッドで活躍している人に作曲してもらおうと思っていたものの、もちろん懸念はあったという。それは、映画を作曲しているような人に、上に挙げたようなゲームの細かい技術的なことまで理解してもらえるのか不安だったとか。このためかダブニー氏には、まずは音楽を作り上げることに集中してもらった、とヒュールスベック氏。それに加えて、ストーリーの構成や場面など、ダブニー氏が音楽を作る際のアイディアを提供することで、作曲がスムーズに行くようにしたそうだ。「我々のチームがダブニー氏の作曲した音楽を再構成することで『ライズフロムレア』の音楽はできあがった」(ヒュールスベック氏)。
加えて7.1chサラウンドになることで、その作業量は膨大なものとなっていった。ステレオサウンドに比べて6倍くらいのデータ量を処理しなければならなかった、とヒュールスベック氏。その努力もあって、「ライズフロムレア」の音楽はCDクオリティを超えていると自負する。「ライズフロムレア」ではアート集などのような特典要素のほかに、24ビット48kHzによるサウンドトラックを聴くことができるものも付属するとのことなので期待していよう。
ドラゴンの声は、実は……。
ところで、このタイトルでユニークなのがSE。「サンフランシスコ動物園で録音したんだ」とエッゲブレヒト氏は笑いながら語る。Sony Computer Entertainment America側のプロデューサーの友人がたまたま働いていたそうで、その人のコネでオリの中まで入れてもらい、実際の動物の“声”を収録し、その音をもとにさまざまなSEが作られているのだ。
「ライオンのうなり声と象の声、そのほかの動物の声を録音し、ソフトウェアでピッチを調整、融合させてドラゴンの悲鳴などを作った。聴いてみると『どこかで聴いたことがあるな』と思うかもしれないが、ちょっと違うものになった。ドラゴンの声は、主にライオンに加えてコアラの声も入っているんだ」(エッゲブレヒト氏)。
「ゲームの世界では、音楽や音響というものがあまり評価されていないように感じる」とエッゲブレヒト氏。「そのシーンにマッチした音楽が流れなければ、作品に感情移入することはできない。それにストーリーについても“何かから派生して作られたものだな”とプレーヤーが思ってしまえば受け入れられなくなってしまう」(エッゲブレヒト氏)。
これまでご紹介してきた「ライズフロムレア」の世界はいかがだっただろうか。取材して一番感じたのは、このタイトルに対するエッゲブレヒト氏の熱い思い。ストーリー、クリーチャー、音楽どれをとっても、とにかく詳しくビジョンを語るのはエッゲブレヒト氏だった。最後の締めくくりとして、エッゲブレヒト氏自身から「ライズフロムレア」のストーリーについて改めて語っていただき、この特集を終わることにしよう。
「ストーリーや世界を伝える上ではインスピレーションが重要だった。我々の世界でも同じだが、平和の時代と戦争の時代という繰り返し。そして現在では地球温暖化など、世界の破局とも言えるような問題も浮き彫りになっている。ファンタジーの世界でも、何か脅威に思えるものが必要だと考えたときに、“火山の爆発・噴火”をそこに取り入れた。これが原因で、宗教的な戦争につながるという流れを考えたのだ。こうしたことは普通、体験できないものだが、主人公・ロンを通じて、小さいレベルではあるが、似たような体験ができるのだ。ゲームスタート当初は善と悪が白黒はっきりと付けられている状態だったのが次第に変化して、ゲームの中盤に来ると、自分たちの行動が正義かどうかすら分からなくなってくる。ゲームの後半ではこうしたジレンマからどのように自分たちが解決していくべきなのかを考えるという、これまでのゲームにないようなストーリーが展開される。あるシーンでは街を爆撃することもあるのだが、テストプレイに来たユーザーの中に、ほんの数人だったが『関係のない人を爆撃で倒してしまうのはあまり感心しない』ということを言った人がいた。このようなことを考えてほしいために、我々はこのゲームを設計したのだ」(エッゲブレヒト氏)。
「RISE FROM LAIR(ライズフロムレア)」 | |
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対応機種 | プレイステーション 3 |
ジャンル | フライング・ドラゴンアクション |
価格(税込) | 5980円 |
発売日 | 未定 |
CERO | 審査予定 |
制作 | Factor 5 |
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